フォルクスワーゲンのクーペといえば、古くは空冷の「カルマンギア」があり、時代が水冷に変わってからは、「シロッコ」、2代目「シロッコ」、「コラード」と、スポーティでスタイリッシュなモデルが続いていた。いずれも、"名門コーチビルダー"と称されたカルマン社が生産を請け負ったものだが、今年4月にそのカルマンが破産した......というのはさておき、僕自身は、取材で触れることはあっても、カルマンギア、シロッコ、シロッコ2にはほとんど縁がなく、一方、コラードははじめて乗った16Vの軽快さがあまりに印象的で、何度か買おうと思ったが、そのたびに周りから「止めておいたほうがいいぞ」といわれたのを思い出す。
そうこうしているうちに、クーペモデルは姿を消した。最近は、クーペ・カブリオレの「イオス」や、4ドアながらクーペを名乗る「パサートCC」を選ぶことはできるものの、シロッコ〜コラードの後継といえるモデルは途絶えていた。いまでこそゴルフヴァリアントに乗っているが、若い時分は「クルマはクーペに限る!」とカッコつけていた僕としては、寂しい状況が続いていたが、ここにきてついに新型クーペが登場。シロッコという懐かしい名前とともに復活したのである。
その概要については 試乗会場は小淵沢のホテル。実は発表日よりも前の試乗だったから、新型シロッコをまじまじと見るのはこれが初めてだった。写真で見るかぎりは、単なるゴルフ6の2ドア版か?と思っていたが、実物を目の当たりにすると、ロー&ワイドのフォルムやリヤフェンダーの強調されたデザインが、強烈な印象を与えてくる。
インパクトの強いエクステリアに比べると、インパネのデザインはおとなしいものだ。ゴルフ6ではなく、ゴルフ5、正確にはほぼイオスのインパネが、運転席の前に広がっている。反面、低いシートポジションや専用デザインのドアトリムなどが、特別な雰囲気をつくりあげているのは見逃せない。
うしろを振り返ると、セパレートタイプのリヤシートが目に入る。見た目がカッコイイだけでなく、あとで座ってみると、大人でも余裕があることが確認できた。シロッコは2+2ではく、実用性の高い4シータークーペなのだ。
ラゲッジスペースもこのとおりの広さ。ゴルフに比べると開口部からフロアまでが倍近く深いが、実用性は十分。もちろん、いざというときにはリヤシートを倒してスペースを広げることもできる。
細部の観察はこれくらいにして、まずはシロッコTSIに乗り込んだ。搭載されるエンジンは、1.4リッターツインチャージャーで、最高出力160ps/5800rpm、最大トルク24.5kgm/1500〜4500rpmの実力を持つ。トランスミッションは、7段DSGが組み合わされる。
この願いに応えてくれるのが、シロッコ2.0TSIだ。エンジンは2リッターの直噴ガソリンターボで、最高出力200ps/5100〜6000rpm、最大トルク28.6kgm/1700〜5000rpmの実力の持ち主だ。
そして、このシロッコ2.0TSIには、連続可変減衰力システムのDCC(アダプティブシャシーコントロール)が付くのがベースモデルとの違い。
パワートレインはゴルフTSIハイラインと同じもので、低回転からググッとくる力強さは体感済み。ゴルフTSIハイラインと同じ車両重量ということもあって、クーペのシロッコに速さのアドバンテージはないはずだが、ドライビングポジションが低いせいか、シロッコのほうが速いと錯覚する。
しかし、走りのほうは正真正銘スポーティだ。街中を流すようなスピードでは、見かけによらず快適で、構えて乗ると拍子抜けするくらいなのに、空いた山道でペースを上げていくと、低い重心高と締め上げられた足まわりのおかげで、ゴルフとは別次元の安定感あるコーナリングを見せてくれる。
聞けば、シロッコのサスペンションはゴルフ5GTIの足まわりをベースにしたといい、スプリングとダンパーのマッチングが絶妙! スプリングだけ硬く、乗り心地はいまひとつ、それでいてコーナーではだらしないという、中途半端な味付けでないことに、ひと安心した。
そんなシロッコだから、ワインディングロードを駆け抜けるのが楽しくてしょうがいない。そうなると、5000rpmから上で、もう少しスカッと加速するといいなぁと、つい欲が出てくる。
2リッターTSIエンジンは、ゴルフ5GTI用のエンジンとは別物で、パサートTSIコンフォートラインに搭載される1.8リッターターボをベースにロングストローク化。カムシャフトの駆動はチェーン式を採用し、バランサーシャフトをシリンダーブロック内に設置することでエンジン高を抑制。インジェクターは6つの噴射口を持つ高圧タイプを採用。オイルポンプも新設計し、さまざまな点で高効率化を目指したエンジンである。最高出力はゴルフGTIと同じ200psだが、最大トルクの発生ポイントが100rpm低い1700rpmとなったのも旧2リッターターボとの違いである。ちなみに、ゴルフヴァリアント2.0TSIスポーツラインも同じエンジンを搭載している。
1.4リッターツインチャージャーに比べると、低中速域のトルクの立ち上がりは引けを取る2リッターターボだが、4000rpmを超えたあたりからレブリミットまで伸び続けるさまは、これぞスポーツカーにぴったりの印象だ。
DCCを手に入れたシロッコ2.0TSIは、シロッコTSIよりも1インチ大きな235/40R18タイヤを履くにもかかわらず、乗り心地はシロッコTSIよりも快適に思えるほど。一方、ワインディングロードではノーマルモードでも不満はなく、スポーツだと少しやり過ぎかと思えるほどで、サーキットで使うくらいがちょうどいいのかもしれない。
ということで、個人的にはシロッコ2.0TSIに強く惹かれてしまったのだが、クーペらしいスポーティな走りは1.4リッターでも十分味わえる。どちらを選ぶかは、値段や使い方次第ということになる。どちらを選んでも、ファミリカーとしての役目も無難にこなしてくれそうだから、身軽な人はもちろん、家族持ちにもお勧めできる。「やっぱりクルマはクーペに限る!」とカッコつけたい人、このシロッコで家族を説得してみてはいかがだろうか?
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(Text by S.Ubukata)
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