この2月にアルゼンチンで発表されているというこのピックアップ・トラック、ウリは燃費のよさ。南米と北米では、このカテゴリーのクルマは、いわばオールラウンド・スポーツカーといった認識を得ていて、燃費さえよければそのユーティリティの高さはヨーロッパでも評価されるはずと踏んでの出品のよう。ヨーロッパ仕様と謳っているあたり、どうやら本気らしい。VWが大型ピックアップ・トラックを持っていたこと自体、知らなかったボクには、それだけで衝撃だった。ただ、ヨーロッパのプレスの中には批判的な意見もあった。それは要するに「トラックを持ち込んでいいのか」というもので、これをこのところ躍進を続けるVWの驕りと見る向きもあった。
注目されたのは、このプレスコンファレンスにスズキの鈴木修社長が招かれていて、MCによって紹介され、VIPエリアの最前列の椅子に座ったことだ。しかも、フォルクスワーゲンのヴィンターコルン会長の隣りで、その反対側の隣りはあのフェルディナント・ピエヒ元会長! ご存知のように、フォルクスワーゲンとスズキは先頃提携を発表したばかり。提携の内容はまだ具体的には見えてこないが、これによって、VWグループとスズキの連合が販売台数で世界ナンバーワンの地位を獲得するとされ、あるいはトヨタの地位を脅かす可能性もあるとして大きな話題となった。
鈴木社長は提携時、「スズキはVWグループの何番目かのブランドになったわけではない」というようなことを語って、あくまでも対等な関係にあることを強調していたが、このプレスコンファレンスでの鈴木社長へのおもてなしが、それが事実であることを物語っているようでもあった。鈴木社長はヴィンターコルン会長やピエヒ元会長とともに、その後、セアト、シュコダ、ベントレーと続いたVWグループ・メーカーのコンファレンスにも参加していた。それにしても、フォルクスワーゲンの現会長、元会長と鈴木修社長が並び座るなど、以前はまったく考えられなかったことで、小さなメーカーとはいえGMとやり合ってきた鈴木社長の経営者としての敏腕さを再認識するとともに、ここに合従連衡を繰り返す自動車業界のダイナミズムを感じた次第。
さらなる驚きは、このコンファレンスのプレスリリースにあった。この内容はプレスコンファレンスでも語られていたはずだが、コトの重大さに気づいたのは、ホテルに戻ってプレスリリースを改めて読んだ時。フォルクスワーゲンは、「2018年に世界ナンバーワンの自動車メーカーになる」と書いてあるのだ。当初、このナンバーワンの意味は電気自動車分野においてリーダーになることだと捉えていた。
「アマロック、トゥアレグ、シャラン、ポロGTI、またクロスポロやクロスゴルフ、T5の4MOTION仕様も、すべて2018年までに世界一の自動車メーカーになるというフォルクスワーゲン・グループのマスタープランの一部なのです。正しいクルマを正しいタイミングで導入していけば、そのゴールはどんどん近いものなるでしょう。その点では、2019年のジュネーブ・モーターショーが、グループにとってのひとつの目標時期になってもいます」
かつてフォルクスワーゲンがこれほど明確に、世界一の自動車メーカーになるという野望を表したことがあるだろうか。少なくとも、オグラの記憶にはない。
それは、計画よりも早く達成されることも予想される。GMを世界ナンバーワンの地位から引きずり落としたトヨタが最近のリコール問題を契機に生産台数を減少させる可能性があって、そうなれば、前述のようにすでに実質的にはナンバーワンとなっているフォルクスワーゲン・グループ+スズキ連合ということだけでなく、フォルクスワーゲン・グループ自体で首位に立つことも視野に入る。サラッと書いてあったが、それはかなり現実味を帯びているのだ。
余談だが、昨年のフランクフルトショーとやや様相を異にしていた部分がある。それは、プレスコンファレンスの同時通訳のレシーバーに日本語が入っていたことだ。昨年の"フランクフルトショーの前夜に"というタイトルのコラムでは、日本語がないことに日本の自動車業界の地位低下を見たような気がしたと書いたが、このジュネーブでは見事復活した。おそらく、いや100%、鈴木修社長が招かれていたからだろう。オグラのコラムが効いたわけでは、決してない。
それにしても、その同時通訳の案内で日本語のチャンネル表記がアルファベットではなく、漢字で表現されて出てきたのはよかったのだが、国語となっていたのは「フォルクスワーゲンもまだまだ」となんだか笑えた。