2025年11月24日、TOYO TIRESが展開する体感型走行イベント「PROXES DRIVING PLEASURE」が、秋晴れのもと、初めて東日本エリアの富士スピードウェイで開催された。今回の走行会には180台以上の参加車両が集まり、プロドライバーによる先導走行や直接指導を通じて、初心者から上級者まで安全にサーキット走行を学ぶ場となった。イベントを通じて浮かび上がったのは、タイヤ性能の理解を深めるだけでなく、クルマ文化そのものを育てていこうというトーヨータイヤの姿勢である。
初の関東開催に180台以上が集合
「PROXES DRIVING PLEASURE」は、TOYO TIRESが2023年から展開する体感型イベントで、これまで主に西日本で開催されてきた。関東圏での開催は今回が初めてであり、会場となった富士スピードウェイには早朝からさまざまなタイプのクルマが続々と集まった。スポーツカーに限らず、日常使用のファミリーカーやSUV、軽自動車なども含め、参加者層の幅広さがイベントの特徴となっている。
開会挨拶で、TOYO TIRE株式会社でグローバルマーケティング部長務める吉川 誠氏は、「富士での開催に180台以上が集まったことに感謝したい」と述べ、同イベントの着実な広がりに手応えを示した。吉川氏はまた、「サーキットでしか味わえない車両挙動やタイヤ性能を体感してほしい」と語り、体験を通じた理解の重要性を強調した。
TOYO TIRE株式会社 グローバルマーケティング部長・吉川 誠氏
初心者から上級者まで。細かく分けられた“カテゴリー制”
イベントの特徴は、経験値に応じて走行枠が細かく分けられていることだ。家族同乗が可能な「カテゴリー5」、先導車について走る「カテゴリー4」、タイムアタックを行う上級枠まで、参加者は自身のレベルに合わせて無理なく挑戦できる。
上級者を対象としたカテゴリー1〜カテゴリー3の様子
上級者を対象としたカテゴリー1〜カテゴリー3の様子
上級者を対象としたカテゴリー1〜カテゴリー3の様子
上級者を対象としたカテゴリー1〜カテゴリー3の様子
上級者を対象としたカテゴリー1〜カテゴリー3の様子
インストラクターのプロドライバー。左から中山雄一選手、小山美姫選手氏、荒 聖治選手、阪口良平選手、そして、塩津裕介選手の5名。
初心者向けのカテゴリー4を担当したのは、SUPER GTやSUPER FORMULA、そして、今シーズンはニュルブルクリンクの耐久レースに「TOYO TIRES with Ring Racing」として参戦し、初戦のNLS1ではクラス2位表彰台を獲得した、経験豊富な中山雄一選手だ。中山選手は朝のブリーフィングで、初めてサーキットを走る参加者が抱く緊張についても触れ、「10分後には『どうしてあんなに緊張していたんだろう』と思える」と語り、肩の力を抜いて楽しむ姿勢を促した。
カテゴリー4のインストラクターを担当した中山雄一選手
カテゴリー4のインストラクターを務めるTOYO TIREのタイヤテストドライバーの長谷川悟氏
カテゴリー4のインストラクターを務めるTOYO TIREのタイヤテストドライバーの齊藤竜一氏
カテゴリー4のインストラクターを務めるTOYO TIREのタイヤテストドライバーの檪浦颯天(とちうらはやて)氏
また、前走車との適正車間距離についても丁寧に解説し、「離れすぎても危険。前車のブレーキポイントが見えなくなる」と説明。サーキットならではの“同じ目的で走っている環境”を活かし、一定の隊列を維持することが上達の近道だとした。
先導走行は午前中は控えめのスピードから開始し、1本ごとに10km/hずつ速度を引き上げる段階的なメニューを採用。高速道路と同じ100km/hでも、サーキットでは“ゆっくり”に感じるという説明に、多くの参加者が驚いた様子を見せた。
1本目の走行終了後、中山選手は参加者の動きを評価した上で、「運転の解像度を上げる」重要性について語った。この“解像度”とは、前を走る車のライン取りをただ漠然と追うのではなく、白線にタイヤが何センチ乗ったかといった細部を見る力のことだ。
「最初は1cm刻みの定規のようでも、慣れてくるとミリ単位で見えるようになる」と中山選手。視点が細かくなることで車両挙動への理解が深まり、運転の質が大きく向上するという。
午後の走行では160km/hに到達。参加者の習熟度に合わせてペースアップ
午後になると、参加者の習熟度を確認しながらペースをさらに上げていった。中山選手が担当したグループでは、直線で160km/hまで加速した場面もあり、初参加者にとっては非日常的な速度域を安全に体験する貴重な機会となった。
中山選手は「思った以上にペースアップに対応してくれた」と評価し、サーキット走行が“怖さ”ではなく“達成感”につながるよう意図を持って進行したことを明らかにした。
PROXES Sport 2を装着したGolf Rでカテゴリー4に参加した川島さん。サーキット走行がほぼ未経験で、maniacsのLINE告知を見たことが参加のきっかけだった。この日のためにヘルメットを購入。午前の走行では強いGやコーナーのきつさに驚きつつ、午後は160km/h超までペースアップし、Golf Rの高いトラクション性能を実感したという。走行に慣れるにつれて余裕が出てきたため、次回は上のクラスにも挑戦したいと語った。
イベント終盤、中山選手はPROXESシリーズに対する印象も述べた。今年、ニュルブルクリンクのレースでPROXESを装着した際の感触として、「コンパウンドが路面を噛む“バイト感”が非常に高い」と表現し、市販タイヤにもレーシングタイヤのエッセンスが反映されていると評価した。
先導車が装着した「PROXES Sport 2」についても、路面の微細な凹凸を捉えるトレッドの感度を挙げ、「一般道でもメリットを感じられる」と述べた。
中山選手が最も強調したのは、サーキット走行は単なる“遊び”ではなく、安全運転の基礎を高める行為だという点だった。
「人は免許取得後、運転を体系的に学ぶ機会がほとんどない。こうした場で高いGや限界に近い荷重を体験することで、一般道での余裕が生まれる」と語り、今日の経験が事故防止につながると強調した。
カテゴリー4に参加した皆さんと講師陣
TOYO TIRESの狙いは“クルマ好きの裾野を広げること”
イベント後、吉川氏は「こうしたイベントを続けることでクルマ好きの裾野を広げたい」と語り、カテゴリー5のような家族同乗体験の価値を特に強調した。幼少期の体験が将来の車好き、さらにはモータースポーツに関わる人材育成につながる可能性があるためだ。
また、カテゴリー4のようにトップドライバーのレクチャーが受けられる枠は、参加者が自身の技量や車両性能を正しく理解するきっかけとなるとし、「普段体験できない発見が自身の運転レベルを大きく引き上げる」と述べた。
PROXES DRIVING PLEASUREは今後も全国のサーキットで継続的に開催される予定で、車両性能や走行経験が異なる参加者を積極的に受け入れる。今回参加できなかった人も、ぜひ次回はこの魅力的なイベントを体験してほしい。
(Text by 8speed.net Editorial Team/Photos by Satoshi Ubukata)