ヨーロッパも、日本よりやや遅れるかたちで春の気配が漂ってきた。古い車のミーティングやラリー、そしてコンクール・デレガンスの季節である。

同時に活発になるのがヒストリックカーのオークションだ。フランス・パリでは毎年2月、シーズンにひと足先駆けてセールが行われる。今回は、花の都に出品されたフォルクスワーゲンやポルシェの数々をお楽しみいただこう。

まずはボナムス社のオークションである。会場のグラン・パレは1900年パリ万博のためにつくられ、かつてパリ・モーターショーも開催されていたパビリオンだ。

1950年ポルシェ356クーペは、ごく初期に造られたことを示す“4桁”シャシーナンバーをもつ個体である。にもかかわらず製造から今日まで歴代オーナーは4人に過ぎない。そうしたヒストリーがビッダーを刺激したことは明らかで、落札価格は80万5000ユーロ(約1億円。以下、落札価格は特記があるものを除きプレミアム込価格)に達した。

1967年タイプ2ミニバスは、新車時にギリシアで登録されたという。ファン垂涎の21ウィンドー+サンルーフ付きゆえ、こちらも5万600ユーロ(約630万円)というプライスがついた。

もう1台のタイプ2はキャンパー仕様だ。上記のミニバスと同じスプリット・ウィンドーで、4万4850ユーロ(約560万円)で落札。内装は未再生だが、2万5000ユーロ(約310万円)でレストア可能というオファーが提示されていた。

続いて、ポルト・ド・ヴェルサイユの見本市会場で開催されたヒストリックカー・ショー「レトロモビル」の公式セール内覧会を見てみよう。主催は、パリを本拠とするオークションハウス「アールキュリアル」だ。

ここでもタイプ2の21ウィンドー+サンルーフを発見できた。55年前の1964年型でありながら僅か17,800kmという奇跡的な低走行距離が評価されたようで、14万3040ユーロ(約1790万円)という値がついた。

次は1952年のビートルである。モロッコのカサブランカに新車として渡った個体だ。こちらは4万1700ユーロ(約520万円)。

2019年2月8日に開催された実際のアールキュリアル・オークションの様子も、実況風にお伝えしよう。

車はフォルクスワーゲン166“シュヴィムワーゲン”である。読者諸兄の中には少年時代、タミヤ製ミニチュアで組み立てた方もいるはずだ。

1944年製で、第二次大戦を生き延びたあと、1951年にオーストリアのウィーンで登録されたという車両である。現行の塗装を剥がせば、オリジナルペイントが現れるという。

事前に配布されたオークション・カタログ上の想定価格は9万〜12万ユーロ(約1120万〜1500万円)だ。

壇上に立つアールキュリアルの自動車スペシャリト、マチュ・ラムールは、車両価格7万ユーロ(約870万円)から競りをスタートした。すると即座に「8万ユーロ!」の声が。

ホールの一角に並んだ電話入札用のオペレーターたちも、受話器片手に忙しく対応する。

やがて今度は「9万ユーロ」のオファーが飛び出す。ところが、それに抗するが如く「10万ユーロ(プレミアム込11万9200ユーロ。約1490万円)!」の声があがった。ラムールが会場にも電話にも他のビッダーが現れないことを確認すると、会場にハンマーの音が響き渡った。

開始から僅か約3分。下世話な比較で恐縮だが、その間に我が家の家賃の3年分以上値上がりしたことになる。

フォルクスワーゲンやポルシェに関していえば、2〜3年前に過熱していた911の出品は峠を越したようだ。実際にボナムスは1台、アールキュリアルは3台の出品に留まった。かわりに、数奇なヒストリーをもつ車両のハンティングが、より過熱するかもしれない。そんな気配がした冬の終わりのパリであった。

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)