イタリアも先月までジューン・ブライドの季節だった。
この国で結婚式は、おもにふたつに分けられる。ひとつは「宗教式」だ。お察しのとおり教会で挙げるものである。
もうひとつは「民間式」といわれるもので、市役所や町役場などで挙げる。証人2名が立ち会うのは宗教式と同じだが、こちらは副市長の前で執り行う。
ボクが住むシエナの市役所でも、結婚式が年間を通じて行われている。
参考までに料金は、新郎・新婦どちらかが市民の場合は無料だ。どちらかが県内在住もしくは県内で出生した者は、200ユーロ(約2万6千円。日曜は倍額)と設定されている。ただし、県外および外国人は1000ユーロ(約13万円。日曜500ユーロ増し)に跳ね上がる。
近年は逼迫する市の財政を補うべく、劇場や図書館で執り行うプランまで用意されている。
さて、結婚式といえば自動車である。式当日、新婦を実家に迎えに行ったり、教会や市役所での式終了後、披露宴会場に新郎新婦を送ったりするのに用いられる。車体のどこかに、白いリボンがかけられているのが目印だ。
クルマは長年、ちょっと高級なレンタカーを借りて主に新婦の家族が運転したり、ハイヤー業者をチャーターするのが慣わしであった。
かわって近年は、ちょっと古いモデルを使うのを見かけるようになった。それも晴れの日ということで、古いカブリオレが選ばれることが少なくない。
2017年9月のある土曜日、白リボンをかけた1303系ビートル・カブリオレが市役所の前に佇んでいた。
そばに待機していたドライバーと思しき人に声をかけてみた。
プロのショーファーかと思いきや、本人いわく「年金生活者だよ」と言う。自身のビートルとともに週末ショーファーを買って出て、ちょっとした小遣い稼ぎをしているのだ。
そうかと思えば2018年6月、カルマン製ボディをもつ初代ゴルフ・カブリオが新郎新婦を待っていた。
ビートル以来のフォルクスワーゲンファンにとってみれば、さして古いモデルではない。
しかしイタリアで古典車認定を受ける資格が生じるのは初回登録から30年以上が経過した車だ。初代カブリオの誕生は1979年だから、基準に該当する車両は少なくないことなる。加えて、1992年のモデル生産終了から、すでに26年も経過していることになる。
カップルが20代だとすると、生まれた頃にデビューしたクルマということもあり、最早れっきとしたヒストリックカーなのである。
さらにいえば、不調がつきもののヒストリックカーにもかかわらず、晴れの日にきちんと動いて役目を果たせる可能性が高いことも、フォルクスワーゲンが結婚式用に選ばれる理由とみた。
その日は挙式が長引いたようだ。結局ボクが待つ間ゴルフ・カブリオのドライバーは現れず、週末ショーファーなのか、それとも家族のものかはわからなかった。
しかしながら、これみよがしのプレミアムカーをチャーターしないところに、新婚夫婦が将来マジメな家庭を築きそうで微笑ましい。
結婚式といえば2018年3月、ドイツで催されたヒストリックカー・ショー「テヒノクラシカ・エッセン」でのことである。いい歳をした方々が、新郎新婦や、はたまた神父のコスプレをして盛り上がっている。聞けば、フォルクスワーゲンタイプ(411/412。1968-74年)愛好会の面々だった。
今年2018年はモデル誕生から半世紀の節目。その祝いを結婚式ムードで盛り上げようという趣旨だった。
よく見れば脇のウェディングケーキは、いわゆる"トイペ"を積み上げたものだった。イベント終了後は、みんなで分けっこして持ち帰ったに違いない。
結論。フォルクスワーゲンあるところに、堅実な暮らしあり。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)