今回はイタリアにおけるフォルクスワーゲンの中古車人気について記そう。

4代目ポロを2019年夏エルバ島で撮影。2004年以前の前期型だから、車齢は15年以上ということになる。

検索サイトで1位・2位

2020年5月のイタリア国内新車登録台数は99,711台で、前年同月比49.61%減となった。

新型コロナウイルス対策による外出制限・移動制限がすべての日に及んだ4月(97.5%減)よりも回復したかたちだ。だが、依然ディーラー関係者を震え上がらせる数字であることに変わりはない(データ出典:UNRAE)。

州境の往来が解禁された6月第1週、イタリア政府内で自動車市場を活性化する政策が数案検討されていると報じられたものの、いつ施行されるかまでは明らかにされていない。

傍らで、イタリア自動車クラブ(ACI)は、ある試算を発表した。それによると、2020年中に、国内の路上を走る乗用車の5台に1台は車齢18年以上になる。

日本の乗用車の平均車齢8.60年(データ出典:「自動車検査登録情報協会」2018年)からすると、倍以上ということになる。18年前といえば2002年。日本でいえば平成14年である。当時の首相は小泉純一郎氏で、自動車界ではトヨタがF1世界選手権に参戦した年だ。いやそれよりもアザラシの「タマちゃん」が多摩川に出没した年といえば、それなりに昔であることを感じていただけるだろう。

以下いずれもシエナにて2020年5月から6月撮影。これは木陰に狼(lupo)の如く潜んでいた往年のシティカー、ルポ。最終年は2005年だから、こちらも15歳以上だ。

イタリアに話を戻せば、中古車販売の落ち込みは、さいわい新車のレベルにまでいたっていない。市場の指標である5月の名義変更数は、前年同月比30.3%減にとどまった(データ出典:ACI)。

ところで、イタリアに代表的な中古車検索サイト「Automobile.it」は、2019年に同サイトで最も検索件数が多かったトップ10を発表している。そのなかで首位の国産車フィアット パンダに次ぐ2位は、フォルクスワーゲン ゴルフ4である。

ある日バス停脇に一時停止したゴルフ4の2ドア。イタリアの強い陽光のもと退色しやすいソリッドのレッドということもあり、すでにピンクがかっている。

さらに驚くべきことに、3位には2代目ティグアン、8位にT-Roc、10位にポロと、10車種中計4車種をフォルクスワーゲンが占めている。

中古品総合検索サイト「スービト」でも類似のデータがある。2017年における自動車のサーチ履歴5千万件を調べたところ、最も検索されたのはフォルクスワーゲン ゴルフであった。イタリアではフォルクスワーゲンの中古車が人気なのだ。

上の写真と同じ車。明らかにテールゲートを交換した形跡あり。

たしかに、街なかを観察しても、ちょっと古い、または相当古いフォルクスワーゲンは簡単に見つけることができる。

どういったところが魅力なのか?

鍵は「タイムレス感」

知人でイタリア語学校の校長を務めるマウロ・ファレリ氏(59歳)も、かつて白のゴルフ2に長年乗っていたので、聞いてみることにした。

「かなり加速力があったので追い越しが楽でしたね。サイズが非常にコンパクトで、シエナのような小さな町では、駐車が楽なのも便利でした」

とくに気に入っていたのはスペースユーティリティーで、ロードバイクを趣味とするマウロ氏には理想の車だったという。「簡単な操作で後席が畳めて、広い空間が作れました。ロードバイクの前輪を外せば、楽々2台分を搭載できましたね」と振り返る。

かつてゴルフ2の元オーナー、マウロ・ファレリ氏。ロードバイク2台をいとも簡単に飲み込んだと回想する(写真は2007年撮影)。

参考までに、イタリアの中古車検索サイトを確認すると、ゴルフ2は密かな人気があるようだ。33年落ち・走行18万キロでありながら1000ユーロ(約12万円)といった個体も見受けられ、2代後であるゴルフ4よりも高額であったりする。

ゴルフ1のようなコレクターズアイテムでないことを考えると、道具としての優秀性や、マウロ氏が指摘するそのスペース効率がいまだ一部ユーザーの間で評価されていると考えられる。

ゴルフ2も元気。1992年までなので、最も若くても28年選手である。

より本質に迫るべく、少し前に土産物店店主ドゥッチョに聞いた話も紹介しよう。

ゴルフ4やアウディA3などを乗り継いできた彼は、「フォルクスワーゲンもアウディも、年数が経っても、あまり古く見えないから」との選択の理由を語る。

たしかに、そのタイムレス感も、イタリアでフォルクスワーゲンが評価されている理由であろう。

イタリア人の大半は、服装こそトレンドをさりげなく取り入れるが、こと耐久消費財となると流行に左右されないスタイルを最優先にする。家を選ぶとき、コンクリートの家よりも煉瓦造りの家、煉瓦造りの家よりも石造りの古い家に憧れるのは、その一例だ。

車に関しても、人々は、どの車が古臭くならないか、無意識のうちに観察しているのだ。

4代目ポロ。市街地の道路が狭く、駐車場の争奪戦が激しいイタリアでは「ゴルフはちょっと大きくて」というユーザーに、早くから受容された。

ここからは筆者の見解だが、イタリアでは「本当は低年式だけど、古臭く見えないフォルクスワーゲン」が増えることでブランドイメージが向上し、新車のセールスにも貢献していると考える。

事実、自動車市場が冒頭のような逆境で台数を大幅に減らしても、フォルクスワーゲンの新車はイタリア国内シェアを保っている。

2020年1-5月のブランド別国内新車登録台数において、フォルクスワーゲンは42,610台(前年同期比マイナス48.48%)を記録。フィアットの71,422台(同マイナス51.55%。いずれもUNRAE調べ)に次ぐ2位を維持した。

さらに5月の車種別ランキングでは、T-Roc(2501台)が、フィアット パンダ(6477台)に次ぐ堂々2位に這い上がっている。

逆風が吹き荒れた期間だからこそ、フォルクスワーゲンの根強い人気が証明されたかたちだ。

元気な古いフォルクスワーゲンは、間接的に人々の新車購入意欲を促進している。

景気回復が不透明な中、イタリアの人々は自分の車をより長く乗るようになるに違いない。欧州排出ガス基準「ユーロ」の達成目標があるため、さすがに1950年代のアメリカ車が往来するキューバ状態にはならないだろうが、平均車齢はまだまだ上がってゆくだろう。

かつてスティーブ・ジョブスは「すり傷のついた(iPadの)ステンレスは美しいと思う」と語り、ダメージはユーザーと年輪を重ねた証であることを示唆した。フォルクスワーゲンの場合もしかり。酷使されてスクラッチがついたり退色しても、かえってそれらは人に寄り添ってきた証であり、まさにイタリアでも“国民車”になっていることを感じさせる。

昔の名作CMソング風にいえば、「誰もいないと思っていても、どこかでどこかでフォルクスワーゲンが」。週末、老紳士たちが集うバール横に佇んでいた4代目ポロ後期型。

ついでに今回は、写真の車と同型車をお持ちの読者に、愛車の仲間がイタリアで健在であることを知っていただければ、筆者としてこれほどうれしいことはない。

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)