久々、フランクフルトショーに行った。正直にいうと、ジャーナリスト的な視点はあまりなく、発表されて以来、気になっている新型ポロをこの目で確かめてみたいというのが、その主な動機。しかし、ショー前日に行われたフォルクスワーゲングループの前夜祭では、いくつか複雑な思いをした。時代は変わる、である。
フランクフルトショーのプレスデーの前日、フォルクスワーゲングループのショー前夜祭が、フランクフルト近郊のアリーナで開催された。そこへの移動で、ゴルフ・ブル-モーションに同乗する機会を得たのは、VW/Audi SQUAREで記したとおり。この前夜祭で、まず感じさせられたのは、なんというか、日本の自動車業界の相対的な地盤沈下だ。ショーに集まるプレス関係者、業界関係者を集めて、ショーに登場させる新型車やコンセプトモデルの概要を明らかにしたこのイベント、国際的なイベントであるからして、同時通訳のレシーバーが渡されるのだが、なんと日本語用のレシーバーがない。ドイツメーカーのドイツ本国での開催だから、ドイツ語がないのは当然として、この日、用意されていたのは、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ロシア語、中国語、ポルトガル語の7言語分。かつては確実に用意されていたのに、日本語がない。

 前回、フランクフルトを訪ねたのは、"セプテンバー・イレブン"が発生した2001年だ。すでに8年が経過しているわけで、時代が変わっても全然おかしくないが、日本が自動車の市場としてはもう将来有望ではなく、中国やロシアが成長市場として有望という現実を見せつけられた思いがして、愕然とした。アジアの中心となる市場は、中国であって日本ではない。かつての興隆を知る者にとってはやや寂しいが、そういうことだ。
このフォルクスワーゲンの前夜祭では、リーマン・ショックがもたらした結果というものも眼前にした。この日、シュコダやセアト、VW商用車、スカニア、ランボルギーニにベントレー、ブガッティ、アウディ、それにグループのリーダーたるフォルクスワーゲンの、計9社が、それぞれ新型車やコンセプトを発表した。それは、ヨーロッパ最大の自動車メーカーの裾野の広さを窺わせるもので、改めてフォルクスワーゲングループの大きさを知ることになったが、最後にマルティン・ヴィンターコルン会長の紹介で登場したのは、ポルシェの新しい社長であるミヒャエル・マハト氏だった。

'05年のポルシャによるフォルクスワーゲン株20%取得は、部品供給や技術面でも深い関わりを持つフォルクスワーゲンが買収されることを防止する目的があったとされる。が、その後も株の買い増しを進め、'08年後半には40%以上を獲得して事実上フォルクスワーゲンを傘下におさめる格好となる。この背景には、将来より厳しくなる排ガス法に対処する目的もあったようだ。しかし、リーマン・ショックの影響を受けて資金繰りが悪化し、急転直下、今度は逆にフォルクスワーゲンがポルシェを買収する格好となる。ポルシェを率いていたヴェンデリン・ヴィーデキング社長はこの結果を受けて同社を去り、現在、ポルシェは2011年に予定されるフォルクスワーゲングループとの統合に向けて動き始めているという状況だ。

もともと、フォルクスワーゲンとポルシェは同族といえて、外野から見れば、今回の買収問題は収まるべきところに収まったという感じだが、それでもあれだけ元気だったポルシェが完全な独立を失ってしまうというのはツライ。その一方で、フォルクスワーゲングループは、これでついに二桁、10ものブランドを抱える一大グループとなったわけで、一段とその存在感を強めるだろうことに、心強さを得ると同時に期待も膨らむ。

今回のフランクフルトショーでは、フォルクスワーゲングループとポルシェの展示ブースは、別々のホール。次回、同じホールになるとしたら、相当大きなスペースが必要になるはずだが、さて、そんなホールはあるのだろうか?