■Gacel ■IXO ■1/43
一見、初代Jettaに見えますね。
水冷VWファミリーの枝葉を探っていくと、思いがけないモデルに出会うことがあります。
今回のミニカーは、アルゼンチン生まれのセダン、VW Gacel(ガセル)。
Gacelはヨーロッパでは販売されず、南米、特にアルゼンチン市場向けに開発された地域専用モデルです。
当時のアルゼンチンの中産階級に向けて「欧州車の品質を持ちながらも、現地の道路環境やライフスタイルに適した実用的なセダン」として売り出され、多くの家庭やタクシーで活躍したようです。
ベースとなったのはVW Passat B2世代ですが、フロントマスクなどは独自の意匠を与えられ、全体的にシンプルで角ばった、いかにも80年代らしい直線基調のスタイルにまとめられています。
エンジンは1.6Lと1.8Lの直列4気筒が主流で、現地生産されたVW系列のユニットを搭載。2ドア版の「Gacel 2p」や、ステーションワゴン版の「Carat」、さらにブラジル製B2ワゴン「Quantum」なども展開され、南米におけるVWラインアップの中核を担いました。
実車はPassatベースゆえエンジン縦置きレイアウトで、そうした“出自”の違いもまたJettaやGolfとの比較を面白くしています。
今回のモデルを手がけたのはマカオのIXO。
なかなかの仕上がりで、ボディのメタリック塗装は美しく、フロントマスクのVWマークやバンパーまわり、さらには室内の作り込みに至るまで、精度の高いディティールが盛り込まれています。
何より感心するのは、こうした“辺境”の車種をあえて製品化してくれたこと。
初代Jettaと並べてみると、見た目の近さと同時に違いも浮かび上がります。
フロントフェンダーの裾のデザイン、給油口の位置や、リヤバンパーの大きさなど、こうして並べて比較しながら「似ているけど、やっぱり違う」と発見していくのは、ミニカーならではの楽しみです。
GolfやJettaのような定番車種に比べれば、Gacelの知名度は決して高くありません。
しかしだからこそ、手にしたときの喜びはひとしお。“こんなモデルまでミニカーになっているのか!”
という驚きは、コレクターにとって最高のご褒美です。VWの歴史を彩る無数の枝葉。
そのひとつをミニカーで追体験できることこそ、Golfgangが伝えたいVWの世界の奥深さなのです。
das kleine Golfgang(ダス クライネゴルフガング)は、ゴルフのミニカー、"Golf玩具"にまつわるコラム。1974年に実車が誕生して以来、古今東西でつくられてきたゴルフのミニカーたちの小さなボディに垣間見えるストーリーを、小さく紹介しています。101回目以降、ゴルフ以外の水冷VWも紹介していきます