ジュネーブ・モーターショー2017で、各メーカーのプレスコンファレンスは3月7日朝にスタートした。各社の持ち時間は15分だ。
コンファレンスは、メーカー幹部や開発担当者がえんえんと解説するのが常だが、フォルクスワーゲンブランドは、今回よりスマートな方法を選んだ。前半すべてを、会場の実写映像とCG映像を重ね合わせたヴィジュアルで表現したのだ。


さまざまなユーザーやフォルクスワーゲンの開発/製品担当者のコメントが上映されたあと、まずステージには、先に米国に投入された「ティグアン・オールスペース」が現れた。


全長を21cm延長した7人乗り仕様である。


続いて、本サイトの別ページでも紹介された新プレミアム・セダン「アーテオン」が登場した。


後半は、フォルクスワーゲンブランドのヘルベルト・ディースCEOによるスピーチに充てられた。

各種コスト削減によって収益性が急速に回復していること、2017年には10車種以上の新型車を投入することなどが明らかにされた。

そしてアーテオンに関して「Great Style, Great Value for Moneyを享受したいお客様のためにパーフェクトな車である」と定義した。

彼の「Volkswagen is coming back」という言葉でスピーチが締めくくられると、世界からやってきたプレス関係者は、今回のスターであるアーテオンを一斉に取り巻いた。


担当者に話を聞く。まず気になるのは、市場におけるアーテオンのポジションだ。

答えは「クラスとしては上級Dセグメント」で、ライバルは「メルセデスEクラスおよびBMW 5シリーズで、主な市場は欧州トップ5マーケット、米国、中国およびアジア諸国」というものだった。

ところで米国でDセグメントといえば、ヒュンダイ・ソナタ、トヨタ・カムリが存在感を示している。

ただし彼によると「それらの市場はアーテオンではなく、パサートで対応する」という。また中国市場用にはフィデオンがあるが、「それはAudi A8と並ぶ、アーテオンより上級モデルの位置付けである」と説明してくれた。

ところで近年、米国や一部の欧州諸国では、UBERも含むライドシェアリングにおいてもプレミアムモデルの需要が増加している。そうしたマーケットもイメージ?......との質問には「プロフェッショナルドライバーの市場も当然ながら意識している」という答えが返ってきた。


とはいえ、これだけスタイリッシュなフォルムだと、後部パセンジャーにそれなりの犠牲を強いているのでは? 実際4ドアクーペと呼ばれるジャンルには、かなり窮屈な車もある。

そんな質問を投げかけると、担当者は近くにいた同僚に声をかけ「私も彼も身長約190cmです」と言いながら、2人で素早く前後に乗り込み、足を組んで微笑んだ。そのときの写真がこれである。


これなら、ショーファードリヴンとしての使用にも充分である。

シニア・エクステリア・デザイナーのトビアス・シュールマン氏(写真左下)は筆者に「ワイド&ローなスタイルを強調しながら、ロング・ホイールベース(2841mm)をしっかり確保することによって、アーテオンのデザインは実現した」と解説してくれた。


フォルクスワーゲンブランドのデザイン責任者クラウス・ビショッフ氏(写真右上)も、プレスリリースのなかで「ビジネスクラス グラン・トゥリズモ」という言葉を用いて、アーテオンを表現している。

いっぽうメーカーは、「経済的なグランツーリスモ」と題し、低く抑えることができるメインテナンス費用や保険等級などにも言及。総合的維持コストに優れ、フリート車両としても魅力的な選択肢になることをアピールしている。前述のディースCEOの言葉しかり、フォルクスワーゲンの高いバリュー・フォー・マネー性の訴求は、このようなプレミアムカーにおいてもブレていない。

アーテオンのドイツ国内価格は、ガソリンTSI 280psが49,325ユーロ(約596万円)から、ディーゼルTDI 240psが51,600ユーロ(約624万円)からである。

ドイツ国内はなんとワールドプレミアから僅か2日後の3月9日に予約が開始された。デリバリーは6月から開始されるという。欧州の自動車マーケットでは、かなり早いスピードである。開発年数の短縮とともに、市場投入までの時期も加速しているところに、フォルクスワーゲンの「やる気」がひしひしと感じられる。

比較にはたいして相応しくないが、東京で子供時代、初代ゴルフの登場を日本の自動車雑誌で知り、「本物」をヤナセで見るまで1年近く心待ちにしていたことをふと思い出した筆者であった。

ここからは余談......

ジュネーブ市街のショコラティエ(チョコレート店)はショー期間中、クルマをかたどったチョコをウィンドーに飾るのが慣わしだ。

童話に出てきそうなもの、何をモティーフにしたか、おぼろげにわかるものなど、タイプはさまざまである。

そうしたなか写真の店「ラ・ボンボニエール」のチョコは、かなり良い出来だ。車種の組み合わせからも、只者でないことを感じる。


割らずに持って帰れそうにないので、店内に入って真相を聞くのは断念した。だがあまりのリアルさに、逆に今になってみると、「元フォルクスワーゲングループ関係者がチョコ職人に転職?」「いや、チョコレート型の元は、開発部門から流出した設計図か?」などと妙な想像が膨らむのだった。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=Akio Lorenzo OYA,Mari OYA)