上海といえば、フォルクスワーゲンの合弁先である上海汽車(上汽)によって2012年まで生産されていた初代サンタナ(桑塔納)である。
そう、日本でもかつて日産座間工場で生産されていた、あのサンタナの姉妹車だ。
ちなみに現在は2012年には、2代めが登場して現在にいたっている。
上海の街を走る初代サンタナのなかにはかなり古いモデルもあって、さすがのフォルクスワーゲンクオリティでも経年変化に耐えられず塗色が劣化し、いわば"天然マットペイント"になってもまだ乗られている車もときおり見られる。
初代サンタナは上海でタクシーとしても圧倒的な支持を得ている。この街を訪れたことのある読者なら、お世話になった方も少なくないだろう。ボクも7年前、生まれて初めて降りた中国の地で乗ったのも、初代サンタナのタクシーだった。
乗ってみるとわかるのは、これまたフォルクスワーゲンファミリーとはいえ、さすがにボディ剛性は今日の基準ではないことだ。だが営業用として、かなり荒い運転で酷使されていることを考えると、相当丈夫であることが窺える。
印象的だったのは、上海屈指の高級ホテル「和平飯店」の前で見つけたタクシーである。VWバッジがグリルとは別に、もうひとつフロントフード上にも貼られているではないか。
上海におけるサンタナの愛され方が、ひしひしと感じられる1台だった。
ボクが2年前の2015年に訪れたときと比べ、真新しい2代めサンタナやトゥーランを使用したタクシーが増えてきたのも事実だ。とくに後者は、この国でも徐々に増える高齢者の乗り降りが容易なことから増えてゆくと思われる。
代わりに初代サンタナは次第にフェードアウトしてゆくだろう。そう考えると、一抹の寂しさがよぎる。
だが、そのデビューは1984年、さらに遡ってノックダウン生産の開始は1982年だから、もはや中国で30年の歴史をもつことになる。
今回の上海ショーのプレスブリーフィングでも、「モビリティは、独立と自由を意味する」というフレーズとともに、その象徴として黒い初代サンタナがディスプレイに映し出された。
たとえ自動運転の「I.D.CROZZ」がこの街を走り始めるようになっても、初代サンタナは末長く上海人(シャンハイリャン)の記憶に残るのに違いない。ドイツや南米における初代ビートルのように。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)