今日も元気に快走している我が家の2台の初代Golf、カブリオとミズイロ。
私にとっての自動車は、きっとはじめからただの移動手段ではなかった。
カブリオはウチに来て既に30年、ミズイロも22年になる。
その間のできごとの何割かは、2台のGolfによってもたらされた。
移動手段としての利便性はもちろん、乗りたいがためのドライブ、ツーリングなど、沢山の新たな道や風景へ出かけて行ったのも、Golfが走ることを愉しいと思わせてくれたからだ。
どちらのGolfも行動範囲が広い。
今はもう一台Golf7のGTIがあるが、遠距離であろうと初代で出かけることも多い。
カブリオは、テントを積んで北海道を走ったり、紅葉の京都を走ったり…ミズイロは度々三陸を訪れたり、瀬戸内海まで足を伸ばしたり…。
出かけた先で出会う風景をバックにしたとき、やはり初代の佇まいは格別で、快適性ではGTIに分があるとしてもつい旧車を引っ張り出してしまう。
カブリオは、なんと言っても幌を開け放ったときの特別感が、青空や並木道や海岸道路のドライブをこの上ないものにしてくれる。
ただし、昨今の夏の陽射しは危険…夏のオープンドライブは夜に限る。
ミズイロは、その軽いボディをマニュアルで操る愉しさがあらゆる道を遊び場にしてくれる。
交通の流れが全体的にスピードアップした今日においても、特に遅れをとることもなく、矢のような直進安定性は健在で、硬目のシートも相まって長距離を走っても酷く疲れるようなことがない。
そんなわけで、2台の走行距離はどちらも18万kmを超えている。
自動車として、あちこちへ連れて行ってくれただけではなく、Golfは色んなことを運んできてくれた。
カブリオを買った頃は、まだ今のように何でもネットで済む時代ではなく、例えばGolfのミニカーが欲しければ、町中のお店へ出向き隅から隅まで棚を物色せねばならなかった。
検索エンジンなんて存在しないから、足で探すしかなかったのだが、思うように見つからない。
これはもう、本国、つまりドイツへ行くしかないだろう、と思ったのはその頃だった。
フォルクスワーゲンを手に入れなければ、ドイツ旅行を企てることもなかっただろう。
1997年秋、初めての渡独。
アウトバーンへの憧れもあったし、何より本社工場のあるウォルフスブルクに行きたかった。
みんなGolfのせいだ。
当時はアウトシュタットもない頃で、日本人が観光で訪れる町ではなかったけれど、すっかりGolfの虜になっていた私は、フランクフルトモーターショーの開催年ということもあって渡航を決心、ブリュッセル経由ベルリン行き、というチケットを手に成田空港から飛び立った。
ベルリンのポツダム広場にあるEUROPECARで借りたレンタカーは、ワインレッドのGolf3 GLIだった。
レンタカーは「Golfまたは同等の車種」という括りで基本的に車種指定はできない。
しかし、初めてのドイツ、しかも本社へ行くとあっては、他ブランドのレンタカーに乗るわけにはいかない。
経緯と目的地を説明し、なんとかGolfを用意してもらうことができた。
まずは、ウォルフスブルクへ向かうために西へ。
スマートフォンもない時代だから、道路地図を用意し、重要な分岐点はフセンに書いてダッシュボードに貼り付けた。
市街地の道から料金所もゲートもなく、いきなりそこはもう…なのだけど、東西に走るアウトバーンにはあまり速度無制限区間がなく、交通量も多い。
ただ周辺のフォルクスワーゲン率の高さに早くも脈拍がレッドゾーンへ。
200kmほど走ると出口の案内標識に”Wolfsburg”の文字が見えてきた。
特に観光地でもない北ドイツの工業都市が、私には憧れの地。
交差点には”VW Werk(VW工場)”の標識も。
夢にまで見た(気がする)4本煙突が見えてきた。
工場を見渡す駐車場に入ると、停まっているのはGolf、Golf、Golf...(気絶)。
前述のように、Autostadt(アウトシュタット)は2000年オープンなので、まだ影も形もない頃、だが、工場見学プログラムは存在していた。
手続きをして、ツアーの開始を待つ。
現在は、専用のトラムに乗って効率よく工場内を巡るのだけど、当時は工場正門までのバスを降りてからは、ほぼ徒歩で見て回った。
建物の階段を上がっていくと、白い壁には歴代モデルのスケッチが掲げられている。
重たいドアが開くと、生産現場の重厚な音に包まれた。
ラインで作られていたのはGolf3やVentoといったモデル。
プレス機から始まり、各工程を見ていく中でエンジンが組み込まれる場面を見た。
フォルクスワーゲンでは、この瞬間を、直訳すると「結婚」を意味する"Hochzeit"と呼んでいる。
Golf誕生の工程を目にすることができて、感無量である。
この町で、もうひとつ外せない訪問先がAutomuseum(アウトムゼウム)。
運河を挟んで工場と反対側の岸にある博物館で、空冷フォルクスワーゲンをはじめ、歴代の象徴的なモデルやプロトタイプが所狭しと展示されている。
実車ももちろん魅力的だが、そこには魅惑の「売店」がある。
受付を兼ねた、ミュージアムショップとも呼べないその小さな売店には、日本では見かけることのないさまざまなフォルクスワーゲングッズ、ミニカー、写真集などが鈴なり。
あぁ、もう、破産する。
でも、現地でミニカー買う、というのも大きな目的だったじゃないか、と、受付のオバサマに呆れられるくらい、あれもこれもカゴに入れた。
今では5500台を超えるフォルクスワーゲンミニカーコレクションの初期の100台くらいはこの旅で買ったものだと思う。
あぁ、Golfのせいだ。
後ろ髪を引かれる思いで、ウォルフスブルクを後にする。
当時乗っていたカブリオが生まれたオスナブリュック訪問も欠かせない予定であった。
さらに200kmほど西へ行ったその町には、「Karmann Ghia」で有名なカルマンがある。
フォルクスワーゲンのオープンモデルは伝統的にここで作られていた。
博物館があることを雑誌で見て知っていた私は、アポを取るわけでもなく工場正門に突撃。
日本から来た、と訴えるも門番のおじさんに(たぶん)「一般公開してない!」と言われあえなく退散。
KARMANNの文字が掲げられたビルの前で記念写真を撮るのみで、電撃訪問は不発に終わった。
このとき、おじさんの勢いの良いドイツ語が全然わからなくて、勉強しようと誓ったのだった。
ドイツ語まで習うことになったのも…Golfのせいだ。
初めてのドイツでのドライブ、それもGolfで走る本国の地は楽し過ぎた。
ドイツでの運転体験について少々。
当時はまだGolf2も多く、旧いPolo、初代PassrtにCaddy、日本では見かけない働くVanagonも目を楽しませてくれた。
トヨタとの技術提携で生まれたTaroも見かけた。
前述のアウトバーン上をはじめ、ドイツの道は運転マナーが良く走りやすい。
そして全然信号がない。
ラウンドアバウトと呼ばれる丸い交差点で、とにかくクルマの流れを止めない工夫がされている。
アウトバーンの速度無制限区間は有名だけど、一般道も市街地以外は最高速度100km/h!
町や村の入り口には分かりやすく地名標識が立っていて、そこまで100km/hで飛ばしていたクルマも、標識を境に厳格に50km/h、30km/hと減速し、市街地を出るとまた一気に100km/hまで加速していく。
加速力とブレーキ性能が問われる環境で、低速からトルクのあるGolfの味付けはドイツで鍛えられた実用性なのだなぁ、としみじみ。
また、田舎の狭い一本道でも最高速度100km/hの道も多く、対向車との相対速度は200km/hにもなる。
そこではステアリングのしっかり感が重要で、ふわふわしたハンドリングのクルマでは怖くて走れないと思う。
ドイツ車の「走る曲がる止まる」の基本性能が高いのは、こうした道路環境にあることは明白だ。
オスナブリュックから南下、カッセルを過ぎIAA(モーターショウ)のフランクフルトへ向かう。
当時、速度無制限区間は、このように南北に走るアウトバーンに多く存在した。ここでの運転マナーも印象的だった。
日本の高速で見かける「追越車線を延々と走り続ける」運転は御法度で、いつもその車線は空けておかなくてはならない。
後ろからぶっ飛んでくるクルマは、前車に追いついたところで車線を変え、追い越したらサッと戻っていく。
あの速度域でも安心して車線変更が行えるシャーシ、ボディ剛性、足回りはダテじゃない。
借りていたGolfでは200km/hには届かなかったが、150〜160km/hで走る私をアウディ、ポルシェ、BMWなんかが物凄いスピードで追い越していく。
サービスエリアの売店でファンベルトや冷却水を売ってるなんて日本では考えられない(ビールまで売ってる!)。
最初にGolf2を手に入れた頃に何度も目にした“アウトバーンで鍛えた足回り”というフレーズはただの宣伝文句ではなく、それがないと生き残れないDNAのようなものだと確信するに至った。
自分の自動車体験を次々更新しながら走っていたそのとき…快調に巡行する我々のGolfをピンクのポルシェ924がぶち抜いていった。
そのドライバーは、なんと白髪のおばあちゃんだったのだ。
ドイツの自動車文化、恐るべし。
こんな刺激を一気に浴びることになって、私の初ドイツ旅は忘れられないものになり、
必ずまた来ようと誓ったのだった。
みんな、みんなGolfのせいだ。
なぜそんなにGolfが好きなのか、そんなにGolf好きだと人生どうなっちゃうのか。折しも、Golf誕生50周年の節目にあたる2024年にスタートした、私の狂ったGolf愛を語り尽くす【Liebe zum Golf / リーベ ツム ゴルフ(ゴルフへの愛)】。熱く、深く、濃く、という編集方針に則り、偏愛自動車趣味の拙文を綴ります。