世界のヒストリックカー・ファンにとって毎年お待ちかねのイベント『レトロモビル』が2018年2月7日から11日までフランス・パリで開催された。
レトロモビルは今年で43回目。東京ドームの約1.4倍にあたる69,000平方メートルの会場に5日間で105,000人が訪れた。昨年より来場者が減少したのは、会期中3日間続いた降雪が原因であったと主催者は分析している。
メインパビリオンには、例年のごとくフランス系ブランドがすべて参加した。
いっぽうドイツ系ブランドはというと、近年はドイツ・エッセンで開催されるヒストリックカー・イベント『テヒノクラシカ』に注力していることもあり、今回ブランドとして積極的にブース展開したのはポルシェのみとなった。
しかし、じっくり観るとフォルクスワーゲンファンを唸らせる、かなりカルトな内容をあちこちで発見できた。
まずは軽いところから。ミニカーの店を覗いてみよう。
本場ドイツからやってきたショップのテーブルは壮観で、コンセプトカーも含む膨大な種類が陳列されていた。
右下にはブラジル工場製でヨーロッパでも販売された「フォックス」もある。こう書いてはなんだが「誰が買うんだよ、これ」といったモデルである。
かつてドイツの道路補修車の定番であったものの、いよいよ少なくなってきた初代LTトラック、さらにはT3の霊柩車も見つけた。
すぐ近くではブリキ製トーイも陳列されていた。
冒頭のポリスカー仕様に関していえば、箱のイラストは1303系にもかかわらず、本体はバンパー形状からして、それ以前のトーションバー系という矛盾もあるが、まあ良しとしよう。
もはや恒例となったアールキュリエル社のオークション内覧会でもフォルクスワーゲンを発見した。
初代タイプ2をベースにしたホッドロッド風カスタムである。
米国ゼネラル・モーターズの1939年コンセプトカー「フューチャーライナー」をイメージして改造したものという。
フロントマスクこそタイプ2だが、かなりの改造が加えられていて、たとえば後方両サイドのステップはフォードF-100トラックのものを流用している。
ボディはオリジナルより70cm狭くされ、かつステアリングがセンターに移されていることから、ドライバーはシフトレバーを股に挟んで運転する。
想定価格は3万〜5万ユーロとアナウンスされていたが、実際は23,840ユーロ(約316万円)でハンマープライスとなったから、手に入れた人の満足度は高かったと思われる。
ヒストリックカーをより身近なものにするため今回初めて企画された「車齢30年以上・25,000ユーロ以下」のブースでも、予想以上にバラエティに富んだフォルクスワーゲンとその仲間たちを楽しめた。
1971年バハ・モンスターは、オート・クラフト社製2.4Lターボにエンジンが換装されている。20,000ユーロ(265万円)のプライスタグが付けられていた。
いっぽう初代ゴルフGTIはタイヤメーカーとのコラボレーションで、その名も「ピレリ」と名付けられた特別仕様である。価格は19,000ユーロ(約251万円)だ。
売り主のジェローム氏は「ドイツとフランスで1983年6月から12月という短い期間に生産されたモデル」と説明する。
ちなみに1971年生まれで中古車販売業を始めて間もない彼は、自ら好きなクルマのみを取り扱うことをモットーとしており、GTIも「当時友達が乗っていて憧れていたから」と熱く語ってくれた。
フォルクスワーゲンベースのスポーツカーも2台見つけた。
1台は「プーマ」である。
年式は1978年。クローズドボディだから「GTE シリーズ2」というモデルだ。フォルクスワーゲン・ド・ブラジルのオリジナル車種「ブラジリア」がベースである。ウィンドーに挟まれたカードによると、「通常価格29,000ユーロのところ、レトロモビル特別価格25,000ユーロ(約330万円)」とのこと。
もう1台はさらに珍品だ。1978年の「ファイバーファブ・ボニート」である。
ドイツのキットカー工房によるもので、ビートルのシャシー上にフォードGT40風の樹脂製ボディを被せたものである。お値段は1万5800ユーロ(209万円)だ。
このようなレトロモビル会場だから、できればフォルクスワーゲンファンの知人とトリビア披露合戦をしながら回るのが理想的であろう。
同時に童話「きかんしゃ やえもん」を幼少期の愛読書とし、ついつい乗り物を擬人化してしまう筆者である。巡り巡って会場に辿りついた古いフォルクスワーゲンたちの過去に思いを馳せ、新たなオーナーのもとで過ごす未来に幸あれと願うのであった。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢麻里 Mari OYA)