最近日本の話題といえば、銀座や秋葉原を訪れる外国人観光客である。いっぽうドイツで外国人が訪れる典型的観光地のひとつに、ハイデルベルクがある。ドイツ最古の大学があり、1914年まで使われていた「学生牢」が今も残る(写真左)。
学生王子と宿屋兼居酒屋のウェイトレスとの淡い恋を描いた戯曲「アルト・ハイデルベルク」は、この街を舞台にしたものだ。日本で太平洋戦争の前後に大学生活を送った人々は、ドイツ語があらゆる分野において今日より重要で、接する機会が多かったことから、この恋物語は必ず覚えている。
また、太宰治が旅先の川を眺めながらライン川に思いを馳せる私小説「老ハイデルベルヒ」も、往年のおじさん世代に、この街への憧れを抱かせるのに充分貢献したに違いない。
観光地といえばお土産である。ハイデルベルク城付近にある土産物店には、かつて今より日本人観光客が多かった時代を思わせる、「お水」と記された看板があった。何かを見て一生懸命書き写したような書体が微笑ましい。
そして土産屋さんで見かけるのは、フォルクスワーゲン初代ビートルやタイプ2を模したモデルカーだ。それも近年は、ヒッピーカルチャー時代を思わせる「ラブ&ピース」系が全盛である。参考までに、タイプ2は9ユーロ(約1200円)である。
「初代ビートルは、もうちょい前の時代のものがふさわしいんじゃない?」などと、小うるさいことも言いたくなるが、ドイツでの生産終了後38年になろうとしている今日でも人々に愛されている証左ゆえ、よしとしよう。
その中には、明らかにフォルクスワーゲンのライセンス管理下にないものも多数含まれる。ブリキ缶のバッグにタイプ2キャンピングカーのイメージを表現したかったものの、コピーライトに関する問題を避けたかったろう。なんだか収拾がつかなくなってしまった商品もある。
下の写真の手前2点もフォルクスワーゲンタイプ2を模したものに違いない。右はカフェオレにふさわしい陶器製ボウルである。非ライセンス商品における定石で、「丸にVWマーク」こそピースマークにコンバートされているが、誰が見ても「あのクルマ」とわかる。
近年ヨーロッパの自動車ブランド各社は、ファッションブランドなど異業種から人材を登用したりと、オフィシャル・マーチャンダイジング部門を強化している。
だが、非公式系「なんちゃってVWグッズ」には、オフィシャル系には思いもよらない怪しさとファンタジーが溢れている。だからドイツで土産物店のウインドーショッピングはやめられないのだ。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)