シロッコに用意されるグレードはふたつ。2リッター4気筒にシングルターボを装着した200ps仕様エンジン搭載のの2.0TSIと、1.4リッター4気筒にスーパーチャージャーとターボチャージャーを装着した160ps仕様エンジン搭載のTSIで、200ps仕様には湿式クラッチの6速DSG、160ps仕様には乾式クラッチの7速DSGが組み合わされる。
ベーシックとなるTSIは、サスペンションがDCCなしのコンベンショナルなタイプとなり、タイヤ&ホイールも17インチとなる。スペック上、2.0TSIには見劣りするものの、走りは十分にスポーティだ。まず、体感できるのは、低重心、ワイドトレッドの恩恵。同じシャシーを持つといえるゴルフと比較するとその物理的優位性は明らかで、ハンドリングのよさとコーナリング時の安定感は明らかにゴルフを上回る。サスペンションそのものはかなり締め上げられている方で、乗り心地がややハードになってはいても、このハンドリングならそれも許せるという範囲。同じ17インチのタイヤ&ホイールを装着するゴルフ・ハイラインに比べれば、ハンドリングと乗り心地のバランスは、明らかにシロッコのほうが優れている。シロッコ2.0TSIよりもベターと思われるのは、ステアリング操作に対するノーズの反応のよさ。ステアリングの切り増し、あるいは切り返しを要求されるような場面でも、ノーズはステアリング操作に遅れることなく、向きを変える。それはタイヤの扁平率が生む反応の速さではなく、前輪荷重の少なさに起因する、いわば素性のよさというべきものが実現しているハンドリング。乾式クラッチで、湿式クラッチの7速DSGより軽いとされる7速DSGのメリットを感じる場面だ。

7速DSGのメリットはそれだけではない。オートマチックモードでワインディングを飛ばせば、エンジンの美味しいところを使って伸びのある加速を実現し、アクセル開度によっては一気にギアを2段落としとして鋭い加速をもたらすなど、エンジン性能をフルに発揮させるよう躾けられていることが分かる。多段ギアを有効に使う、きわめて精緻な制御が、たかだか160psとはとても思えないパフォーマンスをもたらしているのだ。

2.0TSIで印象的なのはやはりエンジン。パサートに搭載されて登場した新世代エンジンで、カムの駆動をタイミングベルトからチェーンに変更、バランサーシャフトを加え、さらにはフュエルシステムも改良するなど、主にコンパクト化とフリクションの低減を目指して開発されたという。このエンジン、ゴルフ5のGTIに搭載されていたものと比較すると、データ的にはほとんど変わらないものの、アクセル操作に対する反応、ツキがよくなって、さらに回転上昇に鋭さを増している。その回り方は緻密で、大幅に洗練された感がある。巡航時は、ほとんどそのエンジン音を消し去っていて、加速時にやや太めのエキゾーストノートを聞かせて、控えめに存在を主張する程度。VWのエンジンらしく、"縁の下の力持ち"的なところもいい。

2.0TSIのシャシーは、DCC(アダプティブシャシーコントロール)と18インチのタイヤ&ホイールが奢られる。DCCは、ご存知のように、ノーマル、スポーツ、コンフォートの3モード。フロアコンソール、シフトレバーの前方にあるスイッチは、ノーマル状態からスイッチを押していくと、スポーツ、コンフォートと切り替わって行く。スポーツとコンフォートでは、その文字が点灯されるが、ノーマルではなにも点かない。

3モードのなかでオールマイティなのは、もちろんノーマル。18インチ・タイヤ&ホイールの重さを時に感じさせはするもの、概ねハンドリングと乗り心地のバランスはよく、街中からワインディングまで十分満足できる乗り味を示す。コンフォートでは、まるで扁平率の高いタイヤを装着しているような柔らかさを示す。といっても、同乗者が悪酔いするような、締まりのないソフトさではなく、ちゃんと腰を感じさせるものではある。最も気になるスポーツは、一気に減衰力が高まって、電動パワーステアリングのアシスト量も減少して操舵に手応えが出る。大幅に俊敏性が高められるものの、乗り心地はほぼ完璧に無視される形で、角のある段差では、235/40というサイズの太く、扁平率の低いタイヤであることも実感させられる。ワインディング専用、もっといえば、サーキット専用とまでいいたくなるような足。こんなに割り切ったセッティングが許されるのも、減衰力の切り替えできるゆえといえるだろう。まさに、DCCの恩恵というヤツだ。

シロッコの2モデルを乗り比べ、それぞれをキャラを探ってみると、2.0TSIは、この表現が正しいかどうか分からないが、どちらかといえば"ダンナ仕様"で、、ただのTSIこそがシロッコ本来のスポーツクーペという感じがする。ただのTSIの場合、硬めのコンベンショナルなサスペンションのためか、室内にビリビリした耳障りな音が聞こえることもあって、静粛性も含めた快適性では、DCCを装備する2.0TSIのほうが優れるといえるだろう。ザックリいって、簡単に速さを手に入れられるのも2.0TSI。ただ、ワインディングを飛ばした後の達成感は、圧倒的にただのTSIのほうが強いことも確かなのである。性能面で優位な立場にあるのは、もちろん馬力のある2.0TSIだが、ただのTSIも侮りがたい存在。硬派ではあるが、ハンドリング、さらに燃費などを加味すると、現代のスポーツクーペとしての総合評価では、むしろただのTSIのほうが高いようにも思われる。