ついに日本上陸を果たした「ID.4」に試乗。その実力は?

ID.モデルによりBEV(バッテリー電気自動車)攻勢をかけるフォルクスワーゲンが、満を持して日本市場に投入したのがID.4。電気自動車用のプラットフォームとしてフォルクスワーゲンが新たに開発した「MEB(モジュラー・エレクトリック・ツールキット)」を利用し、長い航続距離と広々とした室内、ダイナミックな走りを実現するSUVタイプのBEVだ。

その概要は上記のニュースをご一読いただくとして、ひとあし先に上級グレードの「ID.4 Pro Launch Edition」を試乗することができた。ID.4 Pro Launch Editionには、“ブルーダスクメタリック”、“ムーンストーングレー”、“ストーンウォッシュドブルーメタリック”、“グレイシアホワイトメタリック”の4色が用意され、いずれもルーフがブラックのツートーンペイントが施される。今回はその中から、コミュニケーションカラーのブルーダスクメタリックを選んだ。シルバーのルーフアーチが際だつ、印象的なボディカラーだ。

試乗時間が限られるため、さっそく運転席に向かうと、これまでのフォルクスワーゲン車にはない儀式が待ち受けていた。

過去にさまざまなフォルクスワーゲン車に触れてきたが、そのほとんどがグリップ式のドアハンドルを採用してきた。私の体験の中でグリップ式以外を採用するのは、“1Lカー”として知られる少量生産の「XL1」だけ。ところがID.4では、フラットなデザインのドアハンドルが備わっている。もちろん、空気抵抗を減らすための工夫だ。ID.4では、フラップの裏側にスイッチがあり、これに軽く触れるとドアが開く仕組みである。

運転席に座ると、そこから見える風景は心地よいものだった。ダッシュボードの上は茶色のレザレット(人工皮革)で覆われ、コントラストカラーのステッチとあいまって上質な雰囲気。シンプルなデザインのダッシュボードも印象を良くしている。

ダッシュボードの中央には、Golf8オーナーには見慣れたデザインのタッチパネルが備わっている。せめてエアコン操作は独立したスイッチがほしかったが、それは叶わぬ夢。その下にはハザードスイッチなどが並んでいるが、Golf8のようにハザードスイッチを囲むように他の4つのスイッチがないぶん、ハザードスイッチを押すときに誤って他のスイッチに触れるトラブルは減りそうだ。

Golf8と大きく異なるのが、純正ナビゲーションシステムが設定されないこと。ルート案内が必要なら、スマートフォンとの連携機能に頼る必要がある。ただ、Golf8のオーナーとしては最新の純正ナビがお世辞にも使いやすいとはいえず、スマートフォンの地図アプリのほうがむしろ良いと思えるから、純正ナビが用意されないことに不満はない。ちなみに、CarPlayでApple純正のマップアプリを利用すれば、メーターパネルにルート案内の矢印を表示させることが可能だ(地図は表示されない)。

一方、現在新車で販売されている他のフォルクスワーゲン車に搭載されているオンラインサービスが、このID.4に搭載されないのは残念だ。スマートフォンから充電指示ができたり、乗車する前にエアコンをオンにしたり、あるいは自動で地図更新するといった機能が利用できないのはなんとも不便で、一日も早く対応してほしいところだ。

ドライバーインフォメーションディスプレイと呼ばれるメーターパネルは5.3インチと小さめだが、一時期の日産車のように、ステアリングコラムとともにチルトやテレスコピック調整できるので、意外と見やすい。そして、ドライバーインフォメーションディスプレイの右から生えているドライブモードセレクターも、手が届きやすい位置にあり、しかも視界に入るので誤操作の心配がないのがうれしい。

フロントのパワーシートは、マイクロフリースとレザレットのコンビネーションで見た目が良いことに加えて、シートヒーターやマッサージ機能(運転席のみ)が装着される多機能ぶりだ。

一方、リヤシートは2770mmのロングホイールベースのおかげで、ラクに足が組めるほどの余裕がある。センタートンネルがないので、左右の移動がラクにできるのもうれしいところだ。

ラゲッジスペースは、奥行きや幅はTiguanよりも余裕があり、SUVとしては十分な広さを確保している。フロアボード下には約15cmの空間があり、フロアボードを下げて使うことも、床下収納として使うことも可能だ。そのさらに下のスペースにはサブウーファーが隠れている。ID.4 Pro Launch Editionにはフォルクスワーゲンサウンドシステムが標準で装着され、実際に試してみると、Golf8のプレミアムサウンドシステム“Harman Kardon”に迫る気持ちのいいサウンドが楽しめた。

前置きはこのくらいにして、クルマを走らせてみよう。最近のBEVではよくあるが、このID.4もスタートボタンの操作は不要。ブレーキを踏み、ドライブモードセレクターでDレンジを選べば発進の準備は完了である。あとはブレーキから足を離せば、クルマはゆっくりとクリープを始める。

ここで軽くアクセルペダルを踏むと、動き出しこそ穏やかだが、少しスピードが上がると加速に力強さが感じられるようになる。BEVというとガツンと勢いよく動き出すイメージがあるが、あえて尖ったところを丸めることで、エンジン車から乗り換えても違和感なくドライブできる工夫がなされているのだ。一方、アクセルペダルを深く踏み込むと、背中を押されるような勢いはないものの、それでも余裕たっぷりの素早い加速が楽しめる。モーターの大トルクをしっかりと後輪が受け止め、余すところなく加速に変えてくれるのも、加速時のトラクションに優れる後輪駆動のアドバンテージだ。

BEVでは、アクセルペダルを踏む足を戻したり、離したりすることで、回生ブレーキを効かせることができるが、ID.4ではコンフォートモードでDレンジを選択した場合には回生ブレーキが効かないコースティング(惰力走行)を行う一方、Bレンジではやや強めの回生ブレーキを効かせることが可能だ。ダイナミックモードでは少し弱くなるがDレンジでも回生ブレーキが効く。

Bレンジを使うと、よほどの急ブレーキや、街中で50km/hから減速して交差点を曲がるといった場面を除いて、回生ブレーキでほぼカバーできる。一方、アクセルペダルから完全に足を離しても、完全停止にはいたらず、最終的にはブレーキペダルを使うことになるが、それが煩わしいとは思わなかった。

気になったのは、コンフォートモード/Dレンジでブレーペダルを操作するときの感触。軽くブレーキをかける場面では、フロントタイヤが路面に食いつく感じはなく、やや頼りない印象なのだ。これは、軽いブレーキングでは前後の油圧ブレーキは使わず、リヤアクスルのモーターによる回生ブレーキを使用するからで、慣れれば違和感も薄れるだろう。

ID.4 Pro Launch Editionの乗り心地は期待以上。このクルマには前:235/50R20、後:255/45R20のブリヂストン トランザ エコが装着されていたが、路面とのコンタクトはスムーズで、乗り心地もマイルド。大径ホイールと大きなタイヤだけにタイヤのバタつきを覚悟していたが、そうした動きもしっかりと抑えられており、目地段差を通過する際のショックも巧みに遮断している。ロードノイズやパターンノイズ、風切り音もよく抑えられており、快適なドライブを楽しむには格好の一台だ。

SUVスタイルながら低重心のBEVらしく、走行時の挙動は落ち着いており、高速走行時のフラット感もまずまず。一方、コーナーでは後輪駆動らしい素直で軽快なハンドリングを示す。FFや4MOTIONのフォルクスワーゲンとは別世界の、操る楽しさがあった。

細かい不満はあるものの、総合的には実に高いレベルの仕上がりを見せるID.4。このクラスのBEVのベンチマークとなる可能性は高い。

今回は限られた時間の試乗だったため、急速充電能力や電費については確認できなかったが、今後じっくり時間をかけて検証していきたいと思う。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Satoshi Ubukata, Volkswagen Japan)