2026年パリ・モーターショーのAudiブースで。主役はいうまでもなくA2 e-tronだった。

主役はID. TiguanとA2 e-tron

第91回パリ・モーターショーが2026年10月12日から18日まで開催され、新型コロナ禍以降最多の51万8372人の来場者で賑わった。

フォルクスワーゲン(VW)グループはパビリオンのひとつ「ホール4」で、VW、VWコマーシャル・ヴィークルズ(商用車)、Audi、Skoda、Cupraの5ブランドを展開した。

VWブランドは「ID. Tiguan」をショー初公開。「ID.4」 「ID.5」の後継となるバッテリー電気自動車(BEV)で、プレスブリーフィングでは存在感あるデザイン、最新世代のデジタル技術、そして一段上の質感を訴えた。そして2026年3月にVWグループのデザイン責任者に就任したアンディ(アンドレアス)ミントの仕事であることを紹介。さらにマーケットとして「あらゆる家庭のメイン車ニーズに応えるだけでなく、フリート(筆者注:長期リースカーや、企業が社員に貸与するカンパニーカー)需要にも重要な1台になる」とプレゼンテーションした。

ブースでは「ID. Polo」「ID. Cross」「ID.3 Neo」 などID. ファミリーを展示。ブランドは「あらゆる用途、あらゆる顧客に合った電動車を用意するという意欲の表れ」と説明した。さらに一角はGTIシリーズに充てられ、「ID. Polo GTI」 と 「ID.3 GTI」 がディスプレイされた。

GTIバージョンを並べたコーナー。これはVW ID. Polo GTI。ショー直前の10月6日にフランスで受注が開始された。ID.3 GTIとともに展示された。

いっぽう、Audiは「A2 e-tron」をショー初公開した。Audiフランス法人のロベール・ブレシュコフ代表とAUDI AGのルーヴェン・モーア チーフ・テクニカル・オフィサー(CTO)が登壇。初代「A2」の先進的な精神を受け継ぐモデルで「Audi史上もっとも効率の良いクルマ」であることをアピールした。 参考までに、空気抵抗係数は0.24、最良の100kmあたり電費は12.8 kWh(WLTP : 140kW仕様)、そして満充電からの最長航続距離は646km(WLTP : 170kW仕様)である。筆者が確認したかぎりインテリアも十分モダンで、マグネット着脱式の室内アクセサリー固定機構Fidlockも目を引く。

彼らはA2 e-tronと共に、A3シリーズが1996年パリ・モーターショーでの公開から30周年を迎えたこと、新型「RS 5」がフランスで6カ月で1000台以上受注があったことも報告した。

今取り組んでいることが明確に

今回のパリにおけるVWグループのブースを取材して感じたことが3つある。

第一は生産拠点だ。思えば3年前の2023年、ミュンヘンIAAモビリティでは、登壇したVWグループ幹部が中国市場の重要性を力説したうえ、敢えて中国語で「在中国、为中国(中国で、中国のために)」とスピーチした。

いっぽう今回はショーに先立って公開された動画で、VWグループのオリバー・ブルーメCEOは「ヨーロッパ製を、ヨーロッパのために」と語った。実際、ID. Tiguanはドイツのエムデン工場で生産され、A2 e-tronはQ6 e-tronやA6 e-tronと同じインゴルシュタット本社工場で9月から生産開始されている。

欧州連合(EU)は、拡大する中国製BEVの輸入に歯止めをかけるため、2024年10月から中国製BEVに相殺関税を課し、2026年には最低輸入価格の約束と引き換えに関税を免除する仕組みも導入した。次段階として、2026年3月に欧州委員会が提案した「産業加速法(IAA)」で、部品の域内調達率を含む「域内生産」の定義が、CO2削減目標の見直しとともに議論されている。欧州議会は12月に採決する予定だ。そうしたなか、他メーカーのスピーチにもみられた「ヨーロッパ製」の強調は、ユーザーへのアピールよりもEUの心証を良くするためであると窺える。

第二は、パワーユニットだ。前述のブレシュコフ代表は、ラインナップにおけるエンジン車、BEV、プラグインハイブリッドの選択肢を強調した。マルチパワーへの方針転換は着々と進んでいる。

第三は開発期間だ。同じくAudiのプレスブリーフィングでは、話題の「Nuvolari」を僅か18カ月で開発したことが強調された。参考までに、A2 e-tronのリリースによれば、同車の開発と生産準備の期間も、従来の同等モデルより約21カ月短くなったとしている。

率直に言って、報道公開日におけるVWグループは、空前のコンセプトカー攻勢を仕掛けたステランティスやルノーよりも地味な印象が拭えなかった。しかし、生産拠点、パワーユニットのマルチ展開、そして開発期間の短縮といった、グループが今日取り組んでいるテーマが明確に提示されたことは評価に値しよう。

報道公開日の夜遅く、サイケデリックなType 2 T2を発見。その日は“正体”がわからなかった。

「答え合わせ」はミュンヘンで

フランスにおける2026年10月の新車登録台数は149,341台で、前年比7%増を記録した。対して、VWグループは19,370台で14.9%減だった(データ出典: PFA〈La Plateforme automobile〉/AAA Data)。

しかし報道公開日の翌日、一般公開初日にVWブースを覗いてみると、そうした数字をしばし忘れさせる盛況だった。GTI仕様を集めたコーナーには多くの若者たちが訪れている。マルチバンをベースにしたキャンパー「カリフォルニア」は、車内に入り込んで上部のテント部分に顔を突っ込んで見る来場者の姿が絶えなかった。

考えてみればGTIシリーズのようにスポーツ仕様を乗り込めるかたちで何台も展示したり、キャンピングカーを展示する主要ブランドは、筆者が観察した限りVWが唯一であった。

パビリオンの屋外を歩いていると、ロックンロールが聞こえてきた。イタリア人シンガーTAOさんは、2007年からイタリアを中心に各地を巡回してショーを繰り広げているという。ステージは劇場ではなく、サイケデリックな色をまとった1974年VW「タイプ2 T2」であるところがミソだ。愛称はLove bus。すでに1000カ所で1400回以上のショーを開催、走行距離は18万キロメートルを超えた。彼のパフォーマンスにはT2以外考えられないだろう。

カルチャーでは唯一無二の領域を構築したVWが、果たしてどう生き残ってゆくのか、前述の施策がヨーロッパのユーザーをより刺激する製品づくりに繋がるのか。1年後のミュンヘンと2年後のパリがその答え合わせになる。

(Text & Photo:大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA)