ミュンヘンIAAモビリティ2025の市内会場で。アウディ・パビリオンに展示された「Concept C」。
エントリーレベルのEVで攻める
2025年9月8日から14日までドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティ」は、会期中約50万人の来場者で賑わった。フォルクスワーゲン(VW)ブランドは「ID.CROSS Concept」や新型「T-Roc」、アウディは「Concept C」、そしてポルシェは「911 Turbo S」などで大きな注目を集めていた。
各モデルの解説はすでに公開済みの別ページにゆずることとし、今回はプレゼンテーションをもとに、グループがどのような方向に向かっているのかを探る。同時に、写真を通じてメッセおよびオープンスペースと名づけられた市内会場の様子をお伝えする。
フォルクスワーゲン(VW)グループの記者発表会に並んだエレクトリック・アーバン・カーファミリー。左から「Skoda Epiq」「Cupra Raval」「VW ID.Polo」。
記者発表会でオリヴァー・ブルーメCEOは、直面している諸問題として、競争の激化、欧州での需要減少、加速する進化、中国での価格競争、貿易問題、基準の厳格化、そして欧米における電気自動車(EV)の期待を下回る普及を挙げた。
それを解決すべく、コスト低減、生産性向上、複雑さの解消、効率性向上の4つを目指すことを明らかにした。
いっぽうでグループを「Global Automovive Tech Driver」と定義。世界全地域・すべての年齢層、そしてあらゆる文化に向けて、乗用車・2輪からバス、トラックまですべての人が手に入れられるものを提供すると語った。そのうえで基本となるのは、ユーザーフレンドリー、少ない顧客負担、高い信頼性といったVWが長年培ってきたものだという。
それを実現する手段として、中国では現地向けに開発したアウディを生産・販売、米国ではグループ支援のもと、2022年サウスカロライナに設立したオフロードEVメーカー「Scout」のさらなる強化、バッテリー企業「PowerCo」のドイツ国内工場稼働を挙げた。自動運転機能を加えた「ID.BUZZ AD」による乗り合い自動車サービス「MOIA」も、その一翼を担う。
VWグループのバッテリー製造子会社「PowerCo」による角柱型ユニファイド・セル。3元型リチウムイオン電池である。
ユニファイド・セルは開発・生産、そして組み立てを効率化する。「エレクトリック・アーバン・カーファミリー」にも採用される。
グループのライドシェア企業「MOIA」による「ID. BUZZ AD」を使用した自動運転車。同社の実証実験は、すでにハンブルクで開始されている。
MOIAのLiDARはすべて「Innoviz」というテック企業が納入している。「近・中距離用が6個、長距離用が3個の計9個が搭載されています」とアカウントマネジャーのフェリシアさん。
プレゼンテーションでもっとも力が入れられたモデルといえば、2026年から順次市場投入される「エレクトリック・アーバン・カーファミリー」であった。エントリー・レベルの電気モビリティで、同一プラットフォーム(MEB+)を使用して、VW 「ID.Polo」、同「ID.Cross」、「Skoda Epiq」、「Cupra Raval」の4車種を展開する。満充電からの最長航続可能距離は450キロメートル。グループのスペイン法人「SEAT」の工場で生産する。目標とする販売価格は2万5000ユーロ(約440万円)だ。VW乗用車&グループのトーマス・シェーファーCEOは、このエレクトリック・アーバン・カーファミリーで欧州の数百万人のユーザーに訴求すると話した。
試される経営者のドライビング・テクニック
このようにIAA会期中はEVにスポットが当てられたいっぽうで、閉幕後にはVWグループやドイツ政府がその普及に対し、けっして楽観視していないことを示すニュースが相次いだ。
9月19日、ポルシェは内燃機関モデルの製品戦略の見直しを発表。市場環境を考慮し、当初EV専用車として計画されていた新型Cayenneを、市場投入当初は内燃エンジンとプラグイン・ハイブリッドのみ提供することを明らかにした。「Panamera」および「Cayenne」も、2030年代まで内燃エンジンとプラグインハイブリッドで販売する。
続いて9月25日ブルームバーグは、VWグループが「Audi Q4 e-tron」を生産するツヴィッカウ工場の1週間操業停止を予定しているほか、VW「ID.4」「ID.7」「ID.7 Tourer」を生産するエムデン工場もすでに操業時間短縮や、数日間の生産ライン停止を実施したと報じた。
10月に入ってからは、ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相が2035年以降の新車に対する内燃機関禁止規制について、それを定めたEUに対して見直しまたは撤回を求めると発言した。
実際、首相発言を受けるかたちで、EUは規制の見直しを検討することが明らかになった。
かつてのマニュアル車のドライビング・テクニックに「ヒール&トウ」というのがあった。かかとでアクセレレーション・ペダル、つま先でブレーキを踏み、減速しながらエンジンの回転数を変速機と合わせる技だ。減速しつつある電動化の市場を見ながら、内燃エンジンとプラグイン・ハイブリッドで企業を動かし続けてゆく。今のVWグループは、まさにヒール&トウをしているところなのだ。彼らの“ドライビング・テクニック”が試される。
充電設備を造る関連企業「エッリ」の家庭用ウォール型チャージャーの新型も公開された。
Ducati V21Lに搭載する全固体電池用モータードライブ・ユニット。
Ducatiが研究開発中の全固体電池。
VWグループ・ブースの隣には、戦略的パートナーシップ関係にある中国の電気自動車ブランド、「シャオペン(小鵬)」がブースを設営していた。これは彼らの新型「P7」。
「GTIくん」&「ポルシェくん」登場
いささか真面目な話になってしまったので、無料公開の市内会場「オープンスペース」の賑わいに話を移そう。VWグループの各ブランドは、いずれも前回の2023年ショーと同じ場所にパビリオンを設営した。
VWブランドでは新型「T-Roc」をはじめとする各モデルとともに、さまざまなリサイクル活動も解説していた。また、「Golf GTI Edition 50」の展示に合わせ、GTIくん(と呼ぶのかどうかは未確認)の着ぐるみが会場内を巡回していた。
前回同様、市内オデオン広場に設けられたVWブランドのパビリオン。
市内会場のスターは、2代目「T-ROC R-Line」だった。
T-ROC R-Lineのダッシュボード。
VW「ID.3 GTX Fire+ICE」。
VW「Golf GTI Edition 50」。
リサイクルのコーナー。工場従業員の作業服から紡いだ糸で、車両の内装づくりに活かしている。
「GTI50」くん登場!
アウディはシンプルな建物だったにもかかわらず、Concept Cをひと目見たい人々による長い待ち列ができていた。
マキシミリアン広場にて。アウディのパビリオンでは「Concept C」の前に、そのインスピレーション源となった歴代車のひとつ、1936年「Auto Union Type C」が迎えてくれた。
トンネルを通りぬけると、Audi Concept Cが現れた。
パビリオンの外で、アウディは来場者にジェラートを振る舞っていた。
バルセロナを本拠とする「Cupra」は、次世代のデザイン記号を示したコンセプトカー「Tindaya」で、とくに若者の注目を集めていた。
「Cupra Tindaya」。
Cupraは洒落たポスターを多数用意。来場者が持って帰れるようにしていた。
実はファミリー層にもっとも人気を博していたブランドといえば、なんとポルシェであった。
前回のパビリオンは巨大な911型だったが、今回はエンブレムをファサードに掲げたものだった。遊園地を模した1000平方メートルのエリア内には、いずれも無料のカフェやメリーゴーラウンドが設置されていた。後者はシュトゥットガルト市の紋章であり、ポルシェのエンブレムにも刻まれている跳ね馬をイメージしたものだ。
2023年と同様アウディの隣に設けられたポルシェの市内パビリオン。
メリーゴーランドも設営されていた。
電動過給器を2基搭載し、公道用911史上最強を誇る「911 Turbo S」。
「Luxembourg Legacy」は同国での販売75周年記念車。
企画は成功で、子どもたちに大人気であった。ヘルメット姿の着ぐるみまで歩き回り、次々とハイタッチを交わしている。大人だけでなく未来の顧客の心もスポーツシートプラスのように、しっかりホールドしようとしていたのだった。
こちらには“ポルシェくん”が待機していた。
以下は会場外のスナップ。ミュンヘン空港第2ターミナルでは、巨大なAudi Concept Cが迎えてくれた。
ミュンヘン空港内のドイッチェ・ムゼウム(ドイツ博物館)売店で。ポルシェ公認・1975年911Turbo 3.0エンジン1/3模型は、219ユーロ(約3万8千円)。
これはメッセに近いチェーン系雑貨スーパーで。ID.BUZZの1/24ラジオ・コントロールカー。マイスト社製である。
VW Beetleの1/87サイズのラジオ・コントールカーも売られていた。110ユーロ。
Uバーン(地下鉄)駅にて。オクトーバーフェストを前にしたイタリア系ランジェリー・ショップのディスプレイと、可変広告に映ったVWパビリオンの告知。祝祭は続く。
(Report & photo 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA)