この4月に発売開始となったゴルフのベーシックグレード、トレンドラインに試乗した。例によって、ジックリとこのクルマを味わってみようと、少し長い期間をかけ、距離を稼いでみた。ただ、このリポート、昔からの"ゴルフ好き"が書くゆえに、欲目がちであることをお許しいただきたい。


■105psというのがいい!?

まず、好ましいのは、簡素だが凜としたスタイルだ。クロームの採用は必要最小限に留められて、派手さはまったくない。ホイールは15インチのフルホイールキャップで、スタティックコーナリングライトはない。しかし、それだけに、ウォルター・デ・シルヴァが6で目指した"シンプル・バット・エモーショナル"が際立つように思う。そのエモーショナルも、最近のラテン系のクルマのように過剰ではない。精緻なボディワークによって、むしろクールさ、イイモノ感が漂う。このあたりが、5とはまた明らかに違う印象を与える所以だろう。

室内にしても、そうだ。デザインに奇をてらったところはなく、それが平凡にも思えてしまうところでもあるが、長く長く付き合っていくことを考えると、コチラのほうが正解だろう。ステアリングホイールやシフトノブはレザーではないし、コンフォートラインやハイラインにはあしらわれるアルミ調のアクセントも少ない。シート表皮も、ブラックとグレーを組み合わせた地味なものだが、妙にデザイナーに遊ばれてしまうよりはよい。むしろ、落ち着くというものだ。

ご存知のように、搭載されるエンジンは、シングルチャージャーのTSI。1.2リッターの4気筒で、最高出力77kW(105ps)/5,000rpm、最大トルク175Nm(17.8㎏m)/1,550~4,100rpmというスペック。1,800㏄クラスの実力を持つ。
この数値のなかでで注目したいのは、105psという最高出力。この105psは、ゴルフ史上、欠かすことのできない、ゴルフ好きにとっては記憶に残るパワーといえるからだ。ゴルフ2のSOHC1.8リッターの後期RV型が、この最高出力。たまさかそうなったのだろうが、なにか因縁みたいなものを感じる。この数値には、ゴルフらしさが強く感じられるというわけだ。

1.2リッターという排気量は、1,270㎏というボディ重量に対しては非力に思えるが、そうは感じさせない走りをこのクルマは実現している。それに貢献しているのは、ターボという過給装置と、7速DSGという変速装置。ターボは電子制御式のウェイストゲートを装着し、最大トルクをわずか1,550rpmから発揮させる。体感では、ブーストが立ち上がるのはおよそ1,800rpmからで、2,000rpmでフルブースト。あまり存在を主張しないというところは、VWのエンジンに共通するところだが、回転上昇にはまったくストーリー性がない。スムーズではあるが、回転の伸びといったものは感じられず、味はない。4,000rpm以上は、回ることは回るが、トルク感は薄くなる。正真正銘の実用型エンジンで、これはこれで潔さを感じる。

しかし、これが7速DSGと組み合わされると、エンジンとミッションの高度な総合制御におかげで、ほとんど不満のない加速性能をもたらす。アクセルを踏めば、電光石火のギアチェンジで、必要にして十分な加速を引き出して、少なくともタウンユースでは、なんら不足のないスピードを示す。信号グランプリでライバルをリードすることも容易。豊かとはいわないまでも、十分なトルクが生み出されている。

ただ、発進から一連の動きには、ややギクシャク感が残る。たとえば、落ち着いて、設定されているクリープ現象を使ってから発進するような場合は、実にスムーズなのだが、少し慌てて、ブレーキを離してすぐさまアクセルを踏んだりすると、すぐに2速のターボゾーンに入って、予期せぬ急加速に驚くことになる。1~3速までは、ややビジーな感覚があって、変速ショックは極小とはいうものの、使いづらい印象がないでもない。このあたりは小排気量のゆえの苦しさか。慣れてしまえば、問題はないと思うが・・・。

■"素のゴルフ"はいいものだ

トレンドラインは、ベーシックモデルだが、間違いなくゴルフ、それも6だ。高速道路でクルージングに入ってしまうと、6の開発で特に留意されたという静粛性が実感できるからだ。100㎞/h時のエンジン回転数は、7速2,000rpmチョイ。もちろん、風切り音などの騒音の類はほとんどなく、聞こえてくるのは、大げさにいえばタイヤが発するノイズのみ。トレンドラインの場合、タイヤが195/65R15というサイズで、当然ロープロファイルタイヤには不可避のサイドウォールの硬さを感じることもない。その静粛性とともに、ソフトなライド感が味わえて、もっと上級のクルマであるかのような乗り味が得られる。これは、ポロでは決して味わえないプレミアム感だ。

ハンドリングについては、"素直"という表現がピッタリ。サスペンションが固められているわけでもなく、グリップ性能面に突出したタイヤを履いているわけでもないから、ロールを許し、強めのアンダーステアも顔を出すが、だからといって、スポーティなドライビングを諦めなければならないほど、ヤワでもない。リアにマルチリンクを採用したシャシーは、その素性のよさを発揮して、なかなかしたたかなコーナリングを見せてくれるのだ。それに加えて、エンジンが軽量で前後重量配分が改善されているためだろう、ノーズの入りが軽快。案外、イケル。

さすがに、上りではパワー不足が否めず、あまり楽しめないが、下りに入ってしまえば、ニヤリとしてしまうこと確実。ノーズの軽さを利して、ヒラリヒラリという感じでコーナーをクリアしていけるのだ。こんなシチュエーションでは、7速DSGのマニュアル操作が実に有効。もちろん、パドルシフトは付かないから、シフトレバーでチェンジすることになるが、Rの強いコーナーが連続する場合、むしろ、確実な操作が可能なコチラのほうがベター。ということで、結構なスポーティドライビングが楽しめてしまうわけだ。


このトレンドラインを、新しいポロと比較して、どちらにしようか迷っている方も多いと思う。エンジン、ミッションが同じなら、小型軽量なポロのほうがよく走るのは、自明の理。しかし、大きなボディを持ち、室内空間の豊かさなゴルフのほうが、使い勝手に優れ、ファミリーカーとしての資質が高いことも事実。たとえば、リアシートに人を乗せる機会が多い人にとって、ゴルフのリア空間の豊かさは魅力的。エンジン性能的に同クラスとなるNA1,800㏄車と比較して、圧倒的に優れる燃費もいわずもがな。そして、現在ラインナップされるゴルフのなかで、昔からのゴルフのスタンスをちゃんと保っているように思えるのも、このトレンドライン。質実剛健という感じが、このクルマにはあるのだ。

ゴルフは、日本では輸入車ということもあって、そこそこプレミアム感がある。また、ここまでお伝えしてきたように、ベーシックではあってもトレンドラインは紛うかたなきゴルフ6。だとすれば、ポロを押しのけて選択肢の筆頭にあってもまったくおかしくないと思うが、いかがか?

結論をいおう。やはり"素のゴルフ"はいいものだ。
(Text by M.OGURA)