8speed.net初登場の渡辺敏史さんが、ドイツでゴルフ GTI エディション35をレポート!! ノーマルのゴルフ GTIとの違いは!?



ゴルフの登場から37年。思えば長い時が経つものだが、その役割は昔も今もまったく変わっていない。
それすなわち、ベスト・オブ・ファミリーサルーン。語弊を訝しがる方もいらっしゃるかもしれないが、僕自身の年齢と記憶を辿っただけでも、世の中は仕事の様式や生活の価値観からして激変した。その中で、普遍的な満足感を市場に供することというのは、こと工業製品に於いては本当に難しいことだと思う。

そのゴルフが与えたもう一つの普遍的な価値は、ベスト・オブ・スポーツワゴンである。
眼下にはCNGを燃料とするシロッコのレーシングカーがせわしなくピット作業を受ける、そんな場所で交わされた短いインタビューの中で、VWのウルリッヒ・ハッケンベルグ副社長はゴルフ GTIの市場に於けるポジションとビジョンについての問いに、まずそう答えてくれた。

ポルシェキラーとさえ称された大物食いのゴルフ GTIがアウトバーンに降りたってから、今年で35年の月日が経つ。VWにとって今年のニュルブルクリンク24時間レースは、そのアニバーサリーをユーザーと共に楽しく祝おうという場所でもあった。そのために製作されたゴルフの参戦車両は大幅改造が許されるカテゴリーにあって、参戦決定が昨年9月、その後車両開発を急ピッチで行い、シェイクダウンが昨年12月だったというから、いかにその参戦が急遽決まったかが伺える。

それすらも「エンジニアにとっては迅速な開発という経験が今後の財産となるはず」と苦笑いしながら言うのだから、氏はドクターにして、噂に違わぬ体育会系の人物である。そして、そんなハッケンベルグ下のVWが送り出したもうひとつのアニバーサリーが新たに追加された新グレード、ゴルフ GTI エディション35だ。

搭載するエンジンはお馴染みのEA113系ながら、歴代GTIにおいて最高のパフォーマンスを標榜するエディション35ではその出力の下二桁をアニバーサリーイヤーに合わせるように24psプラスの235psへとアップ。トルクも2kgm増強の30.6kgmとなる。と共に、その発生回転域も2,200rpmからと、若干高回転型にECUがリセッティングされていることもうかがい知れる。このパワーアップにより得られたエディション35の最高速は247km/h。アウトバーンキラーの元祖は、敢えて250km/hの紳士協定にほんの少しだけ道を譲ったのだろう。


外観では下部の空力意匠が強調された専用のフロントバンパーを採用、フロントのLEDコンビランプはオプション扱いだ。一方でリア側は、ゴルフRやゴルフ アディダスに採用されているLEDコンビランプがスモークタイプで標準となる。タイヤサイズは標準装着が日本仕様でのオプション扱いとなる18インチ。更にはオプションで225/35 R19のチョイスも可能となる。そして電子可変制御ダンパー=DCCは標準装備・・・と、以上は本国仕様のディテールであり、日本導入の暁にはベースモデルとの差異を計るべく、幾つかのオプションは標準装備となる可能性もある。

内装ではゴルフアディダスにも採用されていたディンプルパターンのシフトノブをMT・DSGの両車に採用、シート地は伝統のチェック柄に加えて、GTIらしいハニカムメッシュをモチーフにしたレザーコンビの表皮も選択が可能だ。

ベースモデルのGTIに対するエディション35のもっとも大きな違いは、やはりエンジンフィールだろう。決して低速トルクが細った印象はないものの、2,000rpmを超えると明確な力感が加わり、4,000rpmを超えると更に清冽なパワー感が軽やかな摺動感と共に備わってくる。TSIコンセプトの浸透でもはやレッドゾーンという概念を捨てたかに思えるVWのタコメーターで確認しても、そのパワー感はタレなく7,000rpmまで続き、更にその上までもスキッと回っていきそうな回転フィールは、やはり今までのEA113とはひと味違うという感じだ。が、シロッコRほどの猛々しさを感じさせないのはサウンドチューニングも含めての、GTIの商品コンセプトに依るところだろう。

僕が思うGTIのコンセプトは、絶対的な速さよりも常に総合的なバランスが勝る状況にあるというものだ。エディション35はまさにそういうクルマで、ベースモデルに対して快適性や可搬性という実用面において、一片の偏りも感じられない。強いて言えば、ほんの少しだけ放たれる音が元気良いかと思う場面もあったが、山道のみならずサーキットをゴリゴリに走れるパフォーマンスの裏に、小雨混じるアウトバーンを一気に200km/h超まで速度を乗せ、その状態でなんら不快感や緊張感を伴わず巡航できるという性能を平然と有している。

この芸幅の広さこそGTIの真骨頂であり、切り拓かれたホットハッチという市場に参入した数多のライバルに対して、今も昔もGTIがイニシアチブを握る最大の要因である。さもすれば今後、GTIを走らせる手段がまったく新しいパワートレーンに変わったとしても、それは守り続けられるはずだ。

「ゴルフ GTIはVWにとって大変重要な意味のあるブランドであることは昔も今も変わりはない。過去に200万台近い販売台数を記録してきたGTIがデビューした74年は、オイルショックの直後という、決して市場が順調なタイミングではなかった。誰もが手に入れられるナンバー1のスポーティリムジンというニーズは、むしろ経済の停滞や環境意識の向上といった今の状況にこそより強く大きな未来がある」と、ハッケンベルグ副社長曰く。
その未来へのメモリアルともなるエディション35、日本への上陸は今秋の予定だ。

(Text: T.WATANABE / Photo: Volkswagen Group Japan)