Golfきってのハイパフォーマンスモデル「Golf R」「Golf R Variant」の速さの秘密とは? その答えを求めて、千葉県木更津市の「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」を訪ねた。

2025年5月15日、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京はフォルクスワーゲン一色に染まっていた。週末の5月17日(土)には、Golfのパフォーマンスモデルのオーナーやファンを対象にしたイベント「Thrilling R」が開催されることになっている。イベントでは、ハンドリングトラックをはじめ、多彩なコースを有するポルシェ・エクスペリエンスセンター東京において、新型Golf R/Golf R Variantのパフォーマンスを最大限に引き出すスポーツドライビングが体験できるが、その開催直前にメディア向け試乗会が開かれたのだ。

メディア向け試乗会では、ハンドリングトラック(周回路)に加えて、ドリフトサークル、ダイナミックエリアなど、ふだんとは異なるシチュエーションで、新型Golf R/Golf R Variantの性能が確認できるのがうれしいところ。さらに、今回は、Golf Rの開発ドライバーで、フォルクスワーゲンRのブランドアンバサダーを務めるベニー・ロイヒター選手が来日しており、Golf Rの速さの秘密に迫るにはまさに打ってつけの機会になった。

新型Golf Rの特徴は

試乗に入る前に、新型Golf R/Golf R Variantについておさらいしておこう。新型Golf R/Golf R Variantは、マイナーチェンジを実施した8代目Golfのトップモデルで、新デザインのヘッドライトやテールライト、イルミネーション付きVWエンブレム、よりスポーティなデザインとなったバンパーなどによって、これまで以上に精悍なデザインに仕上げられている。

搭載される2.0 TSIエンジンは、マイナーチェンジ前に比べて最高出力が10kW(13ps)アップし、245kW(333ps)/5600〜6500rpmを発揮。最大トルクは従来と同じ420Nmとしながらも、発生回転域が2100〜5500rpmと、より高い回転域まで最大トルクが持続する特性となっている。これに7速DSGと4WDの4MOTIONが組み合わされ、ハッチバックでは0-100km/h加速は4.6秒を誇る。

マイナーチェンジ前と同様、「Rパフォーマンス トルクベクタリング」が搭載されるのもGolf Rの特徴のひとつ。エンジンのトルクをフロントとリヤアクスルに配分するだけでなく、リヤアクスルの左右のトルク配分を自在にコントロールし、コーナリング性能を高める「Rパフォーマンス トルクベクタリング」が標準で搭載される。その実現のために、リヤアクスルには2個の多板クラッチが搭載され、リヤの外輪により多くのトルクを配分することで、コーナリングしやすい状況を生み出す。

この4MOTIONに加えて、電子制御ディファレンシャルロック“XDS”やアダプティブシャシーコントロール“DCC”を、“ビークル ダイナミクス マネージャー(Vehicle Dynamics Manager)”が統合制御することで、優れたコーナリング性能を発揮するというのだ。

走行モードは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」の5つが用意され、「カスタム」ではドライバーの好みにあわせたセッティングが可能である。

日本では、新型Golf R/Golf R Variantともに、「R」と「R Advance」の2グレードが設定される。Golf RとGolf Variant R(グレードとしての表記は“R”と“Variant”が逆転する)には225/40R18サイズのタイヤが装着されるのに対して、Golf R Advance/Golf Variant R Advanceではタイヤが1インチアップの235/35R19になるとともに、鍛造アルミホイールの“Warmenau(ヴァルメナウ)”が装着されるのが見どころのひとつ。さらに、DCCとR専用電動ナパレザーシートが標準装着されるのも見逃せない。

Rパフォーマンス トルクベクタリングの効果は絶大

まずは、Golf R Advanceでハンドリングトラックに向かった。ここでは、プロドライバーがGolf GTIで先導し、それを2台のGolf R Advanceで追いかける。ちなみに、私のグループを先導するのは、TCRジャパンシリーズにAudi RS 3 LMSで参戦し、優勝経験もある加藤正将選手で、ドライビングレッスンなどではわかりやすく的確なアドバイスに定評がある。

ハンドリングトラックの前半はS字コーナーが続く上り勾配。今回はクルマの挙動を把握しやすいよう、あえてコースの中央を維持するように走行する。走行モードをレースに切り替え、1周の慣熟走行のあと、2周1セットを数回繰り返すことができた。最初のうちは加藤選手がドライブするGolf GTIについていくのが精いっぱいだったが、4回目くらいになるとコースにもクルマにも慣れてきてペースがあがり、それにあわせて加藤選手もスピードを上げていく。

各コーナーでは、DCCにより減衰力が高められたダンパーがロールを抑え、しっかりと踏ん張るフロント外側のブリヂストン・ポテンザS005が気持ち良くクルマの向きを変えていく。そして、コーナーの途中でアクセルペダルを踏み込むと、ふつうならアウトに膨らむところを、このGolf R Advanceは狙いどおりのラインをトレースし、まさにアンダーステア知らず。そのときのリヤの接地感はきわめて高く、安心してアクセルペダルを踏み込めるのが、私のペースが上がった理由だ。

これに貢献しているのがRパフォーマンス トルクベクタリングで、コーナー途中で加速する場面でリヤ外側のトルクを厚くすることで、エンジンのトルクを余すところなくタイヤに伝えるとともに、アンダーステアを抑えてくれるおかげで、ハイスピードかつ安定したコーナリングを実現するのだ。

一方、先導するGolf GTIは、ペースが上がるにつれてプロドライバーの腕をもってしてもコース中央をキープできなくなり、後ろから見ていても苦労しているのがわかる。Golf GTIでハンドリングトラックを走ることもできたが、前2輪で加減速と旋回を行うGolf GTIはFFスポーツとしては軽快さとハンドリングの高さが際だつが、4輪で加減速を行う4MOTIONにRパフォーマンス トルクベクタリングを搭載したGolf Rはコーナリング性能がより一層ハイレベルで、コーナーでの舵角も少なく、まるで違うクルマを運転しているようだった。

Golf Rの開発に携わるロイヒター選手によれば、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは、Golf7 Rに比べてGolf8 Rは19秒速い7分51秒。一方、Golf8 Rの開発車両で、Rパフォーマンス トルクベクタリングの有無でタイムを比べたところ、搭載された車両は12秒速かったという。つまり、Golf7 Rに対する19秒のアドバンテージのうち、その半分以上がRパフォーマンス トルクベクタリングによるものというわけだ。

走行モードで何が変わる?

ダイナミックエリアではパイロンスラロームにより、走行モードの違いで走りがどう変わるかを確かめた。試乗車は19インチタイヤが装着されるGolf Variant R Advanceで、コンフォート、スポーツ、レースの3つを試した。

名前からも想像できるように、コンフォートよりもスポーツ、スポーツよりもレースのほうがダイナミックな走りをもたらし、この順にエンジンのレスポンスやDCCの硬さが増していく。加えて、コーナリングの際などは、コンフォートに比べてスポーツとレースのほうがリヤアクスルへのトルク配分が大きくなるという。

実際に走り比べると、コンフォートに比べて、スポーツとレースではステアリング操作に対する反応が鋭くなるうえ、Rパフォーマンス トルクベクタリングの効果が強く表れるぶん、曲がりやすいのが感じ取れた。

一方、スポーツとレースにも違いがあり、スポーツではコーナリング時にXDS(電子制御ディファレンシャルロック)機構が内側のホイールにブレーキをかけることで曲がりやすくするのだが、レースではXDSがキャンセルされる。というのも、レースのようにサーキット走行を続ける場面では、XDSがブレーキを多用することでブレーキパッドやブレーキローターが高温になり“フェード”の原因になる場合があるからだ。これを防ぐために、レースモードではXDSを使わない設定としている。ただ、パイロンスラロームをするかぎりはその違いは感じ取ることができず、Golf RではRパフォーマンス トルクベクタリングが搭載されるぶん、XDSの効果は小さいのかもしれない。

そしてドリフトサークルでは、Golf Rでドリフトに挑戦。Golf Rの場合、ESCを完全にカットすることができるとともに、カスタムモードのドライブ設定から、エンジンやDSGがよりダイレクトに反応する「スポーツ+」を選ぶことが可能。このパートのインストラクターを務める森岡史雄氏によれば、この状態で、水をまいた低μ路に入り、ステアリングをイン側に切るのをきっかけとしてアクセルペダルを踏み込むと、簡単にドリフト走行ができるといい、実際に森岡氏がその様子を見せてくれた。

ただ、こういう場面で実際に自分でステアリングを握ると、ただただアンダーステアを出すだけだったり、スピンしたりということが多いのだが、このGolf Rではほんの数秒とはいえ、ステアリングを中立に保ったまま、うまくコントロールできている瞬間があったのには驚きで、今回はひとりあたり10分弱の走行だったが、もう少し長く走れば上手くできるようになるかもしれないと思った。

ビークル ダイナミクス マネージャーがもたらす一体感

走行プログラムをひととおり終えて館内に戻ると、ロイヒター選手を取材できることに。そこで、ずっと疑問に思っていたことを彼に聞いてみた。

私は以前、7代目Golfの「GTI Clubsport」を所有していて、現在は8代目Golf GTIに乗っている。どちらもDCCと電子制御油圧多板クラッチ式のフロントディファレンシャルが装着され、2.0 TSIの最高出力はGolf7 GTI Clubsportの265psに対して、Golf8 GTIのそれは20ps控えめの245ps。それだけにGolf7 GTI Clubsportのほうが力強い走りを見せるが、一方、Golf8 GTIはドライバーとクルマとの一体感が強く、意のままに操ることができるという点ではGolf8 GTIのほうが好ましいと思っている。

この一体感の理由について、Golf8 GTIやGolf8 Rに搭載されているビークル ダイナミクス マネージャー(以下VDM)が貢献しているのではないかと考えていた。そこで、ロイヒター選手に、VDMの効果を尋ねると、「VDMによって、より先を見通せるようになりました。クルマを運転しているときに、システムは常に最適な挙動を計算していてます。いまの状況と本来あるべき姿を比べて、そのあいだをVDMが素早く調整しているのです」と話す。

ロイヒター選手はこう続ける。「実際にGolf8 Rでニュルブルクリンクを走ると、レスポンスがとても向上していました。たとえば、ステアリングを操作するとクルマは向きを変え始めますが、Golf7 RではDCCがロールを検知して減衰力を高めるのに対して、Golf8 Rではステアリング操作していることをVDMが把握しているので、この舵角だからあらかじめDCCの減衰力をこれくらいに高めておこうと先読みするおかげで、そのぶんクルマのレスポンスが早くなるのです」。

イベントのために来日したフォルクスワーゲンRのブランドアンバサダーを務めるベニー・ロイヒター選手(左)と、フォルクスワーゲンRテクニカルデベロップメント Golf R担当インテグレーション マネージャーのヨーナス・ティーレバイン氏(右)

同じことがGolf GTIでもいえ、VDMによる先読みの制御が、ドライバーとクルマの一体感に効いていると確信。マイナーチェンジではさらにそのあたりのコントロールが洗練された印象で、GTI、Rともに、走りの完成度はますます高まっている。

貴重な体験となったThrilling Rのメディア向け試乗会。一般向けイベントでも同様の走行プログラムが用意されているということなので、参加予定の人はぜひイベントを満喫してほしい。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Kinara Arashima, Satoshi Ubukata, Volkswagen Japan)