モーターショーというと、主要ブランドよりも普段接することのない企業や団体の小さなスタンドに足を向ける。これは、筆者の長年における楽しみ、というか習性である。
2015年9月に開催されたフランクフルト・モーターショー(IAA)でもしかり。気がつけば、有名メーカーが軒を連ねるパビリオンの上階に展開された、小さなスタンドが軒を連ねるフロアをウロウロしていた。
ここに紹介するのは、IAAの常連である『ドイツ赤十字社』のブースだ。
フォルクスワーゲンは旧西ドイツ時代から、各地の救急団体や消防署に車両を販売・供給してきた。それらは今日、専門セクションである「救急車両部門」が担当している。立派なカタログも用意されていて(写真4)、ページを繰ると「早くて安全、経済的」といったキャッチが目に飛び込む。
ドイツ赤十字社のIAAにおけるディスプレイといえば、歴史車両の展示を忘れてはいけない。今回は旧東ドイツの車両が並べられていた。
1台は1966-1988年にアイゼナハで造られた「ヴァルトブルク353」の医薬品輸送車(写真左下)、加えて、カール-マルクス・シュタット工場で1961年から1991年まで30年生産されたワゴン「バルカス」をベースにした救急車である(写真右下)。
実はこの2モデルの前輪駆動機構と水冷直列3気筒ストローク・エンジンは、アウディの前身である第二次大戦前のDKWに起源を遡るものである(バルカスは、後年別のエンジンに換装)。
やがてソビエト連邦のペレストロイカ政策を受けて、東西ドイツの経済交流が進む。するとこんどは、ヴァルトブルク353の改良版である1988年「1.3」、バルカスの1989年「B1000/1」いずれにもVW製4気筒4サイクルエンジンが搭載され、ブランド消滅前最後の若返りが図られた。
ドイツ赤十字のスタッフは、「2013年に、我々は創立150周年を祝いました。東西ドイツ分裂時代も、双方の赤十字は常に連携しあっていました」と語る。
だがここに記したように、東西ドイツの救急車両も、フォルクスワーゲングループを通じてご縁があったといえる。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)