FGXについては、すでに本コラムにおいて
しかし、そうして長距離耐久ドライブをしてでも訪ねる価値はあった。まず、二三味珈琲の焙煎工房のある、この木の浦海岸のロケーションが実に素晴らしい。日本海に面していて、小さな湾を形作っている木の浦海岸は、とても穏やかな優しい表情を持っていた。砂浜の脇には小島も控えていて、まさに風光明媚という表現がピッタリ。スケールがそう大きくはなく、こじんまりとしているところがまた好ましい。
二三味珈琲の焙煎工房は、市営木の浦海浜レストハウスの裏手にあった。本当に小さな船小屋だ。その船小屋から出てきたジーパン姿の小柄な女性が、オーナーの二三味葉子さんだった。
葉子さんは、かつてパティシエを目指し地元の珠洲市を離れ、大阪で専門学校を卒業、東京の有名菓子店で修行を積む。「もちろん、ケーキ屋さんをやろうと思ってたんですけど、私ってパティシエには向いてないなと思い始めて・・・。お店で担当していたのは焼き菓子なんですね。焼いたら終わりです。でも、ほかのお菓子ってとても繊細じゃないですか。私にはできないな、なんてね。ハハハ」と、葉子さんはあっけらかんと話す。しかし、それでは終わらない。葉子さんはコーヒーに注目するのだ。ケーキにコーヒーはつきものだが、どちらかといえば、コーヒーは二の次。でも、美味しいコーヒーがあればさらにハーモニーがよくなるはずと、今度は有名珈琲工房でコーヒー豆の焙煎を学ぶことに。先の菓子店で4年、珈琲工房で4年。満を侍して平成13年、二三味珈琲をスタートさせる。
「この小屋、窓なんか落ちちゃってて、ボロボロ。でもね、おじいちゃんが残していてくれたものだし、コーヒー豆の焙煎釜が1台入ればいいんだから、これで十分。ここで始めようと決めたんです」と、葉子さん。なにせ、木の浦海岸は能登半島の奥の奥。通りすがりの人がコーヒー豆を買うなんてことはまずあり得ない。友人達には、「ここはいかんよ」といわれたそうだが、初期投資が少なくて済むというところにメリットを感じつつ、一方でこんな辺鄙なところにあるということがむしろ好材料になるかもしれないという予感もあって、開業を決めたそうだ。
起業は成功する。当初はほとんど細々と業販するだけだったそうだが、旅行雑誌に取り上げられたりして、次第に知名度が上がり、やがて全国を相手の直販が大きな割合を占めるようになる。そして、平成20年、珠洲市飯田町に念願のカフェ(Tel0768-82-7023)をオープンする。コチラはご覧の通り、明るくモダンな感覚。元酒卸業の倉庫を改造したそうで、その当時のままという部分も残した店全体の佇まいは、これもなかなかのもの。新しいものと古いものの絶妙なミックス感が心地よい。こうしたバランス感覚のあるアレンジは、どこかコーヒー豆の焙煎と共通するものがあるようにも思える。