フランクフルト国際モーターショーのフォルクスワーゲンのブースにおいて、最も重要なモデルは、ポロ、ゴルフ、パサートのブルーモーションだったと思われる。ともあれ、現在のユーザーの最大の関心事である燃費、およびエミッションを著しく改善、手に届くリーズナブルな価格で提供しているからだ。
フォルクスワーゲングループのヴィンターコルン会長はこう語っている。
「電気自動車の生産台数が現在のポロのレベルに達するのは、早くとも2020年ごろと考えられています。そのため、そこに至るまでの過程として、フォルクスワーゲンの誇る高効率テクノロジーであるTDIやTSIは非常に重要です。そして、これらの技術はまだしばらくの間は主力であり続けると思います」
現在、欧州でのディーゼル乗用車販売比率は50%を超える。フォルクスワーゲンはブルーモーションで、シェアをさらに拡大しようと目論んでいるのだ。

■必要にして十分以上の性能

まず、この3台の性能を紹介しておこう。ポロ・ブルーモーションに搭載される新開発のTDI3気筒エンジンは、ゴルフ/パサートのブルーモーションに搭載される4気筒の流れを汲むもので、4気筒同様、コモンレールインジェクションの採用できわめて高い静粛性を得ているという。最高出力は75ps、最大トルクは18.4kg-mで2000rpmという低い回転数から発生させるという。燃料消費率は3.3L/100kmで、これは従来型に比較して22%もの燃費向上となる。CO2排出量も109g/kmから87g/kmへと低減している。しかし、性能的には十分で、むしろ俊敏といえるぐらい。0~100km/h加速は13.7秒、最高速は173km/hに達している。

ゴルフ・ブルーモーションは、燃料消費率が3.8L/100kmという、このセグメントでは驚異的な4.0リットルの壁を破ったクルマで、CO2排出量は99g/km。新設計のコモノンレール・ディーゼルターボは、105psを発揮、25.5kg-mの最大トルクをやはり2000rpmという低回転域から発生。そのパフォーマンスは0~100km/h加速が11.3秒、最高速度は190km/h。ポロと同様、15㎜ローダウンされたスポーツシャシーが採用されていることも見逃せない。

パサート・ブルーモーションは、ゴルフと同じエンジンを搭載する。105psのコモンレールTDIユニットは、0~100km/h加速12.5秒、最高速度193km/hの性能をパサートにもたらしていて、CO2排出量114g/kmという優れた排ガス性能を実現している。これらの諸性能は、ポロ、ゴルフのブルーモーション同様、エネルギー回生システム、アイドリングストップシステム、転がり抵抗の少ないタイヤ、各バージョンに合わせた空力性能の高いホイール、エアロダイナミクスの微調整などで獲得されたものだ。

■ゴルフ・ブルーモーション同乗試乗

同乗試乗のチャンスは、フランクフルトショーの前日、14日の夕刻にやってきた。フォルクスワーゲングループは、ショーの前夜祭をフランクフルト近郊のアリーナで開催。フランクフルト中央駅からその会場まで、またその帰りも、シャトルとして使われていたゴルフ・ブルーモーションに同乗することができたというわけだ。
一見すると、ゴルフ・ブルーモーションは、ごくごく当たり前のスタンダードなゴルフのようだ。やや車高が低いが、タイヤ&ホイールは15インチで、前後のブルーモーションのエンブレムを見なければ、それとは分からない。細かく見ていくと、ルーフエンドスポイラーがGTI用のものになっていること、またテールランプがダークレンズになっていることなど差異はあるものの、フツーのゴルフではあるのだ。
室内に乗り込んでも、その印象は変わらない。シート表皮のデザインパターンがブルーがかったものに変わっているほか、電動ミラー、パワーウインドー、ライトのスイッチには、ハイライン仕様と同様のクロームのアクセントがつく。エアコンが効いていたのにも驚かされた。シャトルとして使われるゆえだろうが、定員いっぱいの乗車を予想してか、運転手君はエアコンを入れていたのだ。燃料消費を最小限にするために設計されているブルーモーションであっても、快適装備は省略されてはいない。

エンジンは外で聞いていると、軽く小さいカカカという音を聞かせるのみだ。室内であっても、その静粛性が変わることはない。TSIエンジンに比較するとややアイドリング音が大きいかもしれないが、十分に静か。走り出してすぐに分かるのは、加速性能が十分なものであること。TDIの低回転域からのトルクの太さがグイッとクルマを前進させて、DSGがその勢いを一瞬の途切れもなく引き継いでいくという感じだ。

フランクフルト中央駅は夕方ラッシュでかなり込んでいたが、そのおかげでアイドリングストップシステムの違和感のない作動も体感することができた。信号で止まる度に、エンジン音がスッと消えて、室内は静寂に包まれる。通常、エンジンが止まってしまうと慌ててしまうものだが、もちろん運転手君にそんな様子はない。信号が青に変わって、運転手君がアクセルを踏み込むと、エンジンは間髪を入れずにエンジンがかかって、DSGがクラッチを繋ぎ、何事もなかったように走り出す。そのスムーズさには、本当に驚く。

もっと驚かされたのは、アウトバーンに入った時だ。その加速には、燃費に特化したクルマによくあるまどろっこしさがなく、むしろ余裕さえ感じる。乗り心地は、エコタイヤとはいえ、15インチ。まろやかで、まったく不満がない。ステアリングを握ってはいないので、さすがにハンドリングまで語るわけにはいかないが、運転手君の素早いレーンチェンジで感じた範囲では、フツーのゴルフ。全然、問題ないようだ。

同乗試乗の結論は、このゴルフ・ブルーモーション、使える、もっといえば運転が楽しめそうな低燃費車というものだ。日本に持ってきても、これといって問題はないと思える。テールパイプから黒い排気がまき散らされるわけではないし、エンジン音もそれと意識しなければディーゼルと分かるものではない。ちなみに、55リットルの燃料タンクを満タンにすれば、理論的航続距離は1447kmという。スゴイと思う。このブルーモーションの最先端テクノロジーに対する価格上昇は500ユーロ以内に留まるというから、そのコストパフォーマンスはきわめて高いといえて、かなりのバーゲンといえるのではないだろうか。

正直にいって、欧州で最新ディーゼルを経験すると、なぜ日本でこれがダメなのか不思議に思う。ディーゼルはもう昔のディーゼルではないのだが・・・

(Text by M.OGURA)

(注:写真のゴルフは、IAA会場内でプレスシャトルとして走っている車両です。オグラさんが乗ったクルマとは違います。)