全3回にわたるポルシェ 911 Turbo S(992.2)の慣らし運転の記事。今回が最終回であります。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回は宮崎〜東京まで1,103km(フェリー含む)&15時間を費やし「ポルシェ 911 Turbo S(992.2)の慣らし運転」を行いました。

当欄の愛読者諸兄は先刻ご承知でしょうが、初めて読む方に向けて今回の慣らし運転の背景をご説明いたします。

多くのメーカーが「今のクルマに慣らし運転は不要」と宣うなか、ポルシェは今もなお頑なに慣らし運転の重要性を訴えています。911 Turbo Sのオーナーズマニュアルには「走行距離3,000kmまではできるだけ長距離を走り、冷間始動と近距離運転の繰り返しを避け、エンジン回転数は4000rpmを超えないように」 と、ハッキリ明記されています。

最新モデルである911 Turbo S(992.2)の取扱説明書にも、慣らし運転に関する記述がしっかりと明記されているのです。

「下ろしたての新車でコンビニ往復のチョイ乗りを繰り返すことなんて、クルマにとってマジ最悪だから止めてよね」と言うわけです。その大切な慣らし運転をポルシェジャパンから依頼された不肖フェル。対象のクルマはまさかの911 Turbo S(992.2)であります。

最高出力が711PSという911 Turbo S。思い切りブン回したい。怒涛の加速を味わいたい。こう思うのは人情というものでしょう。

ポルシェジャパン広報部長 黒岩真治氏。

だがしかし。広報黒岩部長が提示した条件は「4,000rpm以上回しては絶対にダメ、急加速も急ブレーキもダメ、モータースポーツ的な走りも当然ダメ」。まさにダメダメダメの3連発。なんなんでしょうこの焦らしプレイ。黒岩さん、そのうち「吉野家に行っても牛丼を食うな」とか言いそうです。

とはいえ、そこは911 Turbo Sです。エンジンをブン回さなくても速いに決まっている。やりますよ長距離ノンストップ。こうして、横浜で受け取ったバリ新車の911 Turbo Sを、そのまま宮崎フェル宅へ乗っていくことと相成ったのです。

横浜から宮崎まで陸路1340km。所要時間15時間03分。

前回の記事では、「狂気の長距離・長時間イッキ乗り」の模様をお伝えしました。

今回は宮崎に到着した911 Turbo Sを南国の一般道へ連れ出した様子をお伝えします。

911 Turbo Sの別の顔を探るべく、宮崎では大雨や落ち葉、濡れた峠道でも試乗を実施。

大雨、落ち葉、濡れた峠道。高速道路を淡々と走る往路では見えなかった、911 Turbo Sの別の顔を探るためです。加えて東京への復路は、国道九四フェリーで四国へ渡り、淡路島、神戸を経由するルートを選びました。

往路が「ポルシェを慣らす旅」ならば、復路は「人間が911 Turbo Sに馴染む旅」とでも申せましょう。

長い長い往路。宮崎フェル宅に着いたのは午前4時08分。

往路だけでも片道1340kmを走破!横浜から宮崎は遠い……。

横浜を出てから15時間03分。オドメーターは194kmから1534kmへ。往路だけで1340kmを走ったことになります。慣らしの第一歩としては満点でしょう。

とりあえず911 Turbo Sをガレージへ収めます。隣にはフェル号ポルシェこと、911 Carrera T(992.1)。その右には今回の試乗車、911 Turbo S(992.2)。同じ911ですが、こうして並べるとまるで別の生き物のようにも見えてきます。

宮崎フェル宅にあるフェル号ポルシェこと、911 Carrera T(992.1)とご対面。

911 Carrera Tは左ハンドルのMT車。いわば「気楽な相棒」です。余計なものを削った「走る道具」です。対する911 Turbo Sは、最高出力711PSというパワーユニットを積んだ4WDの怪物マシン。

911 Turboの魅力といえば大きく張り出したフェンダー。やはり迫力が違います。

見た目からして只者ではありません。大きく張り出したフェンダー。極太のタイヤ。獰猛に口を開くフロントまわり。それでいてそこはかとない上品さを保っているのは「さすがポルシェ」と申せましょう。

宮崎では海沿いのワインディング、市街地、郊外路、そして山道をたっぷりと走り込みました。なかでも印象的だったのは雨の山道です。

雨のなか、911 Turbo Sを試乗。高速道路を淡々と走る往路では見えなかった一面を知ることとなります。

これがなかなか強烈でした。南国の雨は遠慮がありません。路面は黒く光り、山肌から水が流れてくる。そこへ大量の落ち葉です。茶色い葉、緑の葉、細かい枝。それがカーブの出口にまで張りついている。濡れ落ち葉は本当によく滑ります。2輪で油断をすると簡単にコケる状況です。ましてや最高出力711PSの911 Turbo S。不用意にアクセルを開けるとズルっと行きそうです。

ところがこのクルマ、実に淡々としているのです。ていねいに速度を落とす。荷重が整ったところでステアリングを切る。フロントがクッと向きを変える。アクセルを踏み込むと、リヤは暴れず、4つのタイヤが路面を探りながらクルマ全体を前へ押し出していく。

911 Turbo Sを運転していると、雨の峠でも、海沿いの道でも、市街地でも、常に一段上から状況を見ている感じがあるのです。

危うい場所では危うさをドライバーにキチンと伝え、何事もなかったように通過する。

情報の出し方が本当に巧みです。

後日ドライな路面の山道も堪能しました。4,000rpm以上の封印は決してストレスになりません。3,000rpm以下でも十二分に速い。フェル号ポルシェこと、911 Carrera Tはもっと自分で走らせている感覚が強い。クラッチを踏み、ギアを選び、エンジンの回転を合わせ、クルマと一緒に汗をかく感じがある。あれはあれで最高です。一方の911 Turbo Sは汗をかかない。

雨の峠道でも、海沿いの道でも、市街地でも、常に一段上から状況を見ている感じがある。これだけの性能を持ちながら、コンビニにも入り、温泉にも行け、ガレージでは隣の911 Carrera Tと何食わぬ顔で並んでいる。この「普通に使える特別」は、911 Turbo Sならではのものでしょう。

宮崎から東京までの帰路は九四フェリーを使うことに。宮崎から大分方面へ上がり、佐賀関から三崎へ。そこから四国を走り、淡路島、神戸を経由して東京へ戻るルートです。

宮崎からの復路は九四フェリーを使うことにしました。宮崎から大分方面へ上がり、佐賀関から三崎へ。そこから四国を走り、淡路島、神戸を経由して東京へ戻るルートです。

フェリー乗り場で並んでいると、人がわらわらと寄ってきます。「すごいクルマですね」「写真撮っても良いスか?」。一躍人気者です。いや僕のクルマじゃないんですけどね。

フェリー乗り場で目立っていた911 Turbo S。船内でも目立ちます。

目の前には船の大きな口。係員の誘導に従い、低い鼻先をそろそろと船内へ入れていく。周囲には軽自動車、ミニバン、トラック、バイク。そこに911 Turbo Sが混じる。

これってなかなかシュールな光景です。

いよいよ下船。

四国に上陸し、淡路島へ抜ける。明石海峡大橋が見えたときには、ようやく日本に戻ってきた気がしました。いや宮崎も日本なんですが。

明石海峡大橋をバックに。ここからひたすら東京の自宅を目指します。

復路の移動ログは1134.3km。オドメーターは2327.0kmから3430.0kmへ(フェリーに乗った分、実走距離との差が生じています)。宮崎フェル宅を出発した時刻は朝5時53分、そして、東京の自宅に到着したのは21時21分。所要時間15時間28分。

フェリーで楽をしたつもりでしたが、結局この日も15時間半かかりました。やはり宮崎は遠いです。ただ、これだけの距離を走っても、911 Turbo Sに対する印象は最後まで崩れませんでした。

今回の慣らし運転(復路編)の走行データは以下のとおりです。

今回のログをスクリーンショットしたもの。

●走行距離(ODO / TRIP)
・ODO(出発時):2327.0km
・ODO(終了時):3430.0km
・TRIP:1,103.0km

●日時・時間
・出発日時:2026/05/10 5:53
・終了日時:2026/05/10 21:21
・所要時間:15h 28m

●速度・高度
・最高速度:111.3 km/h
・平均速度:71.3 km/h
・最高高度:463 m

●START
・日時:2026/05/10 5:53
・場所:宮崎県、宮崎市
・走行距離:2327.0km

●ルート詳細
・05:53 宮崎島之内線
・06:02 =====
・06:04 一ツ葉有料道路
・06:10 佐土原バイパス
・06:10 広瀬バイパス
・06:13 春田バイパス
・06:17 東九州自動車道
・06:18 =====
・06:18 東九州自動車道
・07:56 =====
・07:58 国道502号線
・07:58 =====
・08:02 熊崎バイパス
・08:10 下ノ江バイパス
・08:13 国道217号線
・09:09 =====
・10:08 佐田岬三崎線
・10:21 =====
・10:22 国道197号線
・10:56 =====
・10:56 名阪道路
・10:58 大洲・八幡浜自動車道
・11:02 国道197号線
・11:11 国道56号線
・11:13 松山自動車道
・11:18 =====
・11:19 松山自動車道
・12:52 高知自動車道
・12:54 徳島自動車道
・13:47 =====
・13:48 あいおいロード
・14:07 高松自動車道
・14:12 神戸淡路鳴門自動車道
・15:15 山陽自動車道木見支線
・15:20 山陽自動車道
・15:29 新名神高速道路
・15:46 箕面トンネル
・15:48 新名神高速道路
・15:50 竜王山トンネル
・15:50 新名神高速道路
・15:51 安威川橋
・15:52 新名神高速道路
・15:54 新名神高速道路(高槻…
・15:56 名神高速道路
・16:22 =====
・16:22 新名神高速道路
・17:06 伊勢湾岸自動車道
・18:10 新東名高速道路
・18:24 =====
・18:27 新東名高速道路
・18:41 引佐トンネル
・18:42 新東名高速道路
・18:54 宮ヶ島高架橋
・18:55 新東名高速道路
・19:32 新安倍川橋
・19:33 新東名高速道路
・20:03 東名高速道路
・20:56 環八通り
・21:06 城山通り
・21:14 成城富士見橋通り
・21:21 1,134.3km / 3,430.0km

今回はあくまでも「慣らし運転が目的」なので、911 Turbo S本来の見せ場はほぼ味わえず。それでも強烈な印象を残してくれました。

今回の慣らし運転では、4,000rpm以上は封印。急加速も急制動も避ける。全開加速も、最高速確認も、サーキット走行もなし。つまり911 Turbo Sの分かりやすい見せ場は、ほぼすべて封じられていました。それでも印象は強烈です。

ドライバーが操作する前に、クルマの側(911 Turbo S)が準備万端で待ち受けているのが分かります。

雨の宮崎では、濡れた路面と落ち葉の上でトラクションの緻密さが見えました。ドライの山道では、重さを感じさせない姿勢制御と、4輪が路面を掴む安心感がありました。高速道路では、速度を上げなくても車体の据わりと直進性の良さが伝わってきます。市街地では、これだけの性能を持つクルマが、拍子抜けするほど普通に扱える。

ここに911 Turbo Sの本質があります。

911 Turbo Sは、ドライバーに腕前を誇示するクルマではありません。クルマと格闘する楽しさとも少し違う。ドライバーが操作する前に、クルマの側が準備万端で待ち受けている。

911 Turbo Sとは「非日常を日常に落とし込むためのクルマ」なのです。

路面、荷重、駆動、制動、姿勢。そのすべてを高い次元で管理し、何事もなかったかのように走らせてしまう。それなのに「乗せられている感」がなく、自分でコントロールする感覚は十分に残っている。刺激を過剰に演出していないのです。

意外だったのは、慣らし運転という制約が、911 Turbo Sの評価を狭めなかったことです。

エンジンを回せない。アクセルペダルを踏めない。結果、派手なことはできない。こうなるとクルマの素性だけが残ります。パワーで誤魔化せない。音や加速で煙に巻けない。雨の道をどう走るか。長距離で人間をどう扱うか。低速でギクシャクしないか。日常のなかで浮き過ぎないか。そうした部分が顕になります。

長く付き合えば付き合うほど、911 Turbo Sの素性の良さを実感できるはず。それこそがこのクルマのオーナーにのみ許される「特権」でもあります。

欠点を挙げるなら、「出来過ぎ」ということでしょうか。優等生に過ぎるというか。

ですがこれを「味が薄い」と切り捨ててしまうのも乱暴です。

分かりやすい刺激ではなく、長く付き合ってジワジワと良さが分かってくる素性の良さ。

911 Turbo Sは、非日常を日常に落とし込むためのクルマなのだと思います。

911 Turbo Sとは「非日常を日常に落とし込むためのクルマ」なのです。

ポルシェジャパンから託された慣らし運転は、これにて終了です。

同業のみなさま。以降は思い切りエンジンをブン回してくださいませ(笑)。

最後に、全3回の1回目および2回目の記事のリンクを張っておきます。

(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi & Toru Matsumura)