昨年9月のフランクフルトモーターショーで発表されたフォルクスワーゲンの新しいスモールカー「up!」は、3月の時点で販売台数が4万台を超えたという。
フォルクスワーゲンとしては、この市場では今まで「ルポ」や「フォックス」で辛酸を舐めてきており、またup!自体、従来のモデルとはまったく異なる革新的なモデルだということもあって、需要はまったく読めていなかったというが、まずは期待以上の滑り出しを見せたことで、首脳陣もほっと胸を撫で下ろしているようだ。
そんなup!に追加された4ドアモデルの国際試乗会が、3月末にドイツ デュッセルドルフにて行なわれた。ドアが増えただけで、わざわざ試乗会を? とも思ったのだが、プレゼンテーションによれば、4ドアはup!の販売全体の50%を超えると見込まれているとのこと。力が入るのも当然なのである。
2ドアでは、下端のラインが後方に向かってせり上がるリアサイドウインドーが特徴となっていたのに対して、4ドアのサイドビューはオーソドックスな仕立てとされている。とはいっても、全体で見れば紛れもなく個性派。キャラクターが薄まったという感じは薄い。
ボディサイズにはいっさい変化はない。よって室内寸法にも変化はなく、ドアの向こうにはサイズから想像する以上の空間が広がっている。特に後席は、頭上も足元も圧迫感とは無縁で、十分にくつろげる。これは、前席ともども着座位置を高めにして乗員をアップライトな姿勢で座らせるパッケージングの賜物。広さの面でいえば、ポロよりも寛げるように感じられるほどだ。
ツインクラッチのDSGではなく、あくまでシングルクラッチのロボタイズドMTだけに、変速時のタイムラグはやはり皆無ではない。とくに1速から2速へのシフトアップなどは、アクセル開度が一定のままだと、どうしてもひと呼吸置くことになる。スムーズに走らせるには、変速のタイミングを見計らってアクセルを軽く抜いてやるなど、ちょっとコツが必要。このあたりは、率直にいって他社の同種のシステムに較べて、特段勝っても劣ってもいないというところだ。
通常走行に使うのはDレンジのみで、シーケンシャルゲートはあるがスポーツモードなどの用意はない。基本的には燃費を稼ぐために早め早めにシフトアップしていく設定となっている。
排気量999ccの直列3気筒自然吸気エンジンは、最高出力75ps、最大トルク95Nmというスペックから想像する以上に粘りがあるから、それで不満を覚えることはほとんどない。何しろマニュアルモードで試してみたら、5速1500rpm、50km/hからでもじわじわと加速していくほどなのである。
しかしながら、首都高の渋滞のような完全停止せずにだらだらと進む場面では、高いギアから再加速のたびにいちいちキックダウンするのが少々煩わしく感じられた。せっかくの粘りを、もっと活用してもいい。あるいは、これはモード切替などがあれば解決かもしれない。
しかし実際に乗り込み、そして走らせてみれば、考え抜かれたパッケージングがもたらす快適な居住空間や、スモールカーへの期待値をはるかに上回る走行性能に、お金をかける場所がまったく違っているんだということを実感させられるはずだ。
あるいはゴルフやポロに親しんでいるフォルクスワーゲン・オーナーにとっても、同じことがいえるのかもしれない。けれど間違いなく、それらと相通じる骨太なものに感じ入ることになるだろう。
何を隠そう。筆者自身がそうだった。最初は見た目も走りも何だか素っ気ないな...と思っていたのに、走らせるにつれてどんどんその世界にハマッてきて、up!のある生活についてアレコレ想像するようになってしまったのだ。
今回、同行したフォルクスワーゲンジャパンの方に再度確認したが、かねてからの噂通り、up!の日本仕様は価格的にも相当攻めてくる様子である。上陸は年末の予定。早くその衝撃を多くの人に味わってほしいと思わずにはいられない。
(Text by Y.Shimashita / Photo by Volkswagen Group Japan)