今回お送りするのは911 Targa 4 GTSの試乗記です。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回は「ポルシェ 911 Targa 4 GTS」の試乗記・・・をお届けする前に、元Targaオーナーとしての思いを述べさせていただきます。

911にはCoupeがある。屋根を開けて走りたいならCabrioletもある。

そしてそのどちらでもない「Targa」があります。ポルシェは60年以上の長きに渡り、この不思議な立ち位置のクルマを作り続けています。

「Targa」は決して販売の主力ではありません。屋根を開閉する構造は複雑で、価格も高い。そして欲しいと言っても、そう簡単に買うことができない。それでもTargaはなくならない。一風変わった911がなぜ生まれたのか。試乗の前にその話からはじめましょう。

911 Targaのお披露目は1965年9月のフランクフルト・モーターショー。当時も、そして現在もポルシェにとって最大の市場であるアメリカでは、自動車の安全規制を強化しようという機運が急速に高まっていました。問題になったのが、屋根を持たないオープンカーの横転時の乗員保護です。

ポルシェは2020年に公開した公式資料で、Targaは『米国市場で高まりつつあったオープンカーへの安全要求に対応するため』に開発され、当時あった『カブリオレを全面禁止すべきだという声』への回答でもあった、と説明しています。

そこでポルシェが考えたのが、“頭上を開放できる一方で、乗員の後方には頑丈なロールバーを残す”という構造でした。

ポルシェは2020年に公開した公式のTarga史のなかで、この初代モデルを「世界初のセーフティ・カブリオレ」と表現しています。固定式のセーフティバーを備え、前方のルーフ部分を取り外すことができ(今のように全自動ではなく、手でパカッと取り外すタイプです)、初期型では後方の樹脂製リヤウインドウまで開放することができました。

「Targa」という名前は、もちろんポルシェが数々の成功を収めたシチリア島の公道レース、「Targa Florio(タルガ・フローリオ)」に由来します。興味深いのは、必要に迫られて付けられたはずの太いロールバーが、その後のTargaのデザインアイコンになってしまったことでしょう。

このロールバーが「Targa」のアイコンであり、識別ポイント。

初期型の樹脂製リヤスクリーンはやがて固定式のガラスへ変更され、この独特のスタイルが長く続きます。ところが993以降、Targaは大きなガラスルーフを備えるモデルへと姿を変えました。いわば「タルガバーのないTarga」の時代です。ちなみに不肖フェルも997型のTargaに5年ほど乗っていました。後ろのガラスハッチが開く唯一の911で、それはそれは便利でありました。

そこから再び原点へ戻ったのが991世代。太いタルガバーと大きく回り込んだリヤウインドウが復活します。ただし屋根の扱いは初代とは大違い。巨大なリヤガラス全体が後方へ持ち上がり、その下へルーフ部分を電動で収納するという大掛かりな仕組みになりました(このギミックは非常にハデで、街中で開閉すると必ず写真を撮られます)。現行992も基本的にこの方式を継承しています。

991型以降のTargaは電動でルーフを格納するのですが、このギミックが非常にハデです。

ポルシェは2020年の992型Targa発表時、初代と同様に「特徴的な幅広のロールフープ、前席上部の可動式ルーフ、ラップアラウンド型リヤウインドウ」を備えることを特徴として挙げています。開閉時間は19秒です。

1965年に「オープンカーを安全に作るため」に生まれた構造が、60年後の現在では「わざわざTargaを買う理由」そのものになっている訳です。

今回お借りしたポルシェ 911 Targa 4 GTS。ボディカラーはカーマインレッド。

今回試乗したTarga 4 GTSは、その長い歴史のなかでもとりわけ面白い1台だと言えましょう。外から見れば、ぶっといTargaバーと大きなリヤガラスを持った、現行911のなかでもっともクラシカルな雰囲気を漂わせるモデル。

ところがリヤに積まれるエンジンは、992後期型、いわゆる992.2から911に初めて採用されたT-Hybridです。新開発の3.6リッター水平対向6気筒に電動ターボチャージャーを組み合わせ、さらに8速PDKの内部にもモーターを搭載。エンジン単体では485PS、システム全体では541PS、最大トルク610Nmという馬鹿力を発生させます。

901型のTargaと992.1型を並べると、当時のイメージを絶妙に受け継いでいることが分かります。

ポルシェは2024年のT-Hybrid発表時、このシステムについて「モータースポーツで得た知見を基礎に開発した」と公式に説明しています。つまり燃費を稼ぐために大きなバッテリーを積み、電気だけで何十kmも走らせるためのハイブリッドではない。電気の力を使って911をより速く、より鋭く反応させるためのハイブリッドという訳です。

60年前から続くTargaというスタイルに、911でもっとも新しいパワートレインを組み合わせる。この新旧の同居こそが、Targa 4 GTSというクルマの最大のウリでしょう。

さて、気になるお値段は?

今回の広報車は2025年モデルで、車両本体価格は2615万円。

今回お借りしたポルシェ 911 Targa 4 GTS。

そこへカーマインレッド29万6000円など、さまざまなオプションがてんこ盛りで、その総額は379万1000円。合計2994万1000円。惜しい!あとちょっとで3000万円。

繰り返しますが、このクルマは2025年式。2026年モデルは132万円高の2747万円。

さらにこの原稿を書いているいま、ポルシェジャパンが掲載している2027年モデルのお値段は2765万円。2025年モデルから150万円高と、順調に推移しています。オプションを入れれば楽勝で3000万を越えてきます。え?高い?なに。同じ時期のオルカンの上昇と比べればタダみたいなものですよ。しかもですね奥さん。3000万円用意すればそれで済むかと言えばさにあらず。Targaはただでさえ買いにくい現在の911ラインアップのなかでも、特に“買えないモデル”のひとつです。

今回お借りしたポルシェ 911 Targa 4 GTS。

もちろんGT3のようなモデルとは話が違います。しかし通常のカタログモデルだからといって、ポルシェセンターへ行き、「これください」「はいどうぞ」と簡単に商談が進むクルマではない。そもそもTargaは割り当ての少ないモデルで、そのなかでもGTSとなれば枠はさらに限られます。

コンフィギュレーターを開けば、誰でも好きな色を選び、好きなホイールを付け、好きなオプションを盛ることができます。ですが画面上で完成したからと言って、本物まで完成する保証はないのであります。

今回の試乗では東京から関越自動車道を走り北へ。試乗レポートは次回に。

そんな希少なTarga 4 GTSを借り出し、今回は関越道を北上しました。次号ではそのインプレッションをお届けします。

(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi & Toru Matsumura & Porsche AG)