T-Roc、ポロ、T-Crossがヒット

イタリアの新車登録台数で、フォルクスワーゲン(VW)が初めてフィアットを抜いた。

統計は、イタリアの自動車販売業者団体「UNRAE」が、2024年1月2日に発表したもの。2023年12月のブランド別国内新車登録台数で、VWは10,752台を記録。10,523台のフィアットを超えて1位となった。現地報道によると、イタリア自動車販売史上VWの1位は初めて。3位は7,188台を記録したトヨタだった。

シエナのVW販売店「エウロモトーリ」で。2022年撮影。

VWの製品系列中でもっとも貢献したのは BセグメントSUVのT-ROC(3477台)。次いでBセグメントのポロ(1941台)、そしてBセグメントSUVのT-Cross(1775台)だった。前年同月比でT-ROCは約2倍、ポロは約4倍、T-Crossは約1.3倍と、いずれも大きな伸びを示した。

対するフィアットは、「500」こそ前年同月比で微増の1367台を記録したものの、再量販車種のパンダが20%減の6992台と振るわなかった。

2013年通年の登録台数では、依然フィアット(174,580台)が、VW(122,794台)を大きく引き離している。また、ランチア、アルファ・ロメオなどを含めたステランティス・グループとして捉えると、今もってVWを大きく超えている。

トッレ・デル・ラーゴの町で作曲家ジャコモ・プッチーニの別荘前に佇むT-Roc。2019年撮影。

だが1899年の創立以来、イタリアを代表する量産ブランドであり、2000年前後の経営危機においてもトップを維持したフィアットの首位陥落は、業界関係者を震撼させた。

好敵手は間違いなし

早速インターネット上には、フィアットの母体であるステランティス・グループがグループPSAとの合併によって誕生したことにちなみ、「フランス式経営がイタリア産業を葬り去ろうとしている」といった意見が投稿されている。「アイデンティティ、歴史、ブランドそして伝統などを売り払った会社の製品を、誰が買おうか」といった、よりフィアットに厳しい指摘もみられる。

シエナのフィアット・ブランド販売店。左からパンダ、ティーポそして500e。2021年撮影。

筆者が考えるに、VW-フィアットともに、統計には販売店による自社買い取りも一定数含まれているであろう。それはともかくVW首位の背景を分析すれば、第一にBEVを除いた車種数がフィアット5に対して、VWは9と優位にあることがあろう。

第二に、フィアットにはT-Roc、T-Crossに相当する売れ筋のSUVモデルが事実上存在しないことがある。

シエナ旧市街を行くT-Roc。2021年撮影。

第三に、フィアットは主力車種がいずれも発表から相当の年月が経過し、顧客にとって近年新鮮味が不足していることがある。1980年代からフィアット車の地域販売店で働くイタリア人営業所員は「パンダは2011年、500Xは2015年の発表。ティーポはやや新しいが、明らかに新興国市場向け製品だ」と、みずからが扱うブランドの弱点を分析した。

フィアットは、イタリア政府が2023年12月に導入した新車買い換え奨励政策をもとに「パンダが10,000ユーロ以下で買える」キャンペーンを開始。逆転攻勢に出ている。より長期的にみれば、ステランティス・グループ全体が、フィアットより収益性の高いランチアなどプレミアム・ブランドへと軸足を移すことも考えられる。いずれにせよ、フィアットにとってVWの台頭は、より良い製品づくりの好敵手となることは間違いない。

(report & photo 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)