落ち着いたグリーンのボディに、サイドを彩る個性的なグラフィック。ひと目見ただけでも普通のGolf 2とは違うことがわかるこのクルマは、「Golf 2 Fire and Ice」。映画『Fire and Ice』とのタイアップから生まれた特別なモデルだ。

オーナーの三宅さんがこのクルマを手に入れたのは、いまから20年前のこと。日本には20台しかないともいわれる希少なモデルだが、三宅さんからは、貴重なクルマを所有していることをことさらに誇るような雰囲気は感じられない。

むしろ、長年連れ添った相棒とごく自然に付き合っている。そんな姿が印象的だった。

20年前に個人売買で手に入れたFire and Ice

三宅さんはこのGolf 2 Fire and Iceを、20年前に個人売買で購入した。

「日本に20台しかないと言われています」

それだけ聞けば、ずいぶんと特別なクルマを探し求めて手に入れたように思える。しかし、Fire and Iceとの出逢いは意外にも偶然だったという。

そもそも三宅さんにとってGolf 2は、思い出深い存在だった。初めて購入した輸入車がGolf 2の「GLI」だったからだ。その後、何台かのVolkswagenを乗り継いだものの、再びGolf 2に乗りたいという思いが芽生えた。

「もう一回『2』に乗りたくなって。それもやっぱり、できれば『GTI』がいいなと思って探していたら、この希少車が出てきたので、まさに願ったり叶ったりでした」

いまほど高価ではなかった20年前

現在、程度の良いGolf 2、とりわけGTIや希少モデルには高い価格がついているのはご存じのとおり。しかし、三宅さんがFire and Iceを購入した20年前は、まだ状況が違っていた。

「当時は現在のように旧車の値段が高騰している時代ではなかったので、せっかく手に入るならこれを手に入れようと思って購入しました」

初めての輸入車だったGolf 2にもう一度乗りたい。できればGTIがいい。そこに希少なFire and Iceが現れたのだから、三宅さんの言葉どおり「願ったり叶ったり」だったのだ。

ちなみに、最初のGolf 2がGLIだったのには理由がある。

「最初は中古のGLIでした。GTIは高価で手が届かなかったですね」

かつて憧れながら手が届かなかったGTI。その特別な一台を、時を経て手に入れたというわけだ。

消えたステッカーを自ら復刻

Fire and Iceの大きな特徴が、Cピラーを彩るスタッカーだ。

三宅さんのクルマは、ボディについては当時の塗装をそのまま残している。

「塗装は塗り替えていないです。だから、細かいところを見たら傷だらけですよ」

長年乗っていれば当然、傷も増える。それでもあえて塗り直すことなく、オリジナルの状態を大切にしている。

一方、特徴的なサイドのステッカーは、三宅さんが購入した時点ですでに失われていた。前オーナーが「恥ずかしい、目立つから」という理由で剥がしてしまったのだという。

そこで三宅さんは、Fire and Ice本来の姿を取り戻すことにした。

「私が購入してから復刻しました。自分でデジタルデータを作り、看板屋さんにサイズや位置を確認してつくってもらって貼りました。実物とは少し色味が違うかもしれませんが」

単に似たステッカーを貼ったわけではない。自らデータを作り、サイズや位置まで確認して復刻するところに、三宅さんのこだわりが表れている。

「それ以外は、基本的にはどこもいじっていません。『ノーマルでいきたい』という気持ちがあるので、そこは維持しています」

オリジナル塗装を残し、失われていたステッカーは本来の姿に近づけるために復刻する。そして、それ以外には余計な手を加えない。

希少なFire and Iceだからこそ、できるだけ本来の姿を守りながら乗り続けたい。それが三宅さん流の楽しみ方なのだ。

Golf 3 Cabrioも所有するVolkswagen好き

現在、三宅さんはFire and Iceだけでなく、「Golf 3 Cabrio」も所有している。

どうやら少し古いVolkswagenが肌に合うらしい。

「やはり、初めて買った輸入車という思い入れもありますし、なんとなく自分には合う車だなと感じています。大きさもちょうどいいですし、あまり『威張っている感じ』がないところも好きで、普段の足として使っています」

この「あまり威張っている感じがない」という表現は、Golfというクルマの魅力をうまく言い表しているように思う。

時代とともにGolfも大きくなり、安全性や快適性、性能を向上させてきた。一方、コンパクトなボディに必要なものをきちんと詰め込み、日常の道具として気兼ねなく使えるGolf 2には、この時代ならではの“ちょうど良さ”がある。

希少車だけど、本人はいたって自然体

日本への導入台数が少ないFire and Iceだけに、現在では国内に残る個体もかなり少なくなっていると考えられる。

「日本にはもう5、6台くらいしか残っていないのでは?」と聞いてみると、三宅さんは少し違う見方をしていた。

「どうなんでしょうね。先日も専門店で見させてもらったんですが、もうちょっといると思いますよ。先日もイベントで3台集まっていましたし」

そして、希少車に乗っていることを普段から意識しているかと尋ねると、「あまり意識しないですね」と笑う。

知る人ぞ知る希少車でありながら、オーナー本人はいたって自然体。そのギャップもなんだか微笑ましい。

映画『Fire and Ice』もちゃんと鑑賞済み!?

ところで、このクルマの名前の由来になったのが映画『Fire and Ice』だ。

日本ではそれほど知られていない作品だけに、Fire and Iceというクルマは知っていても、映画そのものを見たことがある人は少ないかもしれない。

もちろん(!?)、三宅さんは鑑賞済みだ。

「友人からVHSをDVDにダビングしてもらって見ました。周りから『見たほうがいいよ、つまんないから』と言われて」

なんとも身も蓋もない薦められ方だが、愛車のルーツとなれば見ておきたくなるのがオーナーの心理というもの。クルマだけでなく、その背景にあるストーリーまで楽しむのも、旧車との付き合い方のひとつだろう。ちなみに、筆者も映画を見たが、映像の美しさは認めるものの、ストーリーはいまひとつ、というのが正直な感想である。

20年経っても「ふだんの足」

三宅さんのFire and Iceは、オリジナル塗装のまま20年以上の時を重ねてきた。細かな傷もあれば、失われたステッカーを復刻した部分もある。

それでも三宅さんにとって、このクルマはガレージにしまって眺めるだけのコレクションではない。

「大きさもちょうどいい」と話すように、いまでもふだんの足として使っている。

希少だからと特別扱いするのではなく、本来の姿を大切にしながら、日常のなかで楽しむ。それこそが、三宅さんにとって一番自然なFire and Iceとの付き合い方なのだろう。

(Text & Photos by Satoshi Ubukata)