前回は2018年10月25日〜28日にイタリア北部パドヴァで開催されたヒストリックカー・ショー「アウトモト・デポカ」を紹介した。

その際、空冷フォルクスワーゲン専門ショップとの再会を記したが、実はもうひとつフォルクスワーゲンファンとの懐かしい出会いが……というのが今回のお話である。

まずは会場のムードを感じていただくため、スワップミートで出されていたいくつかの例を。

1台目は、1966年タイプ2トランスポーターT1の8ウィンドーである。1600ccのアメリカ仕様だ。残念ながら写真にはないがインテリアもかなり高レベルでレストアされていた。そのため、内外装のスナップを撮る来場者が数多くみられた。

当日は売り主の連絡先のみで、値札は示されていなかった。だが、ヨーロッパで主要中古車売買サイト「オートスカウト24」には2018年12月4日現在、恐らく同じ車と思われる車両が売りに出されている。それには49,500ユーロ(約636万円)の価格が付けられている。

2台目は同じT1でもピックアップ。未再生状態である。前述の中古車サイトには、このクルマと思わる商品が見当たらない。だが類似するコンディションの同型車の価格を記せば、16,000ユーロ(約205万円)といったところだ。

未再生状態ついでに記せば、もっとレストアし甲斐がありそうな1963年ポルシェ356も。こちらは45,000ユーロ(578万円)のプライスタグが添えられていた。

「ポルシェは腐ってもポルシェ」という言葉が思わず口をついて出てしまった。

前回ネーミングに関するうんちくを書いたタイプ181「ペスカッチャ」は、屋外にも1台1973年型が売りに出されていた。なお、イタリアでは旧式のナンバープレートである通称“黒ナンバー”が付いた個体は、より珍重される。価格は11,900ユーロ(約153万円)だ。

さて、ここからが本題である。1日会場を歩きまわって空腹になり意識も朦朧としてきたそのとき、あたかも逃げ水のように1台のT1が目に映った。

T1を改造したジェラート(イタリア式アイスクリーム)屋台である。

「ジェ、ジェ、ジェラートください……」

そう叫ぶと、どうだ。懐かしい顔が車内から飛び出してきた。

実は彼らとは、前回記したジョヴァンニ・デイさんのオーガナイズによるイタリア中部トスカーナの年次ファンイベント「インターナショナル フォルクスワーゲン ミーティング2014」で知り合った。つまり4年ぶりの再会だ。

水色のT1屋台「ジェラート・フルラッラー Gelato Frullallà」には、ちょっとしたストーリーがある。

店主ロベルト・ロージさん(1959年生まれ)の本当の姿は外資系銀行員だ。その彼が十数年前、サイドビジネスとして思いついたのはジェラート屋台だった。

そのために白羽の矢を立てたのは、可愛らしいT1だった。

新車時にベルギーの架装業者によってアイスクリーム屋台用に改造されたもので、当時の持ち主がつけた愛称「ロジャー」がボディに残っていた。

しかし2005年7月初め、手元に到着した車両を見ると、ロベルトさんは唖然としたという。購入前に売り主が送ってきた写真より遥かに腐食が進行し、特殊な改造も施されていた。

ロベルトさんはくじけなかった。フィレンツェのフォルクスワーゲンT1専門レストアショップの助けを借り、15カ月にわたる丹念なレストアを施した。

その先にもハードルがあった。イタリアの保健所による厳しい衛生基準をクリアしなければならなかった。

開業は2011年6月。車両購入から6年が経過していた。ちなみに下の写真はショップのレストアラー(写真一番左)とのスナップである。

現在、週末は各地の自動車イベントのほか、結婚式からプライベートな大学卒業祝いまで出張をこなす。相棒は甥っ子のジャンルーカさん(1986年生まれ)である。

ロベルトさん本人の人生、お客さんのライフステージ、そしてジャンルーカさんの社会人としての一歩という、三つの門出を祝うT1だ。

ロベルトさん&ジャンルーカさんのT1は、いつも徹底的というほどきれいに磨かれている。聞けば、ナンバープレートこそ付いているが、自走ではなく陸送車に載せて運んでいるのだという。

トラックで陸送すれば目的地まで早く到着できるという現実的理由もあるが、さまざまなハードルを乗り越えたT1への愛情であることも間違いない。

ところでロベルトさん、4年前会ったときは普通の口ヒゲをたくわえていたが、今回見ると、その左右をおしゃれにカールしていた。ジェラート店主が板についてきた。

今回はロベルトさんの妹、つまりジャンルーカさんの母親とその夫もやってきていた。イベント期間中みんなで近隣の町に宿泊しながらショーを観覧したり、ジェラート屋台の助っ人をしているらしい。

ボクも生活に困ったら、T1とともに過ごせるロベルトさんの手伝いがしたいものだ。だが、聞きたくもない客にまで車両のうんちくを披露しまくり、挙げ句の果てに「もっと空冷フォルクスワーゲンについて勉強してから来てくれ!」などと口走り、即刻クビになるのが目に見えている。

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)