「Porsche 911 Carrera T」は、マニュアルトランスミッションと純粋なドライビングプレジャーを体現するモデルだ。では、このクルマに足りないものは何だろうか。それはラップタイムだけかもしれない。実際にサーキットでその実力を確かめてみた。
※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。
数時間にわたって運転を楽しむには最高の1台——これは同僚のマヌエル・イグリッシュがベースモデルの「Porsche 911 Carrera」と比較したうえで、「Porsche 911 Carrera T」を評した言葉である。純粋なドライビングプレジャーを追求する911 Carrera Tの決定的な魅力は、その卓越したハンドリング性能にある。「ベビーGT3」と呼ばれることがあるのも決して偶然ではない。そして、「992.2」へのアップデートによって、そのポジショニングはこれまで以上に明確になった。
911 Carrera Tは、もはやストイックなドライバーのためだけの911ではない。「Porsche 911 GT3」の下位モデルとして唯一のマニュアルトランスミッション仕様となり、独自の存在感を放っている。この特徴は比較テストや年末レビューでも高く評価されたが、唯一欠けていたのが正式なラップタイムだった。そこで今回、再びステアリングを握り、ラウジッツリンク・サーキットでテストを実施した。
この911を知らない人のために概要を紹介しておこう。「T」は長年「ツーリング」を意味してきたが、実際には「純粋なドライビングプレジャー」の象徴といえる。394PSを発生する3L水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載し、軽量ガラスやリヤシートの廃止、遮音材の削減、軽量バッテリーの採用などにより、ベースモデルの911 Carreraより約40kg軽量化。GT系モデルを除けば、シリーズ最軽量仕様となっている。
リヤアクスルステアリングと軽量化の効果
標準装備のリヤアクスルステアリングによる重量増加は約5kgにすぎず、その影響はごくわずかだ。一方で、PASMスポーツサスペンションとダイレクト化されたフロントステアリングとの組み合わせにより、911 Carrera Tの車両重量は最軽量仕様で1,478kgとなる。実測では1,510kgで、以前計測したPDK仕様のベースグレード「911 Carrera」より49kg軽かった。
トランスミッションについても特徴がある。「Porsche 718 Cayman」のギアボックスではなく、従来の7速ユニットを改良したマニュアルを採用している。エクステリアは標準の911と大きく変わらないが、「T」には「Porsche 911 GTS」譲りの空力性能に優れたスポイラーリップが装着される。
インテリアでは、Hパターンのシフトレバーがデザイン上のアクセントとなり、その後方には「MT」のバッジを配置。これは「Porsche 917」や「Porsche Carrera GT」に着想を得た演出だ。ただし、15万ユーロ(約2,820万円)という価格を考えると、その他のインテリアの質感には物足りなさも感じられる。
| エンジン | 水平対向6気筒ツインターボ |
| 排気量 | 2981cc |
| 最高出力 | 290kW (394hp)/6500rpm |
| リッター馬力 | 131PS/L |
| 最大トルク | 450Nm/2000-5000rpm |
| トランスミッション | 6速マニュアルトランスミッション |
| 駆動方式 | RWD |
| 全長×全幅×全高 | 4542×2033×1293mm |
| ホイールベース | 2450mm |
| 燃料タンク/トランク容量 | 84/135L |
| 燃費 | 9.5km/L |
| テスト車価格 | 152,156ユーロ(約2,814万円) |
オプションのフルバケットシートは低い着座位置ながら身体をしっかりホールドし、タイヤ空気圧やエンジン回転数、速度など必要な情報を表示するメーター類や、手の届きやすい位置に配置されたシフトレバーとともに、停車中ですら操作する歓びを味わわせてくれる。
左側のスターターボタンを押すと、水平対向6気筒エンジンが力強く目覚める。標準装備のスポーツエキゾーストと遮音材の削減により、アイドリング時からメカニカルで荒々しいサウンドを響かせ、その印象は走行中も変わらない。こうした体験は、単なる「運転」という言葉では表現しきれない魅力を持っている。
ステアリングフィールは極めて正確で、新たなチューニングによって操作に対する反応はさらにシャープになった。高いグリップ性能を誇るピレリ製タイヤ、耐フェード性に優れたスチールブレーキ、スポーツプラスモードで作動するダウンシフト時の自動レブマッチングも相まって、完成度は非常に高い。
394PSというスペックに不足を感じる場面はほとんどなく、むしろ扱いやすい出力特性のおかげで、6気筒エンジンを高回転まで使い切りながらシフト操作を楽しめる。PASMスポーツサスペンション(車高10mmダウン)を装着しながらも快適性は十分に確保されており、コイルオーバーサスペンションを装着した「Toyota Supra」より快適に感じられるほどだ。
サーキットでは、その魅力がさらに際立つ。リミテッドスリップデフ、リヤアクスルステアリング、そしてピレリタイヤが絶妙に連携し、どのようなコーナーへ飛び込んでも狙ったラインを正確にトレースできる感覚を味わえる。
ギヤチェンジは連続加速中でも正確に決まり、ブレーキング時の自動レブマッチングも自然そのもの。精密なステアリングのおかげで、サーキットの限界領域まで安心して踏み込める。タイヤがスライドする場面でも、394PSという数値以上に自在なコントロール性を見せ、繊細な角度でドリフトを維持することさえ可能だ。
さらに大きなパワーが欲しいと思うだろうか。限界まで攻め込んでも、その必要性を感じる場面はほとんどない。
結論
軽量化されたボディ、緻密に仕上げられたシャシー、そしてマニュアルトランスミッション。「Porsche 911 Carrera T」は、卓越したハンドリング性能と純粋なドライビングプレジャーを高い次元で融合したモデルである。
価格は決して安くないが、専用ホイールやリヤアクスルステアリング、スポーツエキゾースト、スポーツクロノパッケージなどの装備内容を考えれば、その価値は十分に見合うものといえるだろう。
(Tex by Guido Naumann / Photos by Ronald Sassen)