2014年10月にデビューしたばかりの新型「パサート」を、モータージャーナリストの河村康彦さんが試乗。MQBを採用したパサートの出来映えは?
フォルクスワーゲンを代表するセダン/ステーションワゴンであり、日本では「全ラインナップ中のフラッグシップ」という役割をも担うパサート。グループが推進するパワーユニット横置き車用のモジュール構造プログラム「MQB」を新たに採用したオールニューのセダン/ステーションワゴンが、先日開催のパリのモーターショーでついに登場。早速その国際試乗会に参加をしてきた。

舞台は地中海のイタリア領サルディニア島。幸いにも、陽光まばゆい青空の下でのテストドライブが実現した。前述のモーターショーが開催されたパリからのチャーター便で降り立った空港駐車場に、ズラリと並べられた新型パサートの一群。自然の光の中で初めてそれを目の当たりにしての第一印象は、実はショーの舞台で目にしたときと一緒だった。

すなわちそれは、とにかく「見た目の質感が際立って高いな!」ということ。まるでプレスマシンをあてた直後のシャツの折り目のごとく、ピシッとシャープなエッジが効いたボディのキャラクターラインや、パネル同士の隙間の小ささに、まずはそうした印象を実感することになったのだ。


一方で、スタイリングのイメージそのものは、セダンも、これまでと同様にヴァリアントと呼ばれるステーションワゴンも、いかにも「紛れもなくパサートそのもの」である。

率直なところ、日本ではゴルフやポロなどを前にしてやや陰が薄い感が否めないが、グローバルで見ればパサートというのは、実はフォルクスワーゲン グループでのベストセラーだという。例えば、2013年の実績では、世界で毎日3000台をコンスタントに売ってきた(!)のがパサートとその派生モデルであるという。

かくも人気を博した従来型のイメージを、あえて変える必要はないという判断が下されても、それは道理であるはず。ただし、そうした中にあってもそのプロポーションがより流麗に、伸びやかになったように感じられるのは、基本的には従来型と同等のボディサイズの中で、ホイールベースのみが約80mm延長をされた効果が大きく影響していそうだ。


こうして、まずはエクステリアの仕上がりがより上質になったことに感心をしつつ、キャビンへと乗り込むとそこではさらなる驚きが待っていた。

ダッシュボードの左右幅いっぱいまで伸びた水平基調の"ベンチレーションストリップ"が目を引くインテリアは、細部のすみずみにいたるまでが、ひとつの隙もなくいかにも入念につくりこまれている。その上質ぶりはもはや、インテリア質感では際立つ高さと定評のあるアウディ各車にもまったく見劣りしないといっても過言ではない印象なのだ。


もちろん、そんなキャビン空間は大人4人が長時間を過ごすにもまったく苦のないものだし、セダンのトランクルーム、ヴァリアントのラゲッジスペースともに、いずれも「広大な」という表現を使って差支えのないレベルだ。


そんなこんなに感心をしながら、いよいよエンジンに火を入れる。今回主にテストドライブを行ったのは、日本への導入が予想をされる1.4Lのガソリン直噴ターボ・エンジン搭載モデルだ。

......と、走り始める以前のこの段階ですでに驚かされたのは、今度は圧倒的といってもいい静粛性の高さ。アイドリング音がほとんど耳に届かないばかりでなく、たとえば喧噪な街中でも、外部のノイズの遮断性に極めて優れているのだ。さらに、そんな静かさの印象は、いざ走り始めても変わることがない。


実は、ゴルフが従来型から現行モデルへと変わったとき、真っ先に気付いた走りの印象の進化点は、静粛性の大幅な向上だった。今回のパサートのテストドライブでも、第一印象はまさに同様。新型パサートは、「このクラスで最も静か」と紹介するに値する1台だ。

今回テストドライブしたモデルは、セダンもヴァリアントもいずれも電子制御式の可変減衰力ダンパーを採用し、標準サイズよりも大径の18インチ・シューズを装着。そんな後者の影響か、路面凹凸の状況によって は「ちょっとバネ下が重いかな......」という印象を抱く場面もあったものの、基本的には乗り味は十分しなやか。そのうえで、無用な上下動は抑えられ、ボディ・コントロールが良く効いている。


ちなみに、すでにゴルフなどに搭載されて定評あるパワーユニットは、ひと回り大きく、そして重いパサートに積まれても、しっかりと満足行く働きぶりを見せてくれる。確かに、それが生み出す加速力は飛び切り強力というわけではない。が、一方で今回のテストドライブ中も、物足りなさを感じる場面は一切無かったのもまた事実。

例によって、低回転域からのアクセルオンでもきちんと必要なトルクを発してくれるので、街乗りシーンでもごく扱いやすい。とくにパサートというモデルのキャラクターを考えれば、これで不満を感じるということはまず考えにくいものだ。


新型の狙いどころは、「これまでのモデルに対してより高い仕上がりレベルを実現し、プレミアムカーの領域へと迫ることにあった」と、開発担当エンジニアのひとりが教えてくれた。見て、触れて、乗ってみると、「なるほど、それはいい得て妙だな」と、まさにそんなことを実感させられる新しいパサートなのである。

(Text by Y.Kawamura)