※写真は一部ヨーロッパ仕様。日本で販売されるクルマとは仕様が異なります。
むかしはいろんなモデルが用意されていたのに、最近では日本生まれがほぼ"絶滅"してしまった魅惑のクーペ。これでも20代のころはセダンやミニバン、SUVには目もくれず、2ドアクーペ、3ドアハッチバック、そしてオープンカーばかりを選んだ僕としては、実に寂しい状況である。
救いは輸入車ならまだまだ選択肢があることで、ドイツ勢だけでも、VWならシロッコやEOS、アウディならTT/TTS、A5/S5、R8。もちろん、ポルシェ、BMW、メルセデス・ベンツにも魅力的なモデルが存在している。
だから、若い時分、僕みたいに「やっぱりクルマはクーペだ!」と決めつけていた人のなかには、いまはセダンやミニバンのステアリングを握りながら、いつかクーペに辿りつきたいと思っている人が、意外に多いのではないか? そう、クーペは男のロマンだ!
そのパフォーマンスを受け止めるのが、デュアルクラッチギアボックスの7段Sトロニック。これに、通常走行時は前40:後60の非対称トルク配分を行う最新世代クワトロを組み合わせることで、高いトラクションを確保する。
※図はA4 3.2 FSI クワトロ
そんなことを頭の隅に置いて、試乗に出かけるとしよう。運転席に収まると、目の前にはA4とほぼ同じデザインのインストルメントパネル。しかし、全高が低く、着座位置の低いA5では、ガラス越しの風景がいつもと違って見えた。
ところで、クーペといっても高い実用性を誇るのがA5の魅力のひとつ。さすがにA4に比べたら後席は狭いが、それでも大人がさほど窮屈な思いをせずに過ごすことができるし、荷室も十分な広さが確保されているのだ。これならなんとか家族の同意を取り付けることも夢ではない。
そして、もし買うことにしたら、ぜひ選んでほしいのが「バング&オルフセンサウンドシステム」。標準オーディオとは明らかに違うクリアなサウンドが、リーズナブルな金額で楽しめるからだ。
いつもは快適なグランドツアラーが、ワインディングロードではスポーティに変身。しかも、快適さもスポーティさも妥協しない、オールラウンドなクーペ。そんな魅力溢れるクーペをよりカジュアルに楽しめるのがA5 2.0Tqなのである。何よりこのスタイリング! あぁ、僕もクーペに回帰したい。
さっそく、A5を発進させると、軽やかな動き出しが好印象。全長4625×全幅1855×全高1375mmと、ボディサイズは決してコンパクトではないが、その大きさを忘れさせる軽快さがこのA5 2.0Tqにはある。
2.0 TFSIエンジンは、これまでの2L直噴ターボや1.8 TFSIエンジンに比べると、多少ターボラグが増したように思えるものの、低回転から幅広いレンジでフラットなトルクを発揮し、勢いづいてからの力強さも見違えるほどで、3.2 FSIエンジンを凌ぐ最大トルクは伊達じゃない。「それでは3.2 FSIの立場はないじゃないか?」と思うかもしれないが、V6には自然吸気エンジンならではの素直なレスポンスや高回転での伸びの良さなどがあって、こちらはこちらで味わい深いのだ。
ハンドリングは軽快のひとこと。A4よりもホイールベースが短いA5は、A4にも増して回頭性が優れ、コーナリングが実に楽しい。A5 3.2qよりもノーズの軽いA5 2.0Tqではなおさらのことだ。これで、S4に採用される「リヤスポーツディファレンシャル」が装着できたら、鬼に金棒なのに......。もちろん、フルタイム4WDだけに、直進時の安定感は抜群だから、ロングドライブもお手のもの。乗り心地はやや硬めだが快適で、ふだんの気楽なアシとしても適任である。
運転して気になったのは、オプションの「アウディ ドライブセレクト」とセットで装着されるダイナミックステアリングのフィーリング。ステアリングのギア比を、低速ではクイックに、高速ではスローにして、街中での扱いやすさと高速での落ち着きを両立するのだが、従来のタイプに比べると、速度域によっては多少スムーズさに欠けるのが惜しいところで(個体差かもしれないが......)、このあたりは、今後の熟成に期待したい。
(Text by S.Ubukata)