0.9リットル/100kmを誇る、XL1コンセプトをドライブした河村さん。そこで何を感じたのか??
いよいよ、後編です!

(前編はこちら

「優れた乗降性を確保するため」というルーフ部分にまで開口部が回り込んだ"ウインクドア"を跳ね上げ、いよいよXL1のドライバーズ・シートへと乗り込む。
やや斜め後方に位置するパッセンジャー・シートには、説明&お目付け役(?)の開発担当エンジニアが同乗。低い全高ゆえ、大柄な彼の頭上にはさすがにスペースのゆとりは全くないが、横方向には意外なスペースの広がりを感じられたのは、例のオフセットをしたシート配列も効いているようだ。

ハイブリッド・システムの起動はブレーキペダルを踏みつつスタート・ボタンをプッシュするだけ。バッテリーの充電状況が良ければエンジンはスタートせず無音状態がキープされるが、日本のハイブリッド車に慣れた人には「全く同じ」としか感じられないはずだ。

フロア・レバーでDレンジをセレクトしてブレーキペダルを緩めると、モーターによるクリープ力が発生。それが意外にも力強いのは、「回転が低いほどに大きなトルクを発する」という、電気モーターならではの特性も関係があるに違いない。

街のクルマの流れの中に合流をしようと通常はドアミラーが位置するサイドウインドウ前方に目をやるが、そこには何も存在をせず慌ててドアトリム前端のモニターに視線を移す。
同様に、後方を確認しようとするとついウインドシールド中央上部にルームミラーを探してしまうが、XL1にはそもそもリアウインドウが存在しないのだ。 「後方の障害物は超音波センサーを用いて確認する仕組み」というが、率直に言ってこの後方視界が限定される点についてはかなりの不安感が付きまとう。

ただし、「優れた空力フォルムを実現させるためには、ハイブリッド・システムはシート後方にレイアウトする以外ない」というのが開発チームの考え方。すなわち、仮に市販がなされる際もこの後方視界確保の問題は残る事になりそうだ。

街中で通常求められる緩加速程度ならば、XL1はエンジンを始動させる事なくその要求に対応してくれる。が、ちょっと素早い前車の動きに付いて行こうとしたり、高速道路の入り口ランプで元気の良い加速が欲しくなるといったシーンでは、2気筒ディーゼル・エンジンが即座に始動をしてパワーを上乗せする。そんなシーンではショックや振動は殆ど無視出来るレベルだが、さすがに2気筒ディーゼルが発するノイズはそれなりで、タコメーターの針の動きを確認しなくてもエンジンのON/OFFは明確に判断可能。

ちなみにそんなこのモデルの動力性能は、0→100km/h加速が11.9秒で最高速が160km/hと発表されている。前者はモーター+エンジンの双方がパワーを発した際のデータで、後者がリミッター作動で規制をされた数値だというのは、「細いタイヤや狭いトレッドによる安定性の限界を鑑みての事」が理由という。

ところで、そんなXL1の走りで驚かされたのは、その快適性が予想よりも遥かに優れていた事。これほどコンパクトで軽量なモデルなのに、そのフットワークには上質なしなやかすら感じられたのは、細かな振動を瞬時に減衰させてしまう高剛性のCFRP製ボディを用いる影響がかなり大きいとみた。
同様に、随行するパトロールカーによって流入車がブロックされたドーハ都心に連続する大きなラウンドアバウトを、"やや高速のコーナー"にみたててちょっと速い速度で通過をしても、細いタイヤが生み出すロードホールディングが予想をしたよりもずっと高く、スキール音ひとつ発生させない事も意外だった。

すなわち、XL1の走りはその快適性にしても運動性能にしても、"スーパー・エコカー"として予想をした水準よりも遥かに上であったという事。時にコンパクトなスポーツカーとしてのキャラクターすら感じさせてくれるのが、このモデルの実力なのだ。

現在のところそんなXL1は、あくもでも「ワンオフのコンセプトカー」という存在。けれども、近い将来の一般市販化までを考慮したスペックが各部に盛り込まれているゆえ、こうして触れてみてもその走りが単なる"夢物語"には留まらない感覚である事がとても印象的だった。

実際、VW社ではこのXL1に近いモデルを2013年には市販に移したいと語る。"リッター当たりオーバー100km"の世界は、もうすぐそこまで来ているという事だ!

(Text: Y.KAWAMURA / Photo: Volkswagen Group Japan)