Sモデルの場合、基本的にはハイパワーなエンジンにquattroが組み合わされるのが必須条件なので、あえて車名にはquattroの文字はありません。このS3 Sportbackも当然quattroです。
A3 Sportbackオーナーとしては、ダブルバーを採用するシングルフレームグリルやアルミルックのドアミラーカバー、S3のロゴが入ったブレーキキャリパーなど目を引くアイテムがたくさんあります。
しかし、全体としては派手すぎず、他を威圧するような雰囲気がないのはSモデルのいいところ。これなら、実はすごいクルマであることが、家族にバレません(笑)
インテリアも、最上級グレードのふさわしい上品なつくり。デコラティブパネルやエアコンの吹き出し口、スイッチ類などがさりげなくグレードされていて、A3 Sportbackオーナーとしては「このパーツほしい!」と思うほどです。
さらに、専用のスポーツシートがおごられていることに加えて、フラットボトムのステアリングホイールには大きめのパドルが備わっていたり、水温計がブースト計に置き換えられていたりと、とにかく、見れば見るほど涎(よだれ)が出てくるS3 Sportbackなんですが......。
そうはいっても、運転するまでは「ウチのA3 Sportback 1.4 TFSIがイチバン!」と信じている僕がいました(笑) 実際、1.4 TFSI CODや1.8 TFSI quattroに乗ったときも、「確かにいいけど、1.4 TFSIで十分」と思いましたからね。
S3 Sportbackに乗る前も、そんな印象を抱くんだろうなと予想していましたが......。いやあ、S3 Sportbackはちょっと違いました。
さっそく発進させると、ダイナミックサスペンションがつく1.4 TFSIはもちろん、スポーツサスペンションの1.4 TFSI CODや1.8 TFSI quattroよりも明らかに硬めの乗り心地にヤル気を感じますが、それでもショックは角が丸められているので意外に快適。道路の段差を越えたときのショックもさほどきつくありません。
乗り心地に関してはウチの1.4 TFSIが優っていますが、それ以外はS3 Sportbackの圧勝。プログレッシブステアリングがもたらすクイックなハンドリング、quattroならではの極めて高い接地感など、運転を楽しくする要素に溢れています。しかも、スピードを上げなくてもそれが楽しめるのもS3 Sportbackのいいところです。
280psを発揮するエンジンは、アクセルペダルをジェントルに操作すれば、スムーズに、しかし、余裕ある加速を見せてくれます。大パワーだからといって扱いにくいということはありません。もちろん、アクセルペダルをガツンと踏んでやれば、勇ましい排気音をともないながら、気持ちのいい加速が楽しめるんです。サーキットやワインディングロードを走らせたら、楽しいんだろうな......。
一方、高速をおとなしく走るとリッター10数キロの燃費を示してくれるので、ロングドライブに出かけるには助かります。
スポーツ性だけが突出しているのではなく、すべてがバランス良くレベルアップされているS3 Sportback。正直、惚れました(笑) フォルクスワーゲン・ゴルフを含め、「MQB」を採用するモデルのなかではこのS3 Sportbackがイチバンの出来ではないでしょうか?
1.4 TFSIオーナーとしては、知らないほうがいい世界でしたが(笑)
(Text by Satoshi Ubukata)