先代のデビューから4年、フォルクスワーゲンの上級モデル「パサート」がフルモデルチェンジを実施し、8代目に進化した。4年というのはフォルクスワーゲンのモデルサイクルとしては短いが、6代目と7代目は基本設計を共有していたことを考えると、実質的には9年ぶりのリニューアルということになる。
注目したいのは、ゴルフ7から採用されている「MQB」モジュールによりこの新型がつくられていることだ。その詳細については
パサートをナマで見るのはこのときが初めてだったが、ワイド&ローが強調されるフロントマスクのせいなのだろう、パサートというより、むしろ「フォルクスワーゲンCC」の進化形という印象だ。しかも、あのCCよりもさらにシャープで精悍に仕立て上げていながら、品良くまとめられているあたりが、新型パサートに好感を抱く理由かもしれない。
運転席に座ると、目新しいデザインのダッシュボードに視線を奪われる。ダッシュボードには一体感のあるエアベントが埋め込まれ、水平基調のデザインを強調しているのだ。これに、美しいウッドパネル、純正ナビゲーションが収まるセンターコンソール、アナログクロックなどが違和感なく融合し、ゴルフよりもひとクラス上の、上質で落ち着いた雰囲気を醸し出している。"洗練された"、あるいは、"垢抜けた"という言葉がすぐに思い浮かぶ。
上級グレードだけにナパレザーのシートが奢られるこのハイラインなのだが、うれしいのが前席にはシートヒーターに加えて、シートベンチレーションが採用されていること。これなら夏でも快適にレザーシートに座ることができるし、積極的にレザーシート付きの仕様を選ぼうという気持ちになる。
余裕ある後席もパサートの美点のひとつ。身長167cmの私が運転席のポジションを合わせ、そのまま後席に移動すると、前席の背もたれと膝との間には約30cmのスペースが確保されている。これなら余裕で足が組めるし、座面、背もたれとも適度な窪みがあるのでサポートも十分。家族はもちろん、ゲストを乗せるときにも喜ばれるのは確実だ。
運転席に戻り、さっそく走り出すと、クルマの動きが思いのほか軽い。新旧ハイラインで比較すると30kg軽いという話は聞いていたが、全長4785×全幅1830×全高1470mm、車両重量1460kg(このクルマは電動スライディングルーフ装着車のため1480kg)という数字からは信じられない身軽さなのだ。
もちろんこれには車両の軽量化も効いているはずだが、余裕あるトルクを生み出す1.4 TSIの貢献度も高いはずだ。
旧型の1.4 TSIでも必要十分な性能は得られていたが、新型のエンジンは28psと50Nmが上乗せされたのに加えて、車両そのものが低フリクション化した印象があり、その相乗効果がこの軽快感を生み出しているに違いない。そういえば、ゴルフ7に初めて乗ったときにも、同じようなことを感じた。
2000rpm以下でも事足りるほど低回転からトルク豊かな1.4 TSIは、実用域でまるでストレスのないパフォーマンスを示す一方、その気になって回せばレブリミットの6000rpmまで気持ちよく加速する。一方、気筒休止機構のACT(アクティブシリンダーマネージメント)を採用することで、アクセルペダルを軽く踏んで巡航するような場面では小食ぶりを発揮。高速だけならJC08モード燃費の20.4km/Lは十分上回ることができそうだ。
乗り心地は低速では多少硬めに思えたが、スピードが上がれば実に快適で、フラット感もまずまず。しかも、このパサート、静粛性がきわめて高く、高速での走行安定性も高いことから、長距離の移動には打ってつけだ。
この日は、パサート ヴァリアントをスポーティに仕立て上げたR-Lineも試すことができた。格子状のフロントグリルを持つので、標準モデルと違うことはすぐにわかる。また、リヤバンパーに内蔵されるツインエギゾーストフィニッシャーも、スポーティな雰囲気を強めるのには効果的だ。
インテリアもアルミニウムのデコラティブパネルやペダルカバー、専用デザインのステアリングホイールとなったアイテムを装着してスポーティさを演出。シートはツートーンのナパレザー仕様になり、サイトサポートの内側にカーボン調レザーを採用するのが個人的に惹かれるところ。シートベンチレーションが装着されないのが唯一残念な点だ。
ハイラインが215/55R17タイヤを履くのに対し、R-Lineは235/45R18、この試乗車にはさらに1インチアップの235/40R19サイズのタイヤが装着されているため、ハイラインに比べると路面によっては多少タイヤがバタつくこともある。しかし高速ではハイラインよりもフラットさが増し、硬めの乗り心地が好きな人には歓迎されるに違いない。
ということで、例によって駆け足で2台を試乗したが、インテリアデザイン、クオリティ、そして、走りのすべてにおいて、ゴルフよりも上質な仕上がりを見せる新型パサート。スペースに余裕があるというだけでなく、走りや雰囲気にゴルフとは違う「品」が感じ取れるクルマだった。「ゴルフもいいけど、もう少しゆとりがほしい」とか「上質な雰囲気を楽しみたい」という人には格好の選択肢だ。
しかもこれだけ精悍なルックスを手に入れたことから、これまでゴルフの陰に隠れ目立たなかったが、新型の登場で日本でも存在感が高まるのではないか? そんな期待を抱かせる新型パサートである。
(Text by S.Ubukata / Photos by M.Arakawa)