ロサンゼルスショーでデビューしたハイブリッドのコンセプト、"Up! Lite"は、驚異的な燃費、環境性能もさることながら、実用面の様々なアイディアでも注目を集める。液晶ディスプレイ、タッチパネルの積極的な活用をはじめ、リアシートへのアクセスを容易にする工夫など、すぐにでも実用化して欲しいと思えるものばかりだ。
Up! Liteのインテリアは、機能性と日常的な使い勝手が追求されている。運転席回りの各種コントロールは直感的に操作できるようデザインされているが、その目的とするところは、説明書を読まなくても走り始められるほどの容易さ、インタラクティブ(双方向性)の獲得としている。それを具体化しているのは、3台のディスプレイだ。

ドライバー正面の7インチのモニターは、パワートレインの状態や車速、DSGのギア、時計や外気温、トリップ/オドといった基本情報を示す。ボタンの類は極端に少なく、ステアリングホイールの左側にライト関連のプッシュボタン、左側にエンジンおよび電気モーター用のスタートボタンがあるだけ。その他の情報や車両機能は、ディスプレイに表示され、またそれらをタッチすることで操作することになる。センターコントロールに配される5.7インチのタッチスクリーンは、空調コントロール、通信(電話)、それにMP3やビデオ、インターネットなどのインフォメント分野へのインターフェースを提供するが、興味深いのは、手前のコンピューターのマウスのようなものが、実はいわゆるシフトノブとなっていて、それがセンタコンソールのタッチスクリーンを精度高く操作できるように、ウデを支える機能も兼ね備えている点。よく考えられているのだ。

もうひとつのディスプレイは、ルームミラーの位置に付く。これは、搭載される3台のカメラから送られてくる映像を見せる、まさにスクリーン。Up! Liteの外観上の特長のひとつはサイドミラーというべきものがなく、その代わりのように小さなウイングが装着されていること。そこに内蔵されるのは、後方に向けられたカメラ。ルームミラーの役割を果たすカメラは、ルーフエンドスポイラーに組み込まれる。高速走行時は、リアカメラが車両後方エリア全体を映し出し、タウンスピードでは3台すべての映像が映し出して死角をなくすという仕組み。ドライバーは周辺環境をよく把握することができるというわけだ。



シートには、前後ともに新機軸が盛り込まれている。フロントシートは軽量構造のバケットシートで、ひとつのユニットとしてデザインされているため、シートアングルを自由に調節することが可能としている。また、新タイプのイージーエントリー機構によって、リアシートへのアクセスも良好。シート外側に接地されたループを引くと、シートは前方に大きくスライド、若干傾斜もして、十分な開口部を生み出すという。リアシートは、ヘッドレストを倒せば、それがロックの解除となって、シートバックが倒せるようになるというメカニズムを採用する。フォルクスワーゲンはこれを"イージースイッチ"と名付けている。

"パッシブパークベンチレーション"も気になる存在。これは、暑い日の駐車時でも室内を涼しく保つというもので、熱せられた空気が上昇する性質を利用しているという。Cピラーやホイールハウジングといった従来の換気エリアではなく、ルーフエンドスポイラーやテールゲートの間といった高い位置の開口部から、チムニー(煙突)効果によって換気するというシステムで、日本の夏にも有用かどうかは分からないが、なにかを消費するわけではなく、あったほうがいいだろう仕組みだ。

そして、おそらくマニアック派が興味惹かれるに違いないのは、アルミニウムと炭素繊維を組み合わせた18インチのホイール。これまでホイールに炭素繊維を使うという試みは何度か行なわれてきたが、成功した事例は聞かない。このホイールは、炭素繊維をスポークにして使っている点が実にユニーク。生産コストが高そうで、製品化には結びつきそうにもないが、その着想は秀逸。

それにしても、このUp! Lite、使い勝手は、そのボディサイズの含め、非常によさそう。いわゆるラジエターグリルにしても、エンジンの温度を制御する必要がある場合のみ開くという"アクティブサーマルマネージメント"を採用していて、それはたとえばフォルクスワーゲン車の、冬場のエンジンの暖まりの悪さを知る者にとっては、魅力的と思える装備。もうひとつ。エンジンルームを開けるまでもなく、ボンネットをスライドさせるだけで、ウオッシャー液などの補給ができるようにしているのも、なかなかのアイディアだ。

(Text by M.OGURA)