毎年まとまった雪が降る富山市内。そんな雪国でEVを販売するには、雪道での走行性能や充電環境など、ユーザーが抱くさまざまな不安と向き合わなければならない。
Volkswagen富山新庄では、時間をかけてその不安をひとつずつ解消しながら、ID.シリーズを身近な選択肢として提案している。同店でセールスを担当する松本竜治さんに、その取り組みを聞いた。
Volkswagen富山新庄は、富山市中心部を南北に走る国道41号沿いに位置する。国道8号にも近く、富山市内だけでなく周辺地域からもアクセスしやすい立地だ。
「ちょい出し」でEVを身近な選択肢に
Volkswagen富山新庄でID.シリーズに興味を示すのは、もともとEVへの関心が高い新規顧客ばかりではないという。
「新規のお客様と既存のお客様の比率は、だいたい半分半分です。意外に多いのが既存のお客様ですね」
新規顧客では、すでに他ブランドのEVを所有している人が目立つ。一方、既存顧客のほとんどはVolkswagenのガソリン車やディーゼル車のユーザーだ。新規顧客とは異なり、最初からEVへの乗り換えを考えているわけではない。
Volkswagen富山新庄でセールスコンサルタントを務める松本竜治さん
そこで松本さんが心がけているのが、EVの話を少しずつすることだ。
「点検や車検、タイヤ交換のたびに『ちょい出し』くらいでEVの話をします。まずは頭の片隅にEVという選択肢を置いてもらうような感じです」
そのうえで、代車としてID.4を貸し出したり、1日試乗を提案したりする。ID.4を使い、通常の試乗コースで効率の良い走りを競う「電費コンテスト」も実施した。市街地を走りながら回生ブレーキの使い方などを工夫することで、EVならではの運転を楽しんでもらう狙いだ。
一方、ID. Buzzをショールームに展示した際には、その個性的な姿を見て多くの新規客が訪れたという。購入に至らなくても、EVをきっかけにショールームを訪れてもらうこと自体が、新たな接点になっている。
「RWDで雪道は大丈夫?」には試乗で答える
富山市内では、毎年30〜40cm程度の積雪があり、多い年には90〜100cmに達することもある。そんな地域だけに、ID.4を提案すると雪道での走行について質問されることが多い。
なかでもハードルとなるのが、ID.4がRWD(後輪駆動)であることだ。
「駆動方式を聞かれて『後輪駆動です』と答えると、『えっ』となるお客様はいます。輸入車を検討される方はクルマに詳しい方も多いので、そこを気にされる方はいらっしゃいます」
ショールームは、フォルクスワーゲンのコーポレートデザイン「モジュラー コンセプト」に基づいた設計。白を基調とした明るい空間には、最大5台の車両を展示できる。
言葉だけで不安を解消するのは難しい。そこで松本さんは、雪が降ったときにあえてID.4を試乗してもらうという。
「4WDでなければ、という話は必ず出ます。でも、止まれるかどうかはスタッドレスタイヤの性能も大きい。そこを説明したうえで、雪道を実際に走っていただきます。もちろん私も同乗するので、安心してくださいと」
床下にバッテリーを搭載するID.4は重量配分に優れ、車重もある。実際に雪道を走ってみると、RWDに抱いていたイメージとは違い、安定して走れることを実感する人も多いという。
ただし、いきなり「雪道を試乗してください」と勧めるわけではない。
「点検などで来店されるたびに少しずつ話をして、『以前お話ししていた試乗、どうですか?』とつなげていく。積み重ねですね。乗っていただければ『いいじゃん』と感じてもらえるので、そこまでどう持っていくかが大切です」
もうひとつ、地方でEVを販売するうえで避けて通れないのが充電への不安だ。
充電器が多い地域もあれば、少ない地域もある。そこで顧客が日常的に走るルートや、旅行でよく利用する方面を聞き、どこで充電できるのかを一緒に調べる。さらにExcelを使って電費やエネルギーコストを計算し、現在のガソリン代と比較することもある。
購入後の点検で「ガソリン代に比べて半分になった」「3分の1になった」と報告するオーナーもいるという。
雪道も充電も、「大丈夫です」と説明するだけではない。その人の生活のなかで本当に使えるのかを、一緒になって確かめていくのである。
EVを売るために、スタッフも変わる
EVを販売するために変わる必要があったのは、顧客だけではない。販売店のスタッフにも新たな知識が求められるようになった。
「EVはモーターで動いて、どれだけ走れて、どれだけパワーが出るかという話だけでは、なかなか特徴を伝えにくい。そのぶん、勉強会は以前より開くようになりました」
対象はセールス担当だけではない。担当者が不在のときに顧客から質問を受けることもあるため、サービススタッフも含め、ID.シリーズの商品知識や充電器の使い方などを学ぶ。簡単な質問であれば、スタッフの誰もが答えられるレベルを目指しているという。
そして、松本さん自身もID.4を説明するとき、EVであることだけを売りにしないよう心がけている。
「補助金の話はほとんどしません。まずクルマとして見てください、という話をします」
たとえば回生ブレーキをドライバー自身が使い分けられること、重量配分の良さによる安定感、視界や内外装の仕上げ、そして遊び心のあるデザイン。そうした部分まで丁寧に伝え、「EVである前にフォルクスワーゲンである」ことを理解してもらう。
EVを入口に、Volkswagenを知ってもらう
興味深いのは、Volkswagen富山新庄にとってEVを紹介する目的が、必ずしもID.シリーズを販売することだけではないことだ。
「EVの話題から、クルマの話になればいいんです」
ID.4に興味を持って来店しても、話を聞いた結果、「自分にはまだEVは早い」と考える人もいる。その場合は、サイズや用途を聞きながらTiguanやT-Roc、T-Crossなど別のモデルへと話を広げる。
「ID.4やEVをもっと販売できればもちろんいいですが、一番はクルマを購入していただくこと。いろいろなラインナップがありますから、そのなかから選んでもらって、最終的にVolkswagenに来ていただければいいと思っています」
EVかエンジン車かを最初から二者択一にするのではなく、ユーザーの生活に合った一台を探す。その選択肢のなかに、ID.シリーズを自然に加えていくという考え方だ。
雪国では充電環境に加え、RWDで雪道を走ることへの抵抗感など、EVを選ぶまでにいくつもの心理的なハードルがある。それを一度の商談ですべて乗り越えようとはしない。
点検やタイヤ交換の機会に少しだけEVの話をする。代車で乗ってもらう。電費コンテストを楽しんでもらう。そして雪が降ったら、スタッフが同乗して実際の雪道を走ってもらう。充電が心配なら、その人が普段走るルートを一緒に調べる。
「乗っていただければ『いいじゃないか』と感じてもらえるので、そこまでどう持っていくかが大切です」
雪国でEVを売るための近道はないのかもしれない。だからこそ、一人ひとりの生活に向き合いながら、時間をかけて不安をひとつずつ解消し、EVを少しずつ身近な存在にしていく。
そんな丁寧なアプローチこそが、Volkswagen富山新庄のID.シリーズ販売を支えている。
(Text & Photos by Satoshi Ubukata)