人気のコンパクトSUVセグメントにフォルクスワーゲンが投入した「T-Cross」をプレス試乗会でチェック。その見どころは?

フォルクスワーゲン グループ ジャパンでは、2019年11月末、ポロクラスのコンパクトSUVであるT-Crossを日本でも発表した。当面、導入特別仕様の「T-Cross TSI 1st」と「T-Cross TSI 1st Plus」の2グレードで展開され、今回は装備が充実したT-Cross TSI 1st Plusを試乗することができた。

T-Crossの概要は上記のニュースをご覧いただくとして、あらためてT-Crossを眺めてみると、現行「ポロ」に対して全長が55mm、全幅が10mm大きいボディが、サイズ以上に大きく感じられ、一気に存在感がアップしていることに驚く。コントラストカラーのフェンダーアーチモールやアンダーガード風の前後バンパーなど、SUVならでの演出とあいまって、アクティブなライフスタイルを想像させるだけに、フォルクスワーゲン以外のユーザーから注目を集めているというのも納得がいく。

室内は、オレンジのダッシュパネルが目をひく。T-Cross TSI 1st Plusでは、ドアミラーやアルミホイール、インテリアを、オレンジ、グリーン、ブラックでコーディネートする「デザインパッケージ」が採用され、この試乗車はオレンジでカラーコーディネートされていた。

純正ナビゲーションのDiscover Proはポロと同じデザイン。シフトレバーにポジションが表示されるのが、フォルクスワーゲンとしては新しい。パーキングブレーキは、レバーを引く機械式。アダプティブクルーズコントロールの使い勝手を考えると、EPB(エレクトリックパーキングブレーキ)を採用してほしかった。

驚くのは後席のスペース。T-Crossのリヤシートには前後14cmのシートスライド機構がつくが、いちばん後ろのポジションにした場合、膝の前には拳3個ぶんのスペースがあり、足元も余裕があるので、とても広々とした印象だ。荷物が多いときに、シートのスライドをいちばん前にしても、膝の前にはまだ拳1個ぶんの余裕が確保され、窮屈な思いをしないですむのもうれしい。なお、リヤシートは分割可倒式だが、スライドは左右一体型で、リクライニング機構は搭載されない。

ラゲッジスペースは、奥行きは60cm強とボディサイズ相応だが、幅と高さが稼げるぶん、通常でも385〜455Lと収納能力は高い。荷室のフロアは必要に応じて位置の変更が可能で、上の段にすれば開口部との段差がほぼなくなり、また、倒したリヤシートとの段差もないので、大きな荷物を積むような場面では重宝しそうだ。

スタイリッシュなデザインのフロントシートに収まると、少し高めのアイポイントがSUVらしく、それでいて見下ろすほど高すぎないので、あくまで乗用車感覚で運転できるのがうれしいところだ。

さっそくドライブを始めると、T-Crossの動き出しはやや緩慢な印象だが、走り出してしまえばなかなか軽快な動きを見せる。やや硬めに躾けられた足まわりのおかげで、SUVに見られがちな縦の動き(ピッチング)や横の動き(ロール)は抑えられており、運転しているかぎりは全高や最低地上高の高さは気にならない。大型SUVと異なり、コンパクトなサイズのボディが扱いやすいのも、T-Crossの魅力のひとつだ。

ただ、硬めのサスペンションセッティングに加えて、215/45R18サイズのタイヤと18インチホイールを装着することもあって、一般道では路面の荒れをコツコツと伝え、目地段差を越えたときのショックの遮断もいまひとつ。もちろん、街乗りするのに十分な快適さは確保されているが、ハッチバックには一歩及ばないというSUVの弱点は、このT-Cross TSI 1st Plusにもあてはまる。

搭載される1.0 TSIエンジンは、2000rpm手前あたりからトルクの厚みを感じさせ、高速道路の流入や追い越しなどの場面でも、ストレスを感じさせない加速を見せてくれる。

その一方で、50〜60km/hあたりで一般道を走るような場面ではエンジンの回転数が2000rpmを下回り、その回転域ではややエンジンの反応が鈍く、また、3気筒エンジン特有のノイズや振動が気になることもあった。

個人的には、多少値段が高くなっても、1.5L直列4気筒ターボの1.5 TSIエンジンを、日本にも導入してほしいと思う。

それでも、T-Crossのスポーティなスタイルや、余裕ある室内スペースなど魅力を感じるのであれば、乗り心地やエンジン性能はさほど問題にならないだろう。流行のコンパクトSUVでフォルクスワーゲンデビューをしたいという人からは、大いに人気を集めそうなT-Crossである。

(Text & Photos by Satoshi Ubukata)