自宅から事務所までの約8キロの道のりを通勤途中、私は毎日いろいろなフォルクスワーゲンと出会います。ピカピカに磨き込まれたタイプ1のカブリオレに始まり、タイプ2、ルポGTI、先代パサート、先代トゥアレグたちが朝の挨拶をしてくれます。あ、タイプ1のカブリオレは頭からガレージに収まっていますので、お尻での挨拶ですが・・・
そんな通勤路を最近、徒歩で通う機会が多くなりました。運動不足解消とダイエットのため...というのが最大の目的です。通い慣れた道も1本裏を歩くと、さまざまな発見があります。クルマの速度では見えなかったものがよく見えます。それは古い洋食屋だったり、昭和にタイムスリップしたかのような喫茶店だったり。横浜の下町を通りますので、井戸端会議の内容まで聴き取れてしまいます。酒屋の多くは立ち飲み用のスタンドを店内に備え、午前中からご隠居さんたちがいい調子で盛り上がっていたりします。それが面白くて、ますます積極的に徒歩通勤をするようになりました。

すると、いるわいるわフォルクスワーゲン。今のところカルマンギアと新型シャラン、新型トゥーランはまだ見かけていませんが、それ以外のVW車はほとんどラインアップされているといってもいいでしょう。タイプ3のバリアントですらありましたから。まぁ、さすがにフェートンだのキューベルワーゲンだのは見かけませんけどね・・・。
ボディカラーもさまざまです。ちょうど今の季節の路地裏には、意外なほどたくさんの紫陽花が咲いています。その美しい色彩に負けないぐらい、フォルクスワーゲンは色とりどりの姿を見せてくれます。真紅のルポGTIは、元気が取り柄のベイビーギャング。ハーベストムーンベージュのニュービートル カブリオレは、素敵な女性がお買い物のパートナーとして連れ出していそうな雰囲気です。あまり手入れが行き届いていないトゥアレグは、ブラックボディをチョイスしたのは失敗だったかもしれませんね。汚れが目立ちますから。でも、もしかしたらラフロードなども積極的に走り、本来の性能をフルに発揮させるオーナーさんなのかも。ならば、ピカピカに磨き上げられるよりも、当のトゥアレグは喜んでいるかもしれませんね。おや、タイプ1のカブリオレは、今日はお出掛けのようです。せっかくの梅雨の晴れ間ですからね。ガレージフロアは予想通りオイルしみがタップリ。

事務所の近くには横浜でも有数の高級住宅街があります。横浜港を見下ろすその場所は歴史や伝統を感じさせる街並みで、観光客の散歩コースともなっています。私も、たまに犬を連れて出勤をした際にはそのあたりをブラブラ散歩するのですが、そこでも多くのフォルクスワーゲンたちに出会います。
豪邸のガレージにジャガーXJと並び胸を張っているシルバーのポロ。このあたりは道が狭いですから、機動性のよさでポロは大活躍しているのでしょう。大きなケヤキの木がある緑豊かな邸宅には、フィアットパンダが。その奥にはペパーミントグリーンのバナゴンキャンパーがあります。国籍やブランドにはこだわらず、自分のライフスタイルに合ったクルマ選びをしている様子が窺えます。でも、どちらのクルマも適度なヤレ感が住宅のイメージとマッチして素敵です。尾根伝いのワインディングを、屋根を開けたゴルフカブリオレ クラシックラインがやってきました。白髪の女性が颯爽とドライブしています。髪の色とワインレッドのボディが、じつに美しいコントラストです。
そんなフォルクスワーゲンたちを眺め、オーナーたちの姿を想像しながら歩くのはとても楽しい。フォルクスワーゲンを運転している人で、怖い顔をしながら運転する人ってあまりいませんね。彼らを眺める私もきっと無意識のうちに微笑んでいることでしょう。ささいなことですが、フォルクスワーゲンならではなんでしょうね。

(Text by S.KIKUTANI)

菊谷 聡(きくたに さとし)
輸入車最大手ディーラー勤務後、CARトップ編集部副編集長を経て現在は自動車専門コンサルティング会社を経営するかたわらエディターおよびライターとして活動。また、自動車を絡めたライフスタイルを中心とした講演、自動車メーカーのセールス研修コンサルタント&インストラクター、企業オーナーのパーソナルコーチとしても活動中。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。伝説のVWバイブル"BREEZE"誌においても、生方編集長の元寄稿をしていた経歴をもつ。