「Audi e-tron」、「Audi e-tron Sportback」に次ぐAudi第3の電気自動車である「Audi e-tron GT」がついに日本でも発売に。そのうち、電気自動車としては初のRSモデルとなる「Audi RS e-tron GT」をさっそく試した。

ご存じのとおり、「Audi e-tron GT quattro」とこのAudi RS e-tron GTは、いわゆる“J1プラットフォーム”を採用する電気自動車。「ポルシェ タイカン」とは基本設計を共有しながら、最新のAudiデザインをまとうことで、異なるキャラクターを手に入れている。

その概要は上記のニュースをご一読いただくとして、今回試乗したAudi RS e-tron GTは、その名前からわかるように、Audi Sportが手がけるRSモデルの一員としてプロデュースされたもので、最高出力は475kW(ブースト時)、0-100km/h加速は3.3秒を誇る駿足が自慢である。

タンゴレッドが鮮やかな試乗車は、オプションの21インチホイールが装着されるとともに、カーボパッケージにより実にスポーティな仕上がり。ルーフはカーボン製で、これにより10kgの軽量化が図られている。

RSデザインパッケージが選択されたこのクルマは、ファインナッパレザーのスポーツシートプロがフロントに装着される。ヘッドレスト一体型のシートは、レッドのステッチとハニカムパターンが実にRSモデルらしいデザイン。シートヒーターに加えて、シートベンチレーションも搭載され、一年を通じて快適なドライブが楽しめる。

バーチャルコックピットを標準搭載し、また、最新世代のMMIを搭載するコックピットは最新のAudiスタイルに則るものだ。ステアリングホイールのマルチファンクションスイッチやエアコンの操作パネルは見慣れたデザインで、利用頻度の高いボタンが物理スイッチを採用するおかげで、すんなり運転が始められるのがうれしいところだ。

ドアロックを解除し、運転席に身を委ねると、スタートボタンを押していないのに、クルマはすでに発進の準備が完了している。ブレーキペダルを踏み、シフトスイッチを手前にスライドさせてDレンジを選べば、あとはアクセルペダルを踏み込むだけだ。

まずは「COMFORT」モードのまま走ってみることに。ブレーキペダルから足を離すと、やや強めのクリープでクルマは動き出した(ホールドアシストを使わない場合)。さっそくアクセルペダルを軽く踏んでやると、2,330kgという決して軽くないボディが間髪入れず、しかも軽々と加速するさまに感心する。アダプティブエアサスペンションが標準装着されるAudi RS e-tron GTは、乗り心地は硬すぎず、柔らかすぎずの絶妙な味付けで、挙動にも落ち着きが見られる。路面によっては21インチホイールがショックを拾うこともあるが、RSモデルにもかかわらずおおむね快適な乗り心地が保たれるのには驚くばかりだ。

アクセルペダルはストロークの手前だけでも十分すぎる加速が得られ、街中から高速まで余裕のひと言。丁寧に右足を動かせば、それにあわせてAudi RS e-tron GTはラグジュアリーサルーン顔負けの上質な動きを見せてくれる。

一方、アクセルペダルを大きく踏み込んでいくと、Audi RS e-tron GTはその本性を見せ始める。瞬時に加速態勢に移り、スムーズかつすばやく目指すスピードに到達するのだ。アクセルペダルを奥まで踏み込めば、まさに上体をシートに押しつけられるような加速が味わえるし、走行モードを「DYNAMIC」に変更すれば、その鋭い加速に呆気にとられるほど。そんな状況でも、4輪がしっかりと大トルクを受け止め、ホイールスピンの兆候すら見せないのは電動quattroのすごいところだ。

quattroによるトラクションの高さはコーナーでも変わらず、コーナーの途中でアクセルペダルを踏み込んでいっても4本のタイヤがしっかりと路面を捉え、思いどおりのラインを描くことができる。アンダーステアやオーバーステアとはまるで無縁なのだ。

アクセルペダルを大きく踏み込むような運転スタイルでは“電費”の低下は免れないが、やや控えめな運転を心がければ、4〜5km/kWh台の電費は無理なく出すことができた。Audi RS e-tron GTの駆動用リチウムイオンバッテリーは、総容量93kWh、使用可能容量が86kWhであるから、5km/kWhを保てば5km/kWh×86kWh=430kmは走れる計算だ。

一方、「EFFICIENCY」モードを選ぶと、急加速をしないかぎりはフロントモーターのみでの走行になり、試しに70〜80km/hでおとなしく走行してみたところ、6km/kWhオーバーの電費を記録。頑張れば満充電から500km以上走行できるというのが実に頼もしい。

ところで、Audi RS e-tron GTは標準の状態では、アクセルをオフにすると惰力走行を続け、ブレーキペダルを踏むとはじめて回生ブレーキや機械式ブレーキが効くことになる。もしもアクセルをオフしたときにすぐに回生ブレーキを効かせたないなら、パドルを操作することで回生ブレーキの強さを「回生ブレーキなし」「弱め」「強め」の3段階で設定することができる(回生ブレーキの強さを自動的に調節する自動モードもある)。ただ、強めでも減速は穏やかで、いわゆる“ワンペダル”操作はできない。あくまで減速したいならブレーキを踏みなさい……という立場なのだ。

それはそれとして、Audi RS e-tron GTの加速と重量を考えると、もう少し制動力が高いほうが安心に思えた。試乗車には、制動力を高めながら、錆びにくく、ブレーキダストが少ないブレーキ タングステンカーバイドコーティングがオプション装着されていたが、できればさらに上のセラミックブレーキを選びたいところ。バネ下の軽量化にも寄与するはずで、さらに上質な乗り心地が期待できる。57〜62万円のオプションだが、1799万円という車両本体価格を考えれば、さほど高くないオプションだろう。

ということで、RSモデルにふさわしい圧倒的な加速性能と、ラグジュアリーサルーン顔負けの上質な走りを両立させるAudi RS e-tron GT。運転が好きな人をも納得させる、新世代スポーツサルーンの登場である。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Hiroyuki Ohshima)