「アウトモト・デポカ」とは、イタリア北部パドヴァで毎年秋に4日間開催されるヒストリックカー・ショーである。第35回を迎えた2018年は、10月25-28日に催され、12万人もの来場者で賑わった。

このイベント、アマチュアを楽しませるだけでなく、プロのトレードショーとしても有名で、展示車両台数は5000台にのぼる。イタリアでは最大、ヨーロッパでも屈指の規模である。実際、周辺国であるドイツ、スイスそしてオーストリアからの越境ビジターが多くみられた。

屋外も含めパビリオンや展示会場は合計15を数える。くまなく観ていたら到底1日では足りない。キャンピングカーでやってきて、会期中滞在している来場者がいる理由がおのずとわかる。

そのような会場で、色とりどりの空冷フォルクスワーゲンを並べているショップを発見した。

覗いてみると、なんと本欄「ポルシェになったオヤジ」で紹介したジョヴァンニ・デイさんが営むショップ「デイ・ケーファーサービス」のブースだった(写真左端がデイ氏)。

260kmの遠征であるが、スタッフはもとより、普段は店のマスコットであるメスの愛犬スージィーまで揃っている。期間中は市内の宿が高騰するので、隣町のB&Bをベースとして毎日通っているのだとデイさんは教えてくれた。

せっかくなので、メカニック歴50年・自身のショップ歴30年のデイさんに、展示された珠玉のコレクションを見せてもらう。

テント横にディスプレイされていたのは、1973年のトランスポーターT1 1600ccだ。爽やかな2トーンカラーの14ウィンドーである。

こちらもフルレストア済の1977年1303カブリオは、赤のボディにホワイトの内装というコントラストが眩しい。その左側で威嚇的なルックスで人目を惹いていたのは、同じ1303をベースとした1974年「バハバグ Bajabug」である。

1303カブリオは、標準のダッシュボードにアフターマーケットの3連メーターナセルが追加されている。

こちらはバハバグの内装。参考までにBajaとは、有名なオフロードレースが開催されるメキシコの地名だ。そのレースで1970年代、フォルクスワーゲンビートルの改造車は代表的な常勝参加車だった。ドアロックのノブにも注目。

鮮やかなオレンジ色の「タイプ181」もある。タイプ181は第二次大戦中の軍用車「キューベルワーゲン」をルーツにもつレジャー/オフロードカーで1968年にデビューした。1980年に民生用の販売が終了したあとも軍用として1983年まで生き延びた。

蛇足ながら日本では1970年代にグリコ・アーモンドチョコレートのテレビCMで若き日の俳優・三浦友和が乗っていた。覚えている人は少ないだろうが。

ところがデイさんたちは、タイプ181ではなく「ペスカッチャ」「ペスカッチャ」と呼んでいる。Pescacciaとは、当時イタリアで販売するために名づけられたという。

「pesca(釣り)とcaccia(狩猟)を合わせた造語だよ。レジャーにうってつけであることをアピールしたかったんだな」とデイさんは解説してくれた。

なおタイプ181は、英国では「トレッカー」、米国では「シング」、そして南米では「サファリ」の名で販売されていたという。

デイさんの店のペスカッチャは、前述のトランスポーターとともに、早くも売却済を示すVendutoの札がウィンドーに挟まれていた。まだ会期2日目の昼過ぎというのに幸先いい。それを悟ったか、例のスージィーも足元ではしゃぎまわっている。

実はボクも嬉しかった。タイプ181に限らず数字の羅列車名を見た途端、頭がクラクラして記憶できない脳の持ち主。ゆえに「ペスカッチャ」という、声に出しても心地よい愛称の存在は、何よりもの福音なのである。

(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)