先月25日に、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された"Volkswagen GTI Cup Japan 2011"第3戦の結果は、皆さん、もうご存知だろう。VGJとVTAが支援している大学自動車部のチームから参戦のドライバーが、予選でポールを獲得し、レースも制するという快挙を成し遂げた。ただ、この結果は、ある意味、現在のGTIカップの問題点を浮き彫りにするものもといえ、いろいろ考えさせられることが多い。
■6のGTIはいいクルマだが

まず、最初にいっておかなければならないのは、あまり経験のないドライバーでも条件さえ整えば優勝を勝ち取ることができるほど、ゴルフ6のGTIというクルマは優れているということだ。これは間違いない。
袖ヶ浦でのGTIカップ開催は、今回が初めて。いってみれば、参加ドライバーは横一線のヨーイドンでコースを学習しなければならなかったわけで、常連が持つ他のコースのような過去の経験、ノウハウは活きなかった。だからこそ、逆に真っ白な大学生ドライバーが、6のGTIの高性能を自然に引き出すことができ、優勝できたものと思われる。

6のGTIが登場した時、エンジンが新しくなってパワーが増大、さらにESPをはじめとする電子制御がさらに緻密なったことことから、確かなスピードアップが予想され、これが新しいマシンとなるGTIカップも、より熾烈に、面白くなるものと予想された。実際、6のGTIは、明らかに5のGTIより速かった。

が、レース本番になると、高度に電子制御化された6ならではの問題が浮上した。それまでのFFスポーツドライビング・テクニックを駆使すると、クルマの電子制御が安定方向のコントロールをしようと介入し、まずは警告。それでも不安定な走行が続く場合は、エンジンの回転数を下げたりして、走り続けるのをやんわりと拒否する。DSGはフールプルーフ制御のひとつとして、ある程度油温が上昇するとギアチェンジを受けつけなくなるようセットされている。ESPをオフにしたとしても、最終局面ではやはり顔を出す。あくまでも万人向けの安定・安全志向で、その観点では、完璧なまでの仕上がりなのである。

ということは、これまでいわれてきたFFを速く走らせるテクニックといった、いわば肉食系のドライビングを封印し、電子制御のお世話になりつつも、ひたすらそれがスピードを殺す方向に働かないようにする草食系のドライビングをする必要があるということ。この草食系のドライビングこそが、新しい時代のスポーツドライビングともいえるわけだが、湧き起こった疑問は、果たしてそれはモータースポーツといえるかどうか、である。

関係者にいろいろ聞いてみると、レースだからといって生産車に標準で装着される様々な安全装備・機構は、外せないもののようだ。たとえば、そうしたシステムを働かせないようにするキャンセラーを開発し、装備すればいいようなものだが、これも御法度。とりわけ、日本のGTIカップのように、ナンバー付き車両をベース車とする場合、公道走行を大前提としているわけだから、安全装備・機構は、絶対に外せないというわけ。頑なな姿勢のようだが、メーカー側の姿勢としてはまったく正しいと思われるのだ。

■来年はポロもオッケーにして欲しい

個人的に意見をいわせてもらうと、ここまで最新モデルの電子制御が高度に、緻密になった以上、最新モデルでのナンバー付き車両によるワンメイクレースは、モータースポーツとしては成立しないように思う。望まれるのは、やはりヨーロッパ同様、底辺のワンメイクレース用のモデルであっても、メーカーのレーシング部門が生産し、それが一般に供給されること。もちろん、クラッシュセーフティには留意するが、市販モデルような二重三重のフールプルーフ制御を外し、ドライビングテクニックの差でクルマの速さに差が出るレース用マシンだ。

といいつつ、現在の日本の経済状況においては、たとえこうしたレース用マシンを用意したとしても、かなり高額になることは確かだろうから、そこにマーケットがあるかどうかは疑わしい。もともと、ナンバー付き車両によるワンメイクレースは、レースに参加するそのクルマでサーキットまで走っていけるといったコンビニエントさ、コストのかからなさに、多くの人がメリットを感じ、盛り上がってきた。そうしてみると、現経済下、多少の無理があるにしても、現在のナンバー付きレースを存続させるべきということになる。

GTIカップジャパンは、いま、あまりにもエントラント数が少なく、来年はなんとしても台数を増やすことが望まれる。具体的には、ポロGTIの参戦も可能として、とりあえずはゴルフ6、5との混走を実現することだと思うが、関係者の皆様、いかがか? ともあれ、フォルクスワーゲン車でのレースが日本で続けられているという事実は重要。来年も引き続き、GTIカップジャパンが開催されることを強く望む。