イタリアにおける2019年9月の新車登録台数は88,939台で、前年同月比マイナス3.11%となった。そうした先行き不透明な状況下で、数少ない活況を呈しているブランドといえば、ルノーのサブブランドであるダチア(29.24%増)と、フォルクスワーゲン(13.09%増)である。

ダチア、フォルクスワーゲンとも好調を支えているのはSUVだ。事実、車種別ランキングでは、ダチアのSUV、ダスターが2位(2,899台)、フォルクスワーゲン T-Rocが10位(1,908台)に入っている。後者はフォルクスワーゲンのなかで目下トップの売れ行きである。

それがどの程度効果を発揮しているかは未知数だが、2ブランド共通のものといえば、ここ数カ月の広告手法だ。

ダチア・ダスターは、残価設定+60回長期ローンで「1日約5ユーロから」を売りにしている。5ユーロは2019年9月の換算レートで、およそ600円だ。

いっぽうのフォルクスワーゲンも2019年夏から同様の「1日5ユーロ」キャンペーンを展開中である。ただしフォルクスワーゲンの場合は「2シェア(トゥーシェア)」というタイトルが付いている。

どういうことなのか? わが街シエナのフォルクスワーゲン販売店「エウロモトーリ」に赴いてみた。

参考までにシエナの「エウロトモーリ」は、2018年にトヨタからフォルクスワーゲンに取り扱いブランド転換した店である。以下写真は、イタリア地方都市におけるフォルクスワーゲン店のムードを味わっていただくため掲載する。

実際に聞いてみると、「2シェア」は「シェア」と名が付いていても、一般的にいうカーシェアリングではなく、長期リースであった。

契約にあたって顧客は、もう1名のユーザーを選ぶ。

「友達、親戚、会社の同僚。誰でも可能ですよ」とセールスマンのジャンニ氏(写真の右から1番目)は説明する。

車両の所有権はフォルクスワーゲンが保持するが、2名で“割り勘”することにより、月々のリース料も半分になる。リース期間と総走行距離の設定によるが、up! 3ドア1.0(60ps)の場合、頭金無しの1カ月300ユーロ。ひとりひと月あたり150ユーロ、1日あたり5ユーロで乗れる。

料金には、日本の自賠責に相当する保険、盗難・火災保険、定期点検および臨時点検、ロード・アシスタンスなどが含まれる。

しかし、提供されるフォルクスワーゲンはたった1台だ。2人がまったく同じ場所を往復するか、もしくは別の時間帯に使わないと不便であろう。

ジャンニ氏によると「感心を寄せたお客さんは、すでに複数いる」と言うが、その話しぶりからして軌道に乗るか乗らないかは、これからとみた。

だがイタリア人の場合、この「2シェア」の適用は、けっして絶望的ではないだろう。背景のひとつは、ビジネスパートナーや家族による小規模企業が多いことだ。

EUの2015年調査によると、イタリアでは95%が中小企業で、従業員10人以上の企業は僅か5%に過ぎない。

とくに家族営業は、中小企業のうち85%にのぼる(2018年11月ボッコーニ大学ほか調べ)。

たとえ相方が別の家に住んでいても、どちらかが運転し、途中で相手を拾ったり下ろしたりして通勤すればよいケースが多々ある。

休日も大抵行き先が決まっている。とくに夏は海だ。それも地元の人が行くビーチは限られているため、誘い合って乗って行けば良い。参考までに、イタリア宿泊業協会が2019年に発表したイタリアの夏休みの行き先は、71%が海であった。フォルクスワーゲンが取り合いになる場面は、日本より少ない。

また、悲しいかな公共交通機関が貧弱なのを背景に複数台所有の家庭が多い。そのため、2台め、3台めのクルマとして「2シェア」を選ぶ可能性もある。

面白いのは、フォルクスワーゲンのウェブサイトにおけるプロモーションだ(写真はフォルクスワーゲングループ・フィレンツェのサイトをキャプチャー)。

「T-Crossを友達とリース ひとり7ユーロ」と謳っている。そのお得感を強調すべく俎上に載せているのは、「友達との夕食 ひとり30ユーロ(約3,600円)」「友達と海でビーチパラソル(レンタル料)ひとり15ユーロ(約1,800円)」である。いずれもイタリア人に欠かせない身近な週末イベントだ。それらより、T-Crossが格段に安いことを強調したいのだ。

「2シェア」以上に、フォルクスワーゲンの広告エージェンシーの観察力に脱帽した筆者である。

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)