今回お送りするのは、911 Targa 4 GTSの試乗記の続編です。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回はいよいよ「ポルシェ 911 Targa 4 GTS」の試乗編です。

前編ではタルガの歴史と、その強気な価格設定を詳しくお話しました。

今回はいよいよ試乗編です。

今回、911 Targa 4 GTSをお借りして目指したのは新潟県の苗場です。背景の苗場プリンスが「真っ赤なポルシェ」のTarga 4 GTSを引き立たせます。

目的地は新潟県の苗場。東京から関越道を北上し、月夜野ICで降りて国道17号で向かいます。目的はもちろん三国峠のワインディング。今回は月夜野と苗場の間を敢えて2往復してクルマの性能を確かめました。同じ峠を上り下り、合わせて4回走ったことになります。

上りと下りでは荷重のかかり方も違えば、同じコーナーでも進入速度やアクセル操作によって印象はガラッと変わる。特に今回のような重量級の高性能車は、繰り返し走って初めて見えてくる世界があるのです。

まずは関越道での印象から。

「速い」

最高出力541PS、最大トルク610Nm。対する車両重量は1745kg。ドライバー込みなら1.8トンを超える立派な重量級。ところがアクセルを踏み込んだ途端、そんな数字はどうでもよくなる。猛烈な加速。まるで重量という概念を置き忘れてきたかのようです。

CoupeともCabrioletとも違う、Targa独得のシルエット。撮影中、ダイハツ コペンに乗るオーナーが「これ欲しいんです」と話しかけてきてきました。

電動ターボチャージャーが過給圧の立ち上がりを助け、さらに8速PDKに組み込まれたモーターが駆動力を補う。従来のターボエンジンにあったわずかな応答の遅れは、ものの見事に消されています。

巡航速度からアクセルを踏み増せば、間髪を入れずに加速がはじまる。それでいて唐突ではありません。このあたりのチューニングは実に巧みで、乗っていて電気の存在を意識することはほとんどありません。何というか、ひとつの巨大なエンジンが、どの回転域からでも涼しい顔で猛烈な力を発生しているような感覚です。

耳に届くのは紛れもない水平対向6気筒のサウンド。電動化によってエンジンの存在感が薄れるどころか、アクセル操作への反応が鋭くなった分、一体感はむしろ増した印象です。

911 Targa 4 GTSに搭載されている「T-hybrid」は、運転していてもハイブリッドモデルであることを忘れさせてくれます。それくらい自然な加速が味わえます。

ハイブリッドの存在を感じさせないために、より複雑なハイブリッドを開発してしまう。ポルシェという会社は、妙なところに執念を燃やすメーカーです。

PDKの仕事ぶりも見事です。穏やかに走れば変速を意識させず、加速を要求すれば即座に適切なギアを選ぶ。足まわりは引き締まっていますが、高速巡航では無用な上下動も少ない。上質なグランドツーリングカーです。

……と、ここまでは541PSの威力を確認したに過ぎません。ホンバンは月夜野ICを降りてから。猿ヶ京温泉を過ぎて三国峠へ向かいます。山間を縫うように続く国道17号には、緩やかなカーブもあれば、回り込むようなタイトなコーナーもある。走行モードを切り替えて、徐々にペースを上げていきます。

911 Targa 4 GTSの実力を探るべく、敢えて関越道月夜野IC〜苗場のワインディングロードを2往復してみることに。

まず感心するのはコーナーからの立ち上がり。ステアリングを戻しながらアクセルを開けると、4輪駆動の強大なトラクションで、重い車体が猛烈な勢いで前へ押し出されます。次のコーナーまでの短い直線でも加速に淀みがない。

シャシーの能力も高い。コーナリング中の姿勢は安定し、路面をつかむ感覚も頼もしい。重量級のオープンモデルに、ここまでの旋回能力を与えてしまうとは……。

さすがポルシェ。やっぱりポルシェ。

コーナーを繰り返し抜けるうちに、あることが気になってきました。重い。

ワインディングロードを走らせていると気になる(……といえば気になる)屋根の重さ。おそらく、筆者がCarerra T Cabriolet(992.2)に乗っていることも関係しているはず。

いやあんた軽々と加速すると褒めていたやんけ、とお叱りを受けそうですが、加速と旋回は別の話です。直線ならパワーで重量を補えます。しかしコーナーだとそうはいかない。車体の進行方向を変えるには、慣性と向き合う必要があるからです。

特に気になるのが左右の切り返し。

コーナーを抜け、反対方向へステアリングを切り込む。車体全体が向きを変える際に、上屋の重量をガッと感じるのです。フロントが曲がらない訳ではありません。狙ったラインへ正確に進む。それでもクーペの911で感じる、身体の動きと車体の動きがぴたりと一致するような軽快さとは明確に違う。

空冷911時代のTargaは手動でルーフ部分を外すだけでしたが、現在は電動で格納します。そのギミックがすごい。ものすごく目立ちます。

そりゃそうですよね。タルガには頑丈なロールバーがあり、大きなリアガラスがあり、そのガラス全体を持ち上げてルーフを収納する複雑なメカニズムまである。しかもそれらは車体の比較的高い位置に配置されている。重量増だけでなく、重心や慣性モーメントにも嬉しくない影響を与えてしまうのです。

これを単純に「フロントが重い」と表現するのはいささか乱暴に過ぎましょう。意識させられるのは、キャビン上部から後方にかけての質量です。車体の向きは素早く変わり始めるのに、その後から上屋の重さがついてくるような感覚です。

もちろん極端な挙動ではありません。通常の走行では気にならない程度です。

しかし同じ峠を何度も走り、コーナーの進入から脱出までを繰り返し確かめていくと、軽いクルマとの違いが浮かび上がってくる。

Targaだとこんなアングルからでも撮影できてしまうのです。この開放感は格別です。

面白いのは、重量を感じさせながらも、コーナリングの限界そのものは非常に高いことです。4輪のグリップは強大で、アクセルを開けていく際の安心感も大きい。鈍重どころか、この重量でなぜここまで走れるのか……と唸ることしきりです。

でもやはり軽快さはクーペに一歩譲る。

これは普段私が911 Carrera T Cabriolet(992.2)に乗っているからでしょう。

現在のフェル号ポルシェである、911 Carerra T Cabriolet(992.2)。ボディカラーはGTシルバーメタリック。

Carrera Tの魅力は絶対的な速さではありません。ステアリングを切り、荷重を移し、アクセルを開ける。その一連の操作に対する応答が実に素直で、自分の手足でクルマを動かしている感覚が強い。しかも7速と6速MTですから(Carrera Tが好き過ぎて、前期型と後期型の2台持ちなんですよ)、ギアの選択も自分の仕事です。

対してTarga 4 GTSは、多くの仕事をクルマが引き受けてくれます。変速も、駆動力の配分も、エンジンとモーターの協調もフルお任せ。結果として猛烈に速く、しかも安心して走ることができる。

Coupeの軽快さを選ぶか、Targaの開放感や独得の開閉機構を楽しむか(道行く人が目を丸くするほど凝っています)。つくづくポルシェは悩ましいクルマです。

性能という物差しなら文句なしにGTSに軍配が上がる。しかし、どちらが“FUN”かとなると、話は俄然ヤヤコシクなる。クルマの速さと運転の楽しさは、必ずしも比例しませんからね。

三国峠を2往復して分かったのは、Targa 4 GTSが速さと扱いやすさを極めて高い次元で両立させたクルマだということです。同時に、卓越したパワートレインをもってしても、車体の重さは如何ともし難いことを思い知らされました。

541PSあれば重量を感じさせずに加速できる。しかし541PSあっても、慣性の法則は変えられない(R35GT-Rとかね)。

ブラックのタルガバーが描くクラシカルなシルエット。大きく湾曲したリアガラス。そしてロボットが変身するかのような凝ったルーフの開閉機構。そこへ最新のT-Hybridを組み合わせる。何とも贅沢なクルマです。駐車場に停めたTarga 4 GTSを振り返ると、ついもう一度見入ってしまう。

試乗車の"Targaバー"はブラックでしたが、シルバーを選ぶこともできます。

541PSをもってしても隠しきれなかったのは、車体の重さだけではありません。

速さや合理性だけでは割り切れない、タルガというクルマの何とも不思議な魅力もまた、隠しようがなかったのであります。

Porsche 911 Targa 4 GTS 主要諸元

・全長×全幅×全高:4,555×1,870×1,305mm
・ホイールベース:2,450mm
・車両重量:1,745kg
・最高出力:485PS
・最大トルク:570Nm
・モーター出力:41kW
・システム出力:541PS
・システムトルク:610Nm
・トランスミッション:8速PDK
・駆動方式:4WD
・0-100km/h加速:3.1秒(スポーツクロノパッケージ装着時)
・最高速:312km/h
・タイヤサイズ:前245/35ZR20、後305/30ZR21

(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi & Toru Matsumura)