オープンカーは贅沢なクルマです。なんといっても屋根が全開になり、ドライブをしながら全身で太陽の光を浴び、風を受けることができるのです。



「四季があり高温多湿の日本にオープンカーは不要だよ」そういう方が少なくありません。たしかに、オープンエア モータリングを満喫できるタイミングは少ないかもしれませんが、だからこそ、その希少な時間を大切に味わうことは喜びに繋がるはずだと考えます。また、排気ガスが充満する慢性渋滞の多い都市部で生活をしている方にとっても、オープンカーは現実的なクルマではないようです。しかしそれも、機能性と実用性を両立したトップを備えていれば解消できる問題でしょう。

オープンカーにもいろいろ種類があります。まず呼び名。フォルクスワーゲンの多くに付けられているカブリオ/カブリオレをはじめ、コンバーチブルやロードスター、スパイダーなどネーミングはさまざまです。これらに法的な定義は存在しないようですが、私が自動車雑誌の編集者時代に、ある業界の重鎮から聞いた話では、「ロードスターやスパイダーは基本的に2シーターでロールバーなどはなし。オープン状態で走ることが前提で、いざとなれば雨を凌げるソフトトップを備えている」というもの。つまり、スポーツモデルに対しての呼称だろうということが想像できます。

カブリオレは逆に「クローズド状態で走ることが前提に作られていて、いざとなればフルオープンにもできるもの。基本的に4名乗車である」とのことです。あくまでも実用性や機能性も備えていることが条件としてありそうですから、そういう意味ではコンバーチブルと近いイメージでしょう。

さて、オープンカーには開閉式のトップが欠かせません。手動のビニール製のものから電動のメタル製まで種類は豊富で、それぞれにメリットとデメリットがあります。メタルトップは遮音性、耐候性などに優れ、クローズドボディとほとんど遜色ない剛性感も実現しているものが少なくありません。かたやソフトトップはコンパクトに折り畳むことができるため、フルオープンにしてもクルマのシルエットを損なうことがないというメリットがあります。もちろん、それを実現するためには、もともとのフォルムが美しいという前提条件がありますので、ソフトトップを備えていればいいというワケではありません。

オープンカーはソフトトップに限る。これは私の持論です。物心ともに余裕のある優雅な生活が連想できるからです。上質なソフトトップを備えたオープンカーは、完全に密閉できるガレージがあればこそ所有できると考えています。マンションの地下駐車場レベルではダメです。所有車以外の誰も立ち入らないガレージです。しかもオープンタイプのクルマはファーストカーにはなりにくいですから、2台、3台と所有していて、かつ完璧なガレージをもつ人。すなわち、時間とお金に余裕のある方。オーナーに対しては、そんな(勝手な)イメージを抱くことができるのです。

そんな観点でフォルクスワーゲンを見てみましょう。身近なモデルとしてはゴルフ・カブリオレ(ゴルフⅠとゴルフⅢでしたね)、そしてニュービートル・カブリオレがあります。

ほかには最近までラインアップされていたイオスもオープンモデルですが、リトラクタブルハードトップを備えるという点で、歴代オープンモデルのなかでは異質な存在だったかもしれません。

もっと遡るとカルマンギアなどは、今見てもまったく古さを感じさせないフォルムで、名車と呼ぶに相応しいモデルです。当時としては、そうとう斬新なスタイルだったのでしょうね。

フォルクスワーゲンのソフトトップは美しいです。たとえばニュービートル・カブリオレ。ベースとなるニュービートルは、フロントフェンダー〜ルーフライン〜リヤフェンダーと続く一連の造形を3つの円形で構築していることが特徴ですが、そのフォルムをソフトトップで見事に実現しています。その秘密は、世界的なオープントップのコーチビルダーである"カルマン"の高い技術力にあります。

もともと、馬車を作っていたカルマン社は、1900年初頭、次第にさまざまな自動車メーカーのボディを製造するようになっていきます。フォルクスワーゲンとのコラボレーションは、1949年にビートル・カブリオレに端を発します。1955年、名車カルマン・ギアのボディデザインを手掛けたことにより、カルマンの名は世界中に轟くこととなりました。その後の発展は8speed.net読者諸兄ならばご存知のことと思いますが、フォルクスワーゲンだけではなくメルセデス・ベンツやアウディ、ルノーなどのオープンモデルの製造も手掛けました。

残念ながら、カルマンの名は2009年の経営破綻により消えてしまいましたが、工場やスタッフを丸ごと買収したフォルクスワーゲン社の一部としてその技術は息づいています。もちろん、間もなくデビューする新型ゴルフ・カブリオレにも、そのDNAがたっぷりと注がれています。楽しみですね。

(Text by S.KIKUTANI)


菊谷 聡(きくたに さとし)
輸入車最大手ディーラー勤務後、CARトップ編集部副編集長を経て現在は自動車専門コンサルティング会社を経営するかたわらエディターおよびライターとして活動。また、自動車を絡めたライフスタイルを中心とした講演、自動車メーカーのセールス研修コンサルタント&インストラクター、企業オーナーのパーソナルコーチとしても活動中。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。伝説のVWバイブル"BREEZE"誌においても、生方編集長の元寄稿をしていた経歴をもつ。