当時のフェルディナンド・ピエヒ会長の指示により、アメリカでのフォルクスワーゲンのイメージアップを図るために誕生した2代目「ニュービートル」。親しみやすいファニーフェイスにしたことが、特に女性にウケたのはご存じのとおり。その誕生からすでに13年が経ちバトンを渡されたのが3代目「ザ・ビートル」だ。
ザ・ビートルは、シートに座った瞬間にフロントウインドーの角度が立ち、Aピラーを曲線から直線的にしたことがわかる。つまり、初代のイメージをさらに濃くした原点回帰のコンセプトだ。
キリリと締まったマスクとシェイプしたフォルムに変わったことで、これなら男性ユーザーも躊躇せずに乗れるだろう。特に18インチの大径5本スポークホイールを履く仕様は、見た目で"スポーツカー"の雰囲気もたっぷりだ。
ウインドーの角度を立てたのはデザインだけの理由ではない。先代ニュービートルはフロントウインドーまでが異様に遠かった。広大なダッシュボードの先にフロントウインドーがあり、さらにその先にノーズの先端がある。だからこのクルマの操縦感覚は、まるで遠隔操作するかのようだった。
全長×全幅×全高のスリーサイズは、ニュービートルが4130×1735×1500mmとホイールベース2515mmに対して、4278×1808×1486mmと2537mmのザ・ビートルは明らかにワイド&ローなフォルム。全高はニュービートルに対して数値ではわずかに低いだけ。だが全幅の広いザ・ビートルはより低く見え、スタイリッシュだ。
日本仕様といいながら実はトランスミッションがまだ6速MTしか用意されていない。2ペダルがメインの日本では、1.2LのゴルフTSIと同様に7速DSGのみが用意される。1.2TSIは低速からターボチャージャーの過給により1.2Lとは思えないトルクとパワーを得ている。その動力性能に何ら不満のないことは、日本のゴルフやポロでも実証済み。
一方、日本では試乗できない6速MTの走りは、ひとつのギヤのまま加減速を繰り広げるコーナーの連続では「爽快」の文字が浮かぶ。ただし、ゼロスタート時に低い回転で滑らかにクラッチミートをすると"ストン"とストール現象。あわててクラッチを踏み直す煩わしさがあった。
しかしコレ、DSGではあり得ないので心配ご無用。エンジン回転に応じて自動制御でジャストミートしながらスタートする7速DSGこそ、小気味よい走りが展開できる。6速MTを経験したことで、瞬時のシフトアップ、ダウン時の回転合わせも含め、改めてDSGの万能性の高さを確認した。
操縦性と乗り味は、タイヤのグレードとサイズの違いが関係することも認識した。試乗車には17インチにコンフォート系、18インチはスポーツ系のコンチネンタルが装着されていた。路面との接地感の滑らかさや凹凸からの入力に対する衝撃の"いなし"のまろやかさは17インチが断然いい。もっといえば17インチの55偏平に対して、標準の16インチは60偏平だから、なおさら滑らかなハズだ。
18インチはコーナー進入に向けて、ステア操作した瞬間からの応答性、グリップレベルが圧倒的に違う。路面に吸い付くかのように少ない舵角でクイックにより高い通過速度を可能にする。スポーツ派にはコレかと思うが、タイヤが勝ち過ぎの印象も強い。
さらにこれはリヤのトーションビームサスペンションとの相性かも知れないが、18インチによる単体重量の増加からバネ下の重さ、バタツキ感が出てしまう。だからこれは2.0TSIのようにリヤサスにマルチリンクを持つシャーシにこそマッチするタイヤといえそうだ。
高速直進性はフォルクスワーゲンの基準らしく、ステアリングに手を添えているだけで「自立性」がある。旋回はタイヤのキャラクターで応答の違いはあるが、どちらも舵角に正確に曲がり、リヤは粘るグリップ力だから姿勢変化は終始穏やかな安定性。もちろんステアリングを切り込む速度に応じて動きは自在にコントロールできる。
そんなザ・ビートル。日本市場では「デザイン」グレードのレザーパッケージ仕様(303万円)の予約注文が4月20日に始まり、この夏までにはデリバリーが開始される予定だ。
(Text by Shinichi Katsura)