ドイツのハンブルクに「プロトタイプ・ミュージアム」と名付けられた博物館がある。オーナーは建築家トーマス・ケーニッヒとビジネスマンのオリヴァー・シュミットの2人。
大学時代からの友人である彼らが意気投合し2008年に開館したのが、このプライベートミュージアムである。
「プロトタイプ」と聞いて、奇怪な試作車ばかりを想像するのは誤りだ。コレクションの中心を占めるのは、第二次大戦前後における初期のポルシェおよびとそれらをベースにした少量生産車、または同時代の試作レーシングカーである。
ただしフェルディナント・ポルシェ博士が設計した初期のフォルクスワーゲン・ビートルにもスポットが当てられていて、オーナーたちの熱い収集欲を感じさせせる。
たとえば1942年タイプ166シュヴィムワーゲン......
たとえば1942年タイプ166シュヴィムワーゲン......
新車当時にドイツ進駐アメリカ軍へ納入された1947年ビートル(冒頭の写真)、第二次大戦後、ポリツァイ(警察)用として初めて製造された1951年カブリオレ仕様......
といったモデルたちだ。
さらに、外部コーチワーカーによるフォルクスワーゲンのスペシャルも。
こちらはドイツの「ダンネンハウアー&シュタウス」による1953年の作品......
ウィーンのデンツェルによる1954年1500S......
といったモデルが鑑賞できる。
車両以外のアイテムも興味深い。
「購入用の通帳」(写真左下)は、そのひとつである。旧ドイツ政府が1938年、ビートルの始祖であるKdFワーゲンの購入を促すため印刷されたものだ。
毎月印紙を購入し、すべて貼り終えるとKdFワーゲンと交換できる、という仕組みのもと開始された制度だった。
ビートルのある生活を人々に想像させるための「すごろく」(写真右下)もある。展示品は1950年代の復刻だが、オリジナルはKdFワーゲン時代の1939年に遡る。
地下に置かれたテレビの画面には、フォルクスワーゲンによる1954年の広報映像が流れる。
ミュージアムショップに並べられたアイテムのクオリティも高い。初代ゴルフGTIは39ユーロ(約5300円)、初代タイプ2は4.5ユーロ(約600円)である。
今や自動車界の巨星となったフォルクスワーゲンだが、その産声を上げた時代に浸れる、貴重なミュージアムである。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)