僕が「カーグラフィック」編集部に入って半年ほどたったある日、当時の編集長からこんな指令を受けました。

「アウディV8を谷田部まで運んでくれ!」

「谷田部」というのは、茨城県つくば市の地名で、JARI(日本自動車研究所)がある場所です。編集部ではここの高速周回路を使い、頻繁に動力性能テストを行っていました(現在は茨城県城里に移転)。機材運搬係兼計測ナビゲーター役を仰せつかっていた僕は、月に何度も谷田部に足を運んだものでした。  

いつもは機材車(ルノーエクスプレスでした)で移動する僕ですが、この日は何かワケがあってテスト車を運ぶことになったと思われます。編集部に入って半年、クルマの扱いには慣れてきましたが、1000万円を超えるクルマ、しかも、左ハンドルともなると、さすがに緊張します。いまのようにETCなどない時代ですから、料金所を通過するにもひと苦労です。

正直なところ、少しブルーな気持ちで都内を出発。無事首都高に乗り、常磐道の料金所でチケットを受け取ると、ようやく平常心を取り戻します。するとあることに気づきました。

スピード感がない!

若気の至りで、ここでは書けないようなスピードで飛ばしているにもかかわらず、80km/hくらいで流している感覚なのです。これには驚きました。quattroが誇る極めて高い直進安定性とスムーズかつ静粛なV8エンジンがそうさせたのでしょう。それまでも何度かquattroを体験していた僕ですが、この日のアウディV8には無条件に感動です。

その後、いろいろなアウディに乗り、ハイパワーをあっけないほど簡単に扱える手段として、quattroが大きな役割を果たしていることも実感。quattro=イージードライブ&高い走行安定性というイメージが固まっていきました。

ところが、新型A4が登場して、これまでの安定一辺倒から路線を変更し、さらにS4ではスポーツディファレンシャルによりFRを凌ぐほどの俊敏さを身につけたのです。がぜんquattroが面白くなってきました。
とはいっても、さすがにS4には手が出ないので、A4 2.0Tqにスポーツディファレンシャルをオプション設定してほしい......それでも予算オーバーか!?