まもなくヨーロッパは、カーニバルの季節である。欧州で食べ物屋台車両としてダントツ人気のモデルといえば、フォルクスワーゲンのタイプ2である。具体的には、初代および2代目である。
同じサイズでレトロな雰囲気をもつバンは他国のメーカーにも存在する。だが、今日でも充分実用に供することができ、かつ程度の良い個体が存命しているところが、タイプ2人気の背景にあることは間違いない。
また、現役時代に屋台用の架装が多数行われていため、今日使う場合でも、古いボディにメスを入れる必要がない点も幸いしている。筆者が昨年知り合ったイタリア人で、ジェラート屋台をしているおじさんの営業車である初代タイプ2改造車も、1967年にベルギーで登録され、同じくジェラート売りに使われていたものだという。
昨夏訪れたポルトガル・リスボン県のビーチリゾート、カスカイスでも、タイプ2の屋台に遭遇した。
「メレンダ・ポルトゥゲーザ(ポルトガルのおやつ)」と名付けられたトースト屋台だ。中をくり抜いた独特の厚焼きトーストに、ポルトガル風に味付けした肉や野菜を詰め込んで販売している。
2013年に開業したというこの店、使用しているのは、2代目タイプ2である。商品のパッケージと同色の、可憐な縦ストライプが目をひく。
ふとうしろを見たらもう1台、タイプ2の屋台があるではないか。創業66年の老舗で、リスボン周辺に4店を構えるアイスクリーム店「サンティーニ」による移動店舗だ。
こちらは同店のコーポレート・アイデンティティ・カラーである赤と白に塗り分けられている初代......と思ってよく見たら、なんと自走不可のトレーラーであった。タイプ2人気を語るにふさわしい好例である。
日本には「月極駐車場とは、『げっきょく』という名の全国チェーン系駐車場である」という、長年にわたる笑い話がある。
欧州でこれだけタイプ2や、それを模した移動販売車が人気で、日本でもタイプ2風に鼻先を改造した軽自動車の弁当屋さんがいると、エンブレムだけ見て、「VW」とは世界的屋台チェーンではないかと勘違いする子供がいるのでは?......と、妙な心配をしている近頃のボクである。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)