リフレッシュを終えたルポGTIをワイディングロードに連れ出して、その仕上がりをチェックする。

※2013年5月の記事を再構成して掲載しました。

「徹底的にリフレッシュした」とは聞いていたが、まさかこれほどとは思わなかった。2003年モデルの「ルポGTI」、見た目だけでなく、走らせても「まるで新車!」のようだった。

それにしても見事な仕上がりである。磨きとコーティングで輝きを取り戻したボディはもちろんだが、インテリアに眼を向けてもステアリングやシフトレバー、ウィンカーレバーなど、細かいところが新品に交換されていて、実に気持ちがいい。

「リフレッシュの見本」とはまさにこのことで、手に触れる部分を換えることで"触感"までもが新車になっている。こういう部分にオーナーのこだわりと、クルマへの愛情がよく現われている。

いつのもワインディングロードを走らせると、10年前に試乗したときの記憶が蘇ってきた。しかもコーナーを抜けるたび「そうだよな、そーだったよな」と、忘れかけていた記憶が鮮明になっていく。

それはまるでモノクロ写真に少しずつ色が付いていくようなのもので、もうすっかり忘れていたはずのAVY型ユニットのスペックや特性が次々と思い出されてきた。

最高出力はたったの92kW、最大トルクもわずか152Nmしかない。1.6リッターの排気量にしては非力だ。それなのに、走らせるのがとても愉しいエンジンなのである。

使い切る楽しさとでもいえばいいのだろうか。とにかく常に高回転を維持するためにシフトチェンジを繰り返し、さらに過度のアンダーステアを出さないように運転しなければならないだが、その"工夫"と"努力"が運転しているという実感を生み出し、いつしか運転に夢中になってしまうのだ。

カタログにはたしか3000rpmで最大トルクの15.5mkgを生み出すと書いてあったはずだが、ルポGTIでパワーを感じるのは4000rpmを超えてからで、レッドゾーンのはじまる6800rpmのちょっと手前、6500rpmまでがパワーバンドである。

その力感の変化は、タコメーターなぞ見る必要もないほどで、6200rpmで回転の上昇が鈍りはじめるのですぐにわかる。ちなみに、最高出力の125psを発揮するのは6500rpmである。低速トルク型に見えて、実は高回転型の出力特性なのだ。

常に安定した弱アンダーステアを示すのがルポGTIの特徴だが、その快いハンドリングには、もちろん秘密がある。答えは"軽さ"で、1010kgという車重がこのクルマの魅力の根源といっても過言ではない。

前後重量配分は64:36(前650kg、後360kg)とけっしてほめられた数値ではないのに、不思議なほど頭の重さが気にならず、むしろ全体としての軽さが強調されて、コーナリング時のキビキビ感が快い操縦性を生み出している。

これにはブレーキも一役買っていて、カチッとした踏み応えのペダルタッチと適度なストローク、そして絶対値としての制動性能の高さが、コーナー進入時の適切な姿勢と軽快な運転のリズムを作り出している。

そう、軽さがブレーキを助け、助けられたブレーキがリズミカルな操縦性を生み出す要因になっているのである。

そうやって運転に没頭していたら、あっとい間にガソリンが減って、危うく立ち往生するところだった。容量34Lという、非常に小さなガソリンタンクの存在を忘れていたのだ。この航続距離の短さがルポGTIの最大にして唯一の欠点である。

しかし、それを承知の上でも「ほしい!」と感じさせるだけの魅力がある。これほど運転に夢中にさせてくれるクルマはそう多くはないからで、そういう意味では、ルポGTIはとても貴重な"スポーツカー"といえるだろう。

(Text by Tsutomu Arai / Photos by Hiroyuki Ohshima)